しんしんと。
静かに雪が降り積もる。
「寒かねぇか?」
白い息を吐きながら問うた、黒くて大きな背中に、首を横に振ってみせる。
「大丈夫です、黒鋼さん。」
「そうか。」
この国は、とても雪が多い。
それでもこんなに雪に閉ざされているのは、1年のうちでほんの1ヶ月だけなんだと聞いた。
たった1ヶ月の間に、1年分の雪が降るかのよう。
だから降る量も半端ではないのだと。
宿の主人が苦笑いしながら言った。
この国では、もうすぐ『聖人』とされている偉人の誕生日が来るのだとかで、お祭りムードが漂っていて。
広場に出店を出しているご主人の手伝いをする、という事でファイさんと小狼君が行くことになった。
ニコニコ愛想のいいファイさんと、ニコニコ笑顔の小狼君。
「まあ黒様にはムリだねぇ〜〜。」
眉間に皺を増やした黒鋼さんと追いかけっこをしていたけれど。
結局私と2人でお留守番。
最初こそお互いにぼんやりしていたけれど、2人とも暇を持て余してしまって。
庭の雪かきでもしようかということになった。
庭といっても、入り口までの通路になっているから、雪が無い方が良いに決まってる。
だけど。
基本的に雪かきをしているのは黒鋼さん。
私はスコップを雪に取られてよろよろしたり。
私が1やる間に黒鋼さんは10も20も進んでいく。
私って。
本当に役に立たない。
「姫、『雪だるま』作れるか?」
唐突な問いの意味がわからなくて。
首を傾げたら、その辺の雪を取ってちょいちょいと丸めて。
2つ、重ねた。
「これのでかいのを作るんだ。雪玉を転がしてな。」
ちょっとした飾りになる、というので。
「やってみます!」と返事をした。
最初こそ上手く転がらなかったけど、だんだん上手に転がせるように――――――――。
「・・・・黒鋼さん・・・・・。」
「あ?」
「・・・・・重いです・・・・・・。」
黒い影の、大きな、でも少し遠慮するようなため息。
初めて『雪』が、実は『水』と同じだと知った。
「根性入れてやれ。」
半ば見捨てたような言葉を残して、再び雪かきに没頭していく。
少し、悲しくなった。
「出来たみたいだな。」
とにかく夢中になって。
転がして回った結果の雪玉。
よいせ、と小さい方のを乗せてくれた。
「・・・わぁ・・・・・。」
テーブルの果物籠からちょっと拝借して。
眼に赤いリンゴをはめた。
(黒鋼さんみたい。)
炭で鼻と口をセットして、バケツを頭に被せる。
「できた!!」
手を叩いたはずなのに。
何故か感触がない?
「姫。」
声がかかった方を見れば。
「・・・・黒鋼さん・・・・これ・・・・・?」
大きな雪山が出来ている。
そしてそこには入り口のようなものが切ってあって。
中に黒鋼さんが座っていた。
「入ってみろ。」
「・・・・はい。」
入り口は狭かったけど、中は意外と広い。
真ん中には宿の居間から持ってきた火鉢が置いてあって、水が入った鍋が上に置いてあった。
「いい塩梅だな。」
ひょい、と鍋に手を入れて、ぐるりとかき回して。
手を入れろ、と促された。
(鍋に?!)
と思ったけど。
そっと入れてみると、じんわりと温かい。
(温かーい・・・・・。)
何だかほんわかした気分になる。
冷たかった手がお湯と同じくらいに温かくなって――――――。
「か・・・・・・痒い・・・・・・!」
何だかじんじんとしてきて。
とても痒いのだけど、でも掻いちゃいけないって思ってしまって。
――――――――でも、痒い。
「だから手袋外すなって言ったんだ。」
お酒をちびりちびりと飲みながら、少しむすっとした様子で黒鋼さんが言った。
「手がしもやけになってんだ。しばらくは痒いぞ。」
「ふぇ〜〜・・・・・・・・。」
鍋のお湯はだいぶ熱くなってきた。
私が言う前に黒鋼さんが火から降ろしてくれる。
少しずつだけど、痒みは収まってきたみたい。
「外・・・だいぶ暗くなってきましたね。」
いつの間にかずいぶん時間が経っていた。
黒鋼さんが、壁に作られたくぼみに燭台を置く。
ポッと。
小さな火が点り、灯りが燭台に立てられた。
(・・・・・・綺麗・・・・・。)
小さな、小さな灯りなのに。
これはどうしてこんなに綺麗なんだろう。
柔らかな光に映し出されるその横顔は。
――――――――『護ってくれる』人。
「黒鋼さんって優しいんですね。」
「はぁ?!」
まん丸になった目が何だかとてもおかしくて。
いけないとは思いつつ笑ってしまった。
「ただいま〜〜・・・って、わぁ〜〜これ何〜〜?!」
「モコナ知ってるー!!これ『かまくら』だよねー!!」
「黒鋼さん、姫、入っていいですか?」
「おぅ。」
「どうぞ!お手伝い、終わったんですね?」
皆が入るとさすがに狭い。
手はもう痒くなくなったから、お鍋は外に出した。
火鉢に手をかざしている小狼君とファイさん。
モコちゃんは『黒鋼の背中が暖かいのー♪』ともぐりこんで嫌がられてる。
みんな、みんな。
大切な、『仲間』。
『自分にできること』を。
『自分がしなければならない』事を。
一生懸命にやる、大切な人たち。
でも、黒鋼さん。
貴方には『護られたい』と思ってしまうのは――――――――。
間違いでしょうか?

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