――――――――あれは。
(何時の事だっただろう。)
初めて見たその花は。
うっすらとしたピンクの花びらを一杯に開き。
風に乗って散り急いで。
辺り一面を桃源郷に変えていた。
「――――――――先生、これが『桜』です・・・・・。」
―――――――――――――― * ―――――――――――――
あの時、『彼』は言った。
見せたいものがあるんです、と。
久しぶりに訪れた、この『世界』。
目的はただ1つ、『彼』に会う事。
――――――なんだか、これが『最後』である気がしたから。
それだけですぐに『移動』するつもりだった。
しかし、『彼』は。
引き止めたのだ――――――長く願い続けてきた事を果たしたい、と。
そして、ある1軒の家にやってきた。
たたずまいは、周りとはかなり違っていて。
ただそこには、大きな魔力を感じる事が出来た。
「此処は、私が認めるに足る魔力の持ち主の家です。」
そう言って、門扉を開いた。
「ここの主を『必要としない』者は、この家を見ることもできません。」
それはそれで一種のこだわりのようなものも感じられて。
「そういう考え方は、嫌いではないな。」
私の言葉に、『彼』はとても嬉しそうに口元をほころばせた。
「こっちです。」
案内されたのは、裏庭の方。
そこに在ったのは――――――――。
「これは・・・・・すごいな・・・・・。」
そこだけ世界が違うかのように咲き誇る『桜』。
「私の・・・故郷にもありますが、この国の『桜』には叶うべくもありません。」
共に見上げて。
それは遠き故郷を想うのか。
メガネの奥で、柔らかな光がつかの間の煌きを見せる。
それは、桜色に染まって。
「是非一度、先生にもお見せしたい―――――ずっとそう思ってました。・・・よかった、見ていただけて・・・。」
何故『そう』思ったのだろう。
何故、『見せたい』と思ったのだろう。
今となっては知る由もない。
風は、何処までも柔らかで。
そして終焉の色をも滲ませていた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
この街には。
(強い魔術師がいるな。)
大きな魔力を感じる。
しかし害意は無い。
当面関わる必要はあるまいと判断する。
目の前を、ふっと何かが横切った。
「?」
誘われるように。
1軒の家に入り込んだ――――――――。
「・・・あ・・・・・・・。」
そこには。
満開の桜が。
はや散り急ぐその姿。
あの時に見た、桜と同じ。
『同じ』木ではないが、その奏でる風が同じ音色と知る。
暫し、聞き惚れて。
桜色の風に、染まった。
「――――――――まさか――――――――先生・・・・・?!」
唐突な、声。
明らかに驚愕の色を見せる、声。
しかしその声は『少年』のもの――――――――。
年端もいかぬ少年に『先生』と呼ばれる覚えは無い。
振り返った視線の先に、呆然と佇んでいたのは。
「・・・・・・・・クロウ?」
それは、かつての『弟子』と同じ気配。
しかし、その『弟子』は、既に幽明境に入った。
――――――――ならば、この『少年』は?
「この姿では『初めまして』ですね・・・・今の名前は『柊沢エリオル』といいます。」
「・・・転生、したのか?」
「はい。・・・といっても、魂の半分ですが。」
残り半分は、別の人間に『分けた』のだと。
「紹介しましょう。『スピネルサン』と『ルビームーン』です。」
蝶の羽を持つ人型の使い魔と、黒ヒョウのような使い魔。
「ケルベロスとユエはどうした。」
「あれは私が残した『カード』の守護者として、その持ち主の許に。」
「・・・そうか。」
ひらり、ひらり。
「『桜』を見にいらしたのですか?」
「いや・・・・・・ん・・・・そうかもしれない、な・・・・・。」
自分でも、曖昧な答だ、と思う。
少年は覗き込むように、じっと見つめてきた。
「どうした、クロウ。」
「今は『エリオル』です。・・・・・・・先生。」
その声が、何処か凍るような気がするのは。
「・・・先生・・・・後悔、しておられますか・・・?」
『彼』を選んだ事。
『彼』を選ばなかった事。
そう、全てを。
「いや。・・・後悔など、してはいないよ。」
少年は。
『かつて共に在った時』と同じ、柔らかな微笑みを浮かべた。
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