<14141HIT記念 キリ番リクエスト小説>

    「Are you up to mischief of a crab?」




「・・気持ちいいねー、海の風って・・・・。」
それは、パラソルの下で昼寝を決め込んでいる人に向かって。
「・・・俺の居たセレスって国はねー、すごく寒いから、こんな風に浜に寝っ転がるなんて絶対になかったんだよー・・・。」
さして遠くもない、過去の追憶。
そしてそれは、キリのように、痛みを伴って己が心に突き刺さる。
そうと知りながら、なおも語るのは。
それを聞く人もまた、遠い遙かな過去に『故郷』を失った彷徨い人であるからか。
応えが無いと知りつつも。
なおも口に上せてしまうのは。
『何処か』で『同じ』と思っているのだろうか。
――――――――この人、と。


ターフの下は、優しい日陰となっていて。
シートの上に腹ばいになって寝そべれば。
砂の温かさがほんのり、じんわりと伝わってくる。
故郷で。
得られる事のなかった『ぬくもり』であるような気がして。
自分の目に熱くこみ上げてくるものを見られないように、顔を伏せる。
おどけたようにポーズを変えてみたりもするけれど。
もし『見られて』いるならば。
きっと、全て見抜かれているだろう。


温かい。
温かい。
枕代わりのバスタオルの上で。
金糸がこぼれて光を弾く。
風がそよ、と流れて。
ふと顔を上げた、夕闇色の瞳は、氷の魔術師ウィザードが眠る姿を視界に捉えた。
温もりに満たされて。
その顔は、とても満足そうで。
その顔は、まるで幼子のようで。
静かに立ち上がり。
他のバスタオルをふわりとその背にかける。
それは――――――――。
母の、温もりにも似て。



―――――――――――――― * ―――――――――――――


その頃、小狼は。
沖の小島の方にボートを出し、海を知ることなく育った砂漠の姫の要望に応えて何度も潜って。
珍しい貝などを拾い集めて。
翠玉の瞳が嬉しそうに煌くその様を、ただただ喜びのうちに見つめていた。
ふと太陽の角度に気が付いて。
「姫、そろそろ戻りましょう。」
「・・あ・・・うん・・・・・。」
本当は、もっと。
だが結構な時間が過ぎていた。
動き始めたボートから、名残惜しそうな視線を水面に投げかける。
その様が、どうにも愛しくて。
小狼は表情の綻ぶのを押さえきれずにいた。


巧みなオール捌きで、ボートは進む。
途中にある小島に、1人で降り立った黒鋼を迎えに立ち寄った。
「土産だ。」
ボートに乗ってきざまに、ひょい、と手渡されたのは。
「・・・真珠・・・・!」
天然の物ゆえか、少し形はいびつであるけれど。
その光沢はまさしく真珠の、それ。
「日本国の真珠貝に似たのがあったんでな。」
ガシガシと頭を掻いて、小狼からオールを受け取り、漕ぎ始める。
そのスピードは元々小狼より速いのに、何だかさらに速いような気がした。
それは、漕ぎ手の心、そのままに。


************************************************


「ファイー!そろそろ起きてー!皆帰ってくるよー!!」
モコナがゆさゆさと身体を揺する。
「・・・・ん・・・・あと5分・・・・・。」
早い話が、起きる気がない。
しばらく不毛な応酬が続いて。
モコナはぷ―――――っ!!と膨れた。
「モコナ怒った!実力行使する!!」
珍しい言葉を言うものだと、半ば呆れ顔で見る視線を受け流して。
モコナはピョーン!と跳ねていく。
そしてそれほどの時も挟まずに、帰ってきて。
ぴら、とファイに掛けられたバスタオルの端をめくり。
『何か』を中に放り込んだ――――――――。


「い・・・・痛ぁ――――――――っ!!!!」


ちょうど戻ってきた小狼たちが見たのは。
「フ・・・・・ファイさん・・・・・?」
「・・・・何やってんだ・・・?てめぇは・・・・?」
ターフの下で。
突っ伏して涙ぐむ白き魔術師ウィザード――――――――。
そしてその、いわゆる『臀部』と称せられる所に。
がっちりはさみでぶら下がる『蟹』が1匹。
「だってファイ、モコナが起こしても起きないんだもん!当然の罰なの!!」
プンプンしながら飛び跳ねる白い物体に、いつものツッコミも入れられず、ただ痛みに耐えるのみ。
「・・・ま、これは痛かろう。」
そっと手を差しのべれば、蟹はスッとはさみを放し、移動する。
「血は出ていないようだから心配は要らないようだ。」
「・・・・・『痛い』のは心配じゃないのー?!」
「それはどうしようもなかろう。」
「冷血漢ー!!」
怒ってみせたとて。
その怒りは届かずに宙に消える。
抗議の声を尻目に波打ち際に歩いていって。
静かに放してやれば、蟹はすすすと砂の中に消えた。
小さく、ご苦労さん、と紡がれた言葉を背負って。



―――――――――――――― * ―――――――――――――


その夜。
男組と女組に分かれて部屋を取った、その宿で。


「お尻痛い・・・・・蟹が・・・・蟹が・・・追っかけてくる・・・・・。」


まるで呪文のような。
いや、呪詛のようですらある寝言を、一晩中聞かされる羽目になった忍者と少年が。
朝一番に白い物体を追いかけ回す姿が見られることになったのも。
彼らの長い長い旅の、ほんの小さな、1コマの想い出。



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「14141HIT」をゲットしてくださった桜都様に捧げるショートショートです。

事の起こりはチャットで。(笑)
あまりの暗い展開に(第6章?)危うく東京湾に簀巻きにして沈められる所だったワタクシσ(^^)
その東京湾に『上海蟹』が多数生息している、という話がありまして。
『上海蟹』って美味しいのか?という辺りから妄想がふくらみ。
「蟹に追っかけられるファイさんを書いてやるー!」と叫んだのが最初かと。
それがキリリクのネタになりました。
これの続編?は某サイト様の30000hitお祝いに押し付けるつもりで既に書き始めています。
サイト改装後はうちにも転載しますので、その折に読み比べて下さいませー。(笑)

桜都様、ありがとうございました!(返品可です・・・・。)

           作者・シュウ   2006.10.31UP

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