<23232HIT記念 キリ番リクエスト小説>

  「 想 い 出 の 風 」




「真昼間から酒なのか?」
「うるさいわねぇ。遠来の客をもてなすのに酒は不可欠よ。」
「自分に、か?」
「・・・・・相変わらず癪に障るわねぇ、アナタの、その物言い。」


次元の魔女は、その白い喉を仰向かせて、グイ、と盃を飲み干した。



―――――――――――――― * ―――――――――――――


「ホントーにそうですよ。もっと侑子さんに言ってやって下さい!肝臓壊すって!!」
ぶつぶつ言いながら、メガネの少年がおつまみを運んできた。
「言った所で、肯く相手でもないがな?」
「それはそうなんですけど!!」
少年は本当に心配しているのだろう。心底困った、という顔をしている。
「侑子にとっては水みたいな物なのだろうな。もっとも悪酔いする事はあるようだが。」
部屋の片隅においてあった『液キャべ』の箱をひょい、と指差して言う。
少年はますます深くため息をついた。
「良いって事よ!四月一日!お酒がないわよ!!」
徳利をフリフリとしながら言う。
少年――――――四月一日は、再びガ―――――――ッ!と吠え掛かる。
「だから、聞いてないでしょう!!」
「私にもお茶のおかわりをいただけるかな?出来れば薄茶が良いな。」
「・・・・・・あ、はい。」
一気に鎮火したように落ち着きを取り戻して。
四月一日は下がっていった。
「彼の言う事も一理ある。たまには聞いてやったらどうなのだ?」
「いいのよ〜〜これが『私』なんだから!!」
至極ご機嫌だ。
「そう思うでしょ〜〜モコナ『たち』!」
くるり、と。
黒と白が振り向いた。
「侑子がお酒飲まないと侑子じゃないからな!」
「侑子はおいしい物には目がないの〜〜〜♪」
「ラーグも、飲みすぎだぞ。」
ふわり、と笑う。
「クロウはそんなに飲む方ではなかったのにな?」
「どっちかっていうと『私作る人〜〜♪』だったわねえ、あの陰険メガネ。」
「で、侑子が『私食べる人〜〜♪』か。」
「いい組み合わせでしょう?」
「まぁ、そういう意味においてはな。」
そこへ、四月一日が新しい酒と茶を持って帰ってきた。
「はい、侑子さん!もうこれで今日はおしまいですよ!!」
「えぇ〜〜〜〜っ?!これっぽっちで〜〜〜〜?!」
「飲みすぎです!!」
どうやら譲る気はないらしい。
ブンむくれのまま、『お茶、お待たせしました。』と差し出してくる。
小さな茶菓子が添えてあった。
「これは?」
「俵最中です。」
「可愛いね。・・・君が作ったのか?」
「いえ・・・これは頂き物なんですが。ご希望なら作ります。」
「いや、また次に来た時にしよう。」
「わかりました。」
「何よ〜〜〜そこで和まないでよ〜〜〜!」
顔を見合わせて。
(絡んでるか?)
(絡んでますね。)
くっ、と喉の奥で笑いあう。
こんな他愛もない会話が。
(懐かしいな。)
そこには居ない、『彼』と交わした言葉が。



―――――――――――――― * ―――――――――――――


「それにしても、まさかねぇ〜〜・・・・。」
ひょい、と。
左手を手にとってじっと見遣って。
口元をにっとほころばせた。
「あの『黒くてでっかいの』の何処が良いのか、小1時間問い詰めたい所だわねぇ〜〜〜。」
左手の薬指に煌く指輪をピン、と弾く。
「さて・・・・どうかな。」
「しらばっくれてんじゃないわよー?」
庭に出て。
んー!と伸びをして。
次元の魔女はくるりと振り向いた。
「どっちにしてもおめでたい事に変わりはないんだから、何かお祝いしなきゃね。」
何が良い?と聞いてくる。
薄茶を口に含み。
ゆっくりと舌の上で転がしてから喉に送り込む。
静かに茶碗を膝の上に置いた。


「何か祝いをくれるというのなら・・・・ひとつ、『頼み事』を聞いてもらおうかな。」


「怖いわねぇ。」
貴女が『頼み事』って言うと、半端じゃないからね、と。
「そんなに『大変な事』ではないが。」
ゆっくりと口に含んで。
こく、と飲み下した。


「ソエルを、くれないかな?」


黒いのと、白いのと。
マルとモロも。
四月一日も。
そして、次元の魔女・侑子も、目をまん丸にした。
「元々は『彼ら』の旅の為に作った――――――そうだったな。」
「・・・えぇ。」
「そして『旅』は終わった・・・・・ソエルとラーグの『務め』は終わった。」
何処からか、紅く染まった紅葉の葉が風に乗って舞い降りる。
ひらり、ひらり。


「何がしかの目的を持って『作られた』モノは、その役目が終わると『廃棄される』。」


その纏う『気』に、僅かな凄みを見せて。
ソエルとラーグは、その言葉の意味に身体を固くした。
「『捨てたり』しないわ。絶対に。」
「だったら、『連れて行って』も良いかな?」
2人の魔術師ウィザードの『気』が絡み合う。
「何のために?」
質問を返す。
「次元移動の為だけにその役目を負うていた子よ。」
「『その為だけ』に存在していたのではない。ソエルが果たした役割はとても大きかった。」
当ての無い旅で。
ソエルの果たしていた役割。
それは。
「ソエルのおかげで、皆の心の平安は保たれていた。この意味は計り知れないほど大きい。」
「また離れ離れにするの?」
ラーグと。
対で作られながら、『あの日』を境に長い間会うことが出来なかった。
たとえ交信は出来ても、その手を取り合うことが出来なかった。
その辛い想いを、再びさせようというのか。
「束縛はしない。会いたければいつでも会いにいっていい。ただメインで暮らす場所が此処と違うということだけだ。」
「ある意味、詭弁ね。」
「ソエルは、どうする?」
いきなり話題を振られて、ソエルは固まってしまった。
どうしよう。
どう返事をしたらいいのだろう。
自分の心は、どうしたいのだろう?


「会いたくなったら、いつでも会えるのか?」


ラーグの問いはリアンに向けられていた。
「もちろん。お前の方から来る事は出来ぬかもしれないが、こちらからソエルを送る事はいつでも可能だ。」
「もう危険な目に遭う事はないか?」
「基本的には無いと考える。」
「・・・・・どうする?」
ラーグはソエルの方に向き直った。


答えはもう出ているはずだ。
お前の心は決まっているのだろう?
誰に遠慮も要らない。
もちろん、オレにも。
侑子にも。
――――――――クロウにも。


「・・・・モコナ、リアンと一緒に行きたい・・・・・。」


「・・・・しょうがないわね。本人が行きたいって言ってるんだし・・・・。」
それはほんの少し安心して。
「判ったわ。お祝い代わりに『白まんじゅう』を熨斗付けてリボンかけてプレゼントするって黒鋼に言っておいて。」
「唸りそうだな。」
「私もそう思うわ。」
くすくすと。
その顔が容易に想像できて、次元の魔女が笑いを零す。
「その代わり、絶対に泣かせるような事はしないでよ。」
「努力はしよう。」
「頼りないわねー。」
『時の魔女』の依り代としての任から解放され、時間軸を違える事が無くなった筈なのに。
(未だにぼんやりとしか『見えない』なんて。)
『完全に』映らなかった事から考えれば、まだ進歩だともいえるのだが。
だからおそらく、ソエルの事もはっきりとは『見えなくなる』。
(でも、きっと。)
もうあの旅ほどの危険はあるまい。
次元の彼方の『日本国』で。
楽しい時間を過ごしてくれるだろう。
「当然美味しい物とか、お酒とか、お酒とか、お酒とか、お願いね?」
「そっちですか!!」
四月一日のツッコミに動じることなく。
侑子とソエルはしっかりと握手をした。
「頼むわよ。」
「がってん承知のすけ!!」
時代劇っすか?!というツッコミをも聞き流しながら。
次元の魔女のテンションはさらに増していく。


「さあ!見送り酒よ!!四月一日!おつまみ!!」
「!!今日はもう終わりって言ったでしょう?!」
「事情が変わったのよ!さっさと持ってくる!!」
「あ〜〜〜〜〜っ!もう〜〜〜〜っ!!」


賑やかさが一段と増した縁側で。
庭の桜の樹に眼を遣る。
あの春の宵に、満開の桜を見せようと此処にいざなった、優しいメガネの奥の光。


――――――――クロウ。
お前には、『この未来』は見えていたのか?


咲くには遠い季節だが、樹下に佇む弟子の姿が、そして満開に散り急ぐ桜の花が見えるような気がして。
今は光を映さぬその目を静かに閉じた。



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「23232HIT」をゲットしてくださったえみりん様に捧げるショートショートです。

以前、『ソエルは旅が終わったらどうなるんですか?』という質問をいただいた事があります。
実際問題として(原作において)、『眠りにつく』のではないかと考えています。
ガラスケースの中で。
ソエルとラーグは『旅の為』に作られたモノ。
『旅』が終われば、用済みなのです。
でもそれではあまりにも寂しいので、せめて日本国に居てもらおうかな、と。
一応次元転送が出来るようになるまではサクラの許に出張しています。(笑)


これは裏設定になるんですが、リアンの死後、ソエルは侑子の元に帰り、ラーグと共に眠りにつきます。
こればっかりは最初から決めてた事なので変えるつもりは無いんですが。^^;
しっかし、お嬢、あんまりクロウさんのことばっかり回想してるとヤキモチ妬くよ、若様が。(爆)

えみりん様、ありがとうございました!

           作者・シュウ   2006.11.29UP




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