『そこで何してるんですか?』と問われて。
『星を見ていた。』と答えた。
すると。
カタン、と梯子がかかり。
程なくして栗色の髪がひょこり、と現れた。
「私もここで見ていいですか?」
よほどの事情がない限り、否とは言えないような、笑顔で。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「・・・それでは寒いだろう。」
私自身は、身体の回りの気温を調節できるが。
冬の夜は殊の外冷えるもの。
事実、手をすり合わせて息を吹きかけたりしている。
ため息を1つついて。
とりあえず上着をその肩に掛けた。
「え?!そ・・それじゃあ・・・・。」
上着を脱げば、ノースリーブ。
見た目には、空恐ろしいほど『寒い』格好に違いない。
「私は、構わない。」
「お前が構わなくても、俺たちが構うんだよ。」
不機嫌が言葉を吐くような。
見れば何処からやってきたのか、黒き影が毛布をばさり、と投げつけてくる。
サクラ姫は『ありがとうございます、黒鋼さん。』と礼を述べて。
私に上着を返してきた。
「ありがとうございます。もう大丈夫です。」
「そうか。」
上着と毛布を取り替える。
「お前も被ってろ。」
「私は。」
「被ってろ。」
つんつん、と服の裾を引っ張られて。
『いう事聞いた方がいいですよ。』といたずらっぽく笑う目に会う。
ため息1つ。
黙って立ち上がりざまにサクラ姫に被せる。
「・・・あの・・・・・。」
背後の気配も険しくなったが。
今はそれを全て無視した。
「冬の夜空は、本当に綺麗だねぇ〜〜〜。」
少し間延びしたような、氷の国の魔術師の声に救われる。
空気が澄んでいるからかな、と答えれば。
「星々の煌きも余計にその光を増してるって感じですよね。」
一途な少年は本当に感心したかのよう。
結局、皆で屋根の上に上っている、ということになった。
「あの星と星・・・・綺麗な三角形!」
サクラ姫が指したのは。
「あ、本当だ〜〜二等辺三角形だ〜。」
「『三角座』だな。」
「・・・安直な名前だな。」
「でも確かそういう名前だったと思います。」
少年が苦笑しながらとりなす。
「あそこにあるのは『ひしゃく星』だな。」
「『北斗七星』と侑子が言っていたな。」
「『北の七つ星』ですねえ。」
「・・・どうして皆名前が違うの?」
その疑問は、ある意味当然。
「星座というのは、その方向や季節や時間を知るために、解りやすいように組み合わされたものだそうです。」
少年の説明はよどみなく。
「それは天文学者だったり、農民だったり、羊飼いだったりと様々でした。」
夜空を見上げる者は、さまざまな者達。
「彼らは『彼ら自身に馴染み深いもの』になぞらえたんです。」
彼らが信じる神話伝説、機能的に分類されるべき記号など。
「無限の星空に、自分たちの『夢』を映したのだろうな。」
義父と旅したいろいろな国の『夢』。
雪と氷に閉ざされた冷たき国に伝わる『夢』。
魔物と共に在る戦国の世を修羅の如く生きる国の『夢』。
進んだ文明と、相反する『アヤカシ』との不可思議な共存を是とする国の『夢』。
『夢』を映し出す壮大なキャンパス。
吸い込まれそうなほどの星降る夜空を見上げながら。
砂漠の姫はいつしか眠りに落ちていった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「貴女なら、どんな『夢』を映す?」
いつもとは違う口調で微かに問われて。
ふと、省みる。
『魔道宮』にも『星座』はあった。
神話伝説の類いもあった。
そして自分自身が、その体現だった。
そんな自分に、『夢』を映す事ができるだろうか?
いや。
『夢』を持つことが許されるのだろうか?
もし。
――――――――許されるのなら。
「星々の煌きの一つ一つの如くに、人の命もまた永き煌きの中にあると良いな。」
氷雪の魔術師が顔を伏せてしまったのは。
琥珀色の瞳がその光を揺らめかせたのは。
黒き疾風がその眉間にさらに深く皺を刻み込んだのは。
『私』が言うのには、そぐわなかったという事か?
『私』がその言葉を口に上せるのも、おこがましいという事か?
――――――――『私』は。
その星々の煌きをこそ、護りたいものを。
|