<クリスマス企画小説>

   「 追 憶 」




きざはしから手を伸ばせば。
真綿のようで、でも儚い雪が手にかかる。
この雪は、消えることなくやがて降り積もるだろう。
(魔道宮にはあまり雪は降らなかった。)
今はただ懐かしいだけの故郷。
哀しい想い出ばかりが先行する、故郷。
母なる国が時の流れの果てに消え――――――――いや。
『魔界の結界』の中に封印されてから、どれほどの時が流れたのか。
もはや自分でも数える事が叶わぬほどに。
『あの時』己の中にやってきた『時の魔女』。
自分と同じく、無理やりに『闇の魔王の眷族』にされたその存在。
今はその袂を別ったが。
その存在もまた、懐かしき己が住処、『時の迷宮』で。
心安らいでいるのだろうか。


「諏倭は結構雪が降る。」
黒き疾風かぜは自分を包み込むようにしながら語った。
人の行き来も絶えるほどになる事もある、と。
だから、雪を見ると思い出すのだと。
「こんな雪なんぞに負けるな。」
そう言って振り返ってにやりと笑った父を。
「こんなに冷たい手をして・・・・・早く火の側にお寄りなさい。」
心から心配そうな顔をして、自分を火鉢の方へ誘った母を。


懐かしい想い出のその一カケラ。
時間こそ違え、同じ人を私は知っている――――――――。
その時の2人は若く、夢と希望に満ちていて。


その『夢』と『希望』を打ち砕いたのは、私自身――――――――。


「お前のせいじゃねぇ。」
そう言って、包み込むその腕に力を込めてくる。
「それこそ『必然』って奴だったんだろうさ。何もかも・・・俺とお前が出会う為の。」
黒き疾風かぜは何処までも温かく。
『護られる事』が面映い。
自分は『護る』側だったから。
そして、これからも。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


しゃらん。
それは、愛らしきかおの主の姫が、その髪に挿す簪の音。
何か御用がお有りなのだろうか。
そうでなければ雪の降るこの寒空の下、わざわざご神木の所にお出向きになる必要は有るまい。
「・・・貴女は一体何度言えばわかるのですか?」
その怒ったような口調に少し驚いた。
「知世姫?」
「このような寒い所に長時間突っ立っているなど、身体に障ると何度言えば。」
――――――――あぁ、その事か、と。
見た目ほど寒さは感じないのだが。
―――――私の周りの気温は常に一定だから。
でも、今は。
「申し訳ございません、知世姫。」
「まったく・・・・。貴女に何かあったら、あの黒くてでっかい忍者がうるさくて敵いませんのよ。」
半分は本音であろう言葉を紡ぎだして。
早く中に入れと促される。
主に仕える身、ここはお言葉に従うが道理。
ふと気付けば、くだんの黒き疾風かぜの気配がそこにある。
それは、とても怒りを含んでいて。
「・・・いい加減にしやがれ。」
ぼそり、と。
低い声がその怒りの深さを感じさせる。
《 皆気にかけておるのですぞ。己一人の身体ではないと御自覚召されよ。 》
ナーガが、半ばとりなすかのように言葉を紡ぐ。
そう。
私は、『わかっていない』のかもしれない。
『その事』の重大さを。


命を削る事しか考えなかった私にも。
出来るというのか。
新たな命を生み出すという事が。
――――――――『母』になるという事が。


聖者の母となりし人よ。
どうか導きたまえ。
何も知らぬ道へ進もうとするこの我を。
『自分にはできぬ事』と信じてさえいた、その道へ。
――――――――どうか・・・・。


静かに、静かに雪が降る。
その降りしきる白き雪の如く。
――――――――いや吉事よごと・・・・・・・・。



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クリスマス企画第7弾は、お嬢(=リアン)の独白です。

日本国に来て2回目の冬。
この年の3月に結婚して、ようやく子供を授かった、という設定です。
ちなみに予定日は次の年の5月ー♪


リアンにとって、命の連鎖を自分が担う事になるなど、想像もつかないことだったでしょう。
国の存亡をかけて政略結婚させられそうになりましたが、それもおじゃんになってますし。
『国の護り手』であっても、『国母』ではなかったあたりが、原因かと。
まあこれでとりあえず名実と共に「おとーさん」と「おかーさん」になります。(笑)


最後の一文。
本当は新年を詠った歌ですが。
個人的に好きなので引用しました。
出典元はあまりにも有名なんで明記しなくても・・・とは思いましたが、一応。
万葉集、巻第二十(これで「はたまきにあたるまき」と読みます。)の巻末の歌で、4516番。
編者でもある大伴家持の歌です。

           作者・シュウ   2006.12.25UP

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