「秋・・・ですか?」
サクラは首を傾げた。
その反応に、ファイも首を傾げる。
「あれ?」
「え?」
「もしかして・・・・サクラちゃん、『秋』を知らないの?」
「『秋』って・・・なんですか?」
(そりゃあ根本から教えねぇとダメだろう。)
意外にも、魔術師はサクラと『季節』の話はした事が無かったようだ。
(俺ですら話した事があったのに。)
その意味では何処か優越感すら感じて。
もっとも、黒鋼とて、その時話したのは『春』の話だったのだが。
――――――――そう、砂漠の姫と名前を同じくする、日本国の花の話を。
その話をした時、サクラの目はとてもキラキラしていた。
美しいものの話をすると、その煌きは一段と輝きを増す。
砂漠の国、玖楼国には、日本国ほどの顕著な季節の変化は無い。
それ故に、黒鋼の話は、とても魅力にあふれたものであるらしかった。
「そうっかー・・・・。玖楼国には、『秋』っていう物が無いんだね?」
「はい・・・たぶん。」
ちょっとだけ寂しそうな顔をして。
「『秋』っていうのはねー、『夏』と『冬』の間の季節なんだー。」
ファイもまた、思い起こすかのように。
「暑くもないし寒くもない。とても過ごしやすくてね。作物などがよく実る季節でもあるんだよー。」
「そうなんですか・・・・。」
「玖楼国には『夏』と『冬』はあるの?」
「あ、はい。」
砂漠にも。
「ごく稀ですが、『雪』が降ることもあるそうです。・・・私は、見たことないけど。」
兄王は幼い頃に見た事があるのだという。
それがとても羨ましかったのを思い出す。
「『冬』があるなら、ほんの少しだけど『秋』もあると思うよ。とても短いんだろうけどね。」
それは、諭すように。
「ちょっとだけ気温が下がって、過ごしやすくなる時があったら、それがそうだと思うよ。」
『秋』を知らぬ、砂漠の姫。
護られて、蝶よ花よと育てられ、暮らしてきた姫にとって。
『砂漠の秋』は、どのように認識されるのだろうか。
「この国は、今が『秋』。皆が皆同じではないけれど、こんな感じだ、って覚えておくといいかもね。」
ファイの言葉にサクラは頷いた。
「『秋』はね、『夏』に一杯お日様を浴びた作物がその恵みを実らせる時。だから秋はご飯が美味しいんです〜〜!」
当たってるのか当たっていないのか解らないような持論を展開して。
サクラの目の前に、コトリと置いたのは。
「秋の木の実を使ったクッキーだよ〜〜。」
サクラちゃんの『秋』だね♪と言いながら。
「いただきます。」
美味しそうにクッキーをつまむサクラに微笑んで。
ファイは小狼に目を向けた。
「小狼君の『秋』って何?」
「え?俺の、ですか?」
咄嗟に聞き返した小狼だったが。
う―――――ん、と考えて。
「・・・『読書の秋』かも・・・・・。」
「やっぱりねえ。」
全くもって、予想の範囲。
本が大好きな、小狼。
秋の夜長は、殊の外少年にとって素晴らしい意味を持つのだろう。
読みふければ、鶏鳴を聞く、なんてこともザラであったろうと。
「夜更かしした翌日は、何時も父さんに発掘に行くのを止められました。」
懐かしい、想い出。
優しい面影が、脳裡に浮かぶ。
「寝不足の頭では思考がいざって時に働かない。もちろん身体もそうだからって言われました。」
発掘現場は、危険と隣り合わせだから、と。
それだけ気を遣っていたにも拘らず、藤隆は命を落とした――――――――。
『その時』救えなかった『自分』がどうにも悔しくて。
顔を伏せてしまった小狼に、ファイは心の傷に触れてしまったのだと思い至る。
ただ、黙って。
温かなミルクティーを淹れて前に置いた。
「・・・ありがとうございます。」
その寂しげな微笑が、小狼のもつ『危うさ』を予感させて。
ファイはふっと眉を顰めた。
「・・・てめぇの『秋』は、どんなのだ?」
その場を救うように。
投げかけられた問いに、へにゃリ、と表情を崩す。
「オレんとこはとにかく寒い国でねえ〜〜『夏』なんてほとんど無いんだ〜〜。」
自分と黒鋼にも、紅茶を淹れながら。
それは、思い起こすように。
「だから『秋』もほとんど無いよ〜〜あっても数日かな?」
「短いんですね・・・。」
「うん――――――でもだからこそ愛しい、って思うよ。」
『秋』を祝って。
人々は歌い踊り、そして祈るのだと。
来たるべき冬が、どうか穏やかであるように。
セレスの風が――――――ふと、吹いた気がした。
想い出に暫しその身を委ね。
目を開ければ、そこはいつもの魔術師の顔になる。
「で?黒様の『秋』は?」
紅茶にブランデーをかなり多めに入れて差し出した。
それを混ぜながら呟くように答える。
「色々あるな。まあ、空気が澄んで綺麗だから、月見なんてのは趣がある。・・・酒も美味いしな。」
「黒たん・・・・結局お酒が飲みたいだけでしょー?」
「秋の夜長なんてのは酒を飲む為にあるんだ。」
それって絶対違うー!と言うファイの抗議をあっさり却下して。
紅茶にブランデーを追加する。
「・・・ほとんどお酒ですよ?」
「いいんだよ、これで。」
小狼のお伺いにも動じない。
ゴクリ、と喉を鳴らして飲んだところに、ドアが開いてモコナとリアンが入ってきた。
「ねえねえ、何の話ー?」
モコナが小狼に飛びついて訊ねた。
「皆にとって『秋』ってどんなのか?っていう話だよ。」
「へー!」
「じゃあモコナにとって『秋』って何?」
ファイが顔を寄せて聞けば。
モコナはエッヘン!とふんぞり返って言い放った。
「もちろん、『食欲の秋』!!」
「・・・解っちゃあいたがな。」
あまりにも『お約束』な答に、皆から苦笑が洩れる。
「『秋』はとにかく食べ物が美味しいの!!だから一杯食べるの!!」
「ぜっってぇ太るな、お前。」
「太らないもん!!」
「『白まんじゅう』が『鏡餅』になるぞ。」
「モコナ、そんなに太らないもん!!」
黒鋼にゲシゲシ!と、空中戦を展開するモコナに、小狼がわたわたと止めに入る。
「ほぉ〜〜〜白まんじゅう、そんなに刀の錆になりてぇか?!」
今にも蒼氷を抜刀しそうで。
まあまあ、となだめるファイの顔は、笑っている。
サクラはくすくすと笑いを零し。
モコナと黒鋼はにらみ合いを続けていた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
貴女にとって、『秋』ってなんですか?
何とか騒ぎが収まり、皆が寝静まった宿の庭で。
独り佇んでいたリアンに小狼は尋ねた。
秋、か。
微かに紡がれた答に、小狼は心が震えるのを確かに感じた。
それは、魂の奥底から揺さぶられるような。
自分と同じような、確固たり得ぬ存在である、その人の。
心が締め付けられるようで。
それは。
物陰から見ていた、黒き疾風にとっても。
同様に見ていた白き魔術師にとっても。
重苦しく、心に沈む、『時』の重圧。
落日、かな・・・・・。
己の持つ、その瞳の色にこそ。
その人の『秋』はあったのだ、と。


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