<34443HIT記念 キリ番リクエスト小説>

 「 F l u f f y   D o l l 」




「・・・・なーんでこんな事になっちゃったんだろー?」
「俺が知るわけねぇだろ。」
宿のベッドに転がって。
ツインの部屋に泊まった二人はそれぞれにベッドの上。
そして。
サイドテーブルの上には、ふわふわの。
犬と、ウサギの。
――――――――ぬいぐるみ。
「どうしてだと思うー?」
ファイの問いは、ぬいぐるみに向けられて。
元より答があろうはずが無い。
だがぬいぐるみが揺れたような錯覚を覚える。
「モコナもわかんなーい・・・。」
長い耳をシュン、とさせて、モコナも呟く。
「・・・冗談じゃねぇ・・・・・。」
憮然とした呟きは、もどかしいその心を如実に示して。
窓をカタカタと揺らして風が吹く。


「そんなに『子供』が憎いのかよ、仕掛けた奴は!!」


―――――――――――――― * ―――――――――――――


この国の、国境を越えた時。
何か光が走った。
「?!」
その光は、小狼とサクラと、そしてリアンを包み込んだ。
「な・・・何だ?!」
眩い光に、目を開けてもいられない。
(これは魔法・・・?!)
ファイが感じ取るのと、少し険しい顔でリアンが腕を振り払ったのが、同時。
リアンを包んでいた光がすっと消えた。
しかし、またすぐに光が飛んでくる。
「・・・・・・。」
眉根を顰めて。
もう一度腕を振り払う。
すると、もう光は飛んでこなくなったのだが。
「・・・・結界、か・・・・?」
黒鋼のような、魔力を持たない者にも感じ取れるほどの、強固なシールドを張っていた。
「・・・あぁなりたくはないのでな。」
言って見遣るその視線を辿って。
黒鋼もファイもぎょっとした。
「小狼君・・・・?」
「・・・姫・・・・?」
光の中で。
ふんわり浮かび上がっているのは。


フワフワした犬とウサギのぬいぐるみ。


「・・・・まさか、これに・・・・?」
「でもなんで小僧と姫が・・・?」
わからない。
もちろん正確に言えば、リアンも含まれているのだが。
「・・・町に行けば、情報が得られるだろう・・・・。」
シールドのせいか、声が少しくぐもって聞こえる。
もちろん肩などに触れることも叶わない。
ファイはその瞳に妖しい光をふと浮かべた。
(リアンさんがこれほど強力なシールドを張るって事は。)
相手の魔力は相当高い。
魔法自体の力もかなりのレベルだと考えるのが妥当だ。
(でも、何故?)
攻撃、戦闘などの能力の低い者が狙われた可能性もあるが。
何と言っても、『魔力を感知させない』人だから。
しかし、小狼の攻撃能力はかなりのものがある。
サクラはまだしても、小狼が狙われる理由には、少し弱い。
町に入って。
ファイはぞくり、として身を震わせた。
「・・・・なんだ、これは?」
魔力を持たない黒鋼にも感じられるのだろう。
どこか禍々しさすら感じさせる空気。
行き交う人も、どこか背を丸め、暗い雰囲気を漂わせている。
「とりあえず宿を取ろうよ。」
ぬいぐるみを前抱きに抱いて、ファイが促す。
通常なら、何とも微笑ましい、それこそ遊園地の中のような感じなのだが。
今は周りの空気に毒されていくような気すらする。
「『5人』様ですね。」
宿の主人の言葉に驚いた。
「え?」
ここには『3人』しかいないのに。
もちろんこの場合モコナは省かれている。宿の主人は暗い目をして言葉を継いだ。
「もう2人は・・・・『子供』でしょう?」
指先はファイの胸元に抱かれたぬいぐるみを指差して。
「ここでは18歳以下の子供は皆ぬいぐるみになってしまうんです。」
「え?!」
そのとき、奥の部屋から激しい泣き声と叫び声が聞こえてきた。
「嫌よ!!私、産みたくない!!」
「すみません、ちょっと失礼。」
主人は断りを入れてから奥に入っていった。
何と言うこともなしに耳を澄ませる。


「だって!生まれたら、この子はぬいぐるみになってしまうのよ!!」
「だからといって、産気づいたらどうしようもないじゃないか。ちゃんと産んでやらなきゃどうするんだ?!」
「私のお腹の中にいるときは大丈夫よ!!でも生まれた途端に、この子は・・・!」
「仕方がないだろう!いつかきっと、元に戻る!!」
「何時?!何時戻るって言うの?!初めてのお乳も飲まないうちに、泣き声も上げないうちに、この子は!!」


わあぁっ!と泣き崩れた気配に、ファイはそっと声を掛けた。
「・・あのー・・・もし良かったら、なんでこうなってるのか、話していただけませんかー?」
驚いたようにふり返る主人は、その妻らしき女性と顔を見合わせた。
そして、どうやら娘らしき、お腹の大きな妊婦に目を落とし。
「・・・わかりました。お客様も、お連れ様が被害に遭われているのですから、知る権利はおありでしょう。」
こちらへどうぞ、とダイニングルームのような所に案内してくれた。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「今から、半年くらい前からです。」
飲み物を運んできてくれた主人は、そう切り出した。
「この国で一番高い山に、隕石が落ちました。」
「隕石?」
「確認されたわけではありませんが、そうらしいです。」
地震のような地響きがしましたから、と。
「その日からです。子供たちが次々と光に包まれて・・・・。」
「皆ぬいぐるみになっちまったってぇのか。」
「はい。調べたら全員18歳以下でした。」
ほんの1日違いで19歳になった子は変化しなかったのだという。
「この国では19歳で一人前の大人として認められるんです。」
「じゃあ、いわゆる『未成年』ばかり・・・・?」
「はい。」
主人は天を仰いだ。


そりゃもう、皆必死で解決策を探しましたよ。
占いをやったり、ぬいぐるみを洗ってみたり。
思いつく限りの事をやりました。
――――――――でも、子供たちは元に戻らなかった。
そればかりじゃない、生まれたばかりの赤ん坊までぬいぐるみになっていったんです。
娘もそうですが、出産を控えた子達がもう気も狂わんばかりになって。
でも、誰も為す術がない。どうする事も出来ないんです。
ただ隕石が関係しているらしいとだけはわかったのですが・・・・・。


「旅をしてきた貴方たちなら――――――――どうされますか?」


もはや、『外』の知恵に頼る他はない。
主人の声は、期待。
いや。
藁にもすがらんとする渇望。
「・・・その隕石とやらは調べたのか?」
物事を明らかにするには、その中枢を開かねばならない。
今この『中枢』は、その『隕石』。
「調べられないんです。山頂付近に何か幕のようなものがあって、入る事が出来ません。」
(・・・サクラちゃんの羽?)
(有り得るな。)
黒と白がぼそり、と言葉を交わす。
「まずは此処に泊まります。山頂に行く方法を教えてください〜〜。」
「解りました。よろしくお願いします。」
主人とその妻、そして泣きはらした顔の娘が頭を下げる。
「腹の子に障るだろう。ゆっくり心を落ち着けてやらねぇと。」
「はい・・・・・お願いします・・・・・。」
娘は母に肩を抱きかかえられるようにして奥に引っ込んだ。
「黒様、やっさしー。」
「あ?」
少し剣呑なやり取りがあって。
とりあえず2部屋を取った。
ツインが2つ。
そのうち広い方はトリプルにも出来るので、自動的に男組になった。
「サクラちゃんはそっちで・・・・。」
ファイがリアンにウサギのぬいぐるみを渡そうとした時。


バチッ!!


「!」
またも火花のようなものが散り、リアンが顔を顰めた。
「・・・お客様、18歳以下ですか?」
その光は、『ぬいぐるみに変える光』。
「・・・いや。だが『時間的には』そうなってしまうかもしれない。」
恐ろしく意味の解りかねる答え方をして。
ウサギを受け取り、部屋へ消えた。
「どういう意味なんだろうね?」
「俺が知るか。」
とりあえずその夜は眠り、翌朝山頂に向かう事になった。


************************************************


何かあるといけないから、と。
ぬいぐるみを2つ並べてベッドの上に置いた。
「じゃあモコナ、頼んだよ。」
「うん!しっかりね、皆!!」
とりあえずの見張りにモコナを残し、3人は山頂目指して歩き始めた。
宿からそれほど遠くはない。小1時間で麓に着いた。
宿の主人によれば、比較的登りやすいらしく、所要時間は2時間ほどだという。
「とにかく行ってみるか。」
黒鋼を先頭に歩き始めた。確かに歩きやすい登山道になっている。
こんな事さえなければ、皆の格好のレジャーであったのだろうか。
「黒様、ちょっと待って。」
「あ?」
振り向くと、ファイが後ろ、と指差した。
見れば、リアンが膝を突いている。
その周りには、『あの光』が激しく乱舞しているのだった。
「おい!!」
リアンまでぬいぐるみになってしまったら、かなり困ることになる。
魔力戦においては、ファイが魔法を遣わない以上、どうしてもリアンに頼る事になる。
切った貼ったでは、どうにもならない相手がいるのだという事は、今までの旅でよく解っていた。
「・・・・大丈夫、だ。」
ようやく光を振り払い、少し疲れた顔をして、それでも立ち上がった。
そのまま歩みを進め、追い抜いていく。
「休んだ方がいいんじゃねぇか?」
「時が惜しい。」
ファイは、(しょうがないね。)と言わんばかりに肩を竦めてみせた。
黒鋼は眉間の皺を深くし。
再び山頂への歩みを刻み始めたのだった。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「おわ〜〜・・・これはデカイ・・・・。」
「思いっきり嫌な感じだな。結界か?」
山頂付近に張り巡らされていたのは、シールド。
「姫の羽が原因か?」
「たぶんねぇ。・・・でもこのシールド、何とかなる?」
その問いは、リアンに向けて。
しかし、険しい顔でシールドを見つめたまま何も言わない。
「どうなんだ?」
自分には、手が出せない。
相手が魔物なら切り捨ててみせようが、結界が相手ではどうにもならない。
「・・・・・・・子供・・・が・・・・。」
「?!」
「・・・・子供が居るのが・・・・憎い・・・・・。」
「えぇ?!」
『シールドの中の存在』に接触しているのだろうか。
伸ばした右の掌に、光が凝縮している。


『子供』が『憎い』。


それは一体どういうことなのか。
光はふっと消えて、接触が途切れた事を示した。
「・・・・その理由、調べてくれ。私は・・・此処に居る。」
既にかなりのダメージを受けているのだろう。傍らの石にもたれて座り込んでしまった。
「・・・おい・・・・・。」
返事は無い。
どうやら眠り込んでいるようだ。
「・・・・・・・・・・。」
マントを外し。
そっとくるむように掛けた。
「降りるぞ。何がなんだか解らねぇが、とにかく調べねぇと。」
「うん、わかった。」
『残す事』に気後れはしたが。
二人は急ぎ足で山を降りた。
そのまま宿に向かい、『子供を憎む存在』について訊ねる。
「『子供を憎む存在』ですか・・・・?」
宿の主人は困惑した表情を見せた。
妻も娘も解らない、という顔をする。
「でもそれが解れば解決するかもしれないんですよね?」
「・・・たぶん。」
「わかりました!お任せください!!」
主人はドン!と胸を叩いた。
「町中に聞いて回ります。お客さんだと見知らぬ者とて警戒するかもしれないが、私なら!!」
主人にとっても、孫がその腕に抱けるかどうかの大事な瀬戸際。
「お客さんたちはどうぞ部屋で休んでいて下さい!!」
そう言い捨てて飛び出していった。
やむなくその言葉に従う事にする。
部屋に運んでもらった食事を摂り、くつろいで吉報を待つ。
身体はくつろいでも、心は。
――――――――山頂にただ一人置いてきた、あの人の事を。
「・・・・なーんでこんな事になっちゃったんだろー?」
「俺が知るわけねぇだろ。」
ベッドに転がった黒い影は憮然と呟く。
「どうしてだと思うー?」
ファイの問いは、自分のベッドの上のぬいぐるみに向けられて。
元より答があろうはずが無い。
だがぬいぐるみが揺れたような錯覚を覚える。
「モコナもわかんなーい・・・。」
長い耳をシュン、とさせて、モコナも呟く。
「・・・冗談じゃねぇ・・・・・。」
憮然とした呟きは、もどかしいその心を如実に示して。
窓をカタカタと揺らして風が吹く。


「そんなに『子供』が憎いのかよ、仕掛けた奴は!!」


『子供』が憎いなら。
こんな事をこそこそするのなら。
「堂々と出てきてやりゃあいいんだ。」
「出てこれないから、シールド張ってるんでしょう?」
「そんなの知るかよ。向こうの勝手な道理なんざ知りたくもねぇ。」
窓に目をやって。
がば!と起き上がった。
「雨だ!」
「!!」
山頂は、寒い。
ましてや雨に濡れたなら。
矢も立てもたまらず飛び出そうとする所へ、宿の主人が息せき切って戻ってきた。
「あぁ、お客さん!有力そうな情報がありましたよ!!」
「何だ?!」
「人形ですよ!!」
「あ?!」
何がなんだか解らない。
とにかく落ち着いて、とファイが居間の椅子に座らせた。
妻が慌てて持ってきたコップの水をグイ、と飲み干して、主人は話し始めた。
「今から100年ほど前なんですが、隣の国を治める領主の娘が、とても人形が好きだったそうです。」
「うんうん。」
「それこそ食べる時も寝るときも、一緒だった。大きくなってからもそうでした。」
「兄弟は居なかったのか?」
「一人娘だったそうです。」
それならば、寂しさゆえに人形を友とするのは納得がいく。
「結婚しても、人形はいつも傍にあった。・・・・それが。」
主人は、小さくため息をついた。


「子供が出来たんです。」


何となく、展開が想像できた。
『子供』に愛情が移り、『人形』は『愛されなくなった』。
打ち捨てられたかのような人形を、ある日鳥が掴んで飛び去った――――――――。
おそらくは、山頂付近で人形は鳥の足を離れたのだろう。
そしてそこに『羽』が舞い降りた・・・・・。


「・・・・人形には、『魂』が宿るものなんだ。」


ぼそり、と黒鋼は呟いた。
「日本国では、古くなった人形を捨てるとき、『人形供養』をする。」
「『人形供養』?」
「人形の魂が安らかな所に行けるように祈るんだ。」
しかるのちに燃やして、その灰を供養塔に納めるのだと。
「・・・『羽』のチカラで、恨みを含んだ人形の魂が『付喪神つくもがみ』になっちまったって事か・・・・。」
「じゃあ、それを鎮めれば、?」
「・・・たぶん。」
でも、どうやって?
「相談に行こうよ。」
あの人に。
「そうだな。」
『あちらの世界』にも、おそらく『近い』だろう――――――――。


あの人は。


『魔女』なのだから。


急ぎ足で山頂に上ってくれば、変わらぬ姿で石にもたれているが目に入った。
(まだ眠っているのか。)
起こすのは、躊躇われたが。
「・・・・おい。わかったぞ。」
低く静かに声をかける。
身体は動かないが。
「・・・・どうだった。」
微かな声が口から滑り出る。
「犯人は、『人形』だ。捨てられた恨みが増幅したらしい。」
「・・・・そうか。」
静かに目を開け、身体を起こした。
自分に掛けられていたマントに気付き、少し目を丸くし、次いでその主を見る。
ありがとう、と小さく呟いて。
返されたマントはまだぬくもりが残っていた。
そのままふわりと身に纏う。
キュ、と手を固く握り締めて。
問いかけた。
「どうする?」
「恨みによるものならば、『浄化』すればいい。」
「でもシールドはどうするのー?」
「破壊する。」
「うわ。」
あっさりと、一言で片付けられてしまった。
「でも、『破壊』したら、中も『吹っ飛ぶ』よ?」
吹っ飛んでしまったら。
浄化できなかったら。
解決への糸口が断たれる事になる。
「働いてもらわねば困るが。」
「?」
黒鋼もファイも。
その意味を掴みかねて、目を丸くした。



―――――――――――――― * ―――――――――――――


「では、手はずどおりにな。」
「簡単に言いやがって・・・・・。」
少し憮然として。
しかし、やらねばなるまい。
出来れば、宿の娘が産気づくまでに、終わらせてやりたい。
「では始めようか。」
「・・・・・・・・。」
眉間の皺を深くしたまま、黒鋼は蒼氷を抜刀した。
静かにその刀身に『気』が纏い付く。
「破魔、竜王刃!!」
銀光一閃、『気』の奔流は剣戟となってシールドに襲いかかる。
それに沿うように雷光が空を走った。
「!!」
シールドが大きく歪み、軋みを上げる。
それが砕け散った、その瞬間!!
「今だ!!」
声と共に。
素晴らしい瞬発力を見せて、ファイが飛び出した。
その軌跡の先には――――――――光り輝く『サクラの羽』。
ファイの手が『羽』を掴むのと。
朽ち果てかけた『人形』の周りに魔法陣が展開するのとは、ほぼ同時。
シールド破砕の衝撃から守られた人形は、100年の年月を如実に示してそこに在った。
そして、その周りに蠢く妖しい気配。
「『付喪神つくもがみ』だな。」
その禍々しさの中に、幽かな『哀しみ』を感じさせて。
人形はフイ、と宙に浮いた。
「!」
思わず蒼氷を構える。ファイは羽を守るように抱き込んだ。
しかし、『攻撃』はなく。
人形は柔らかな光に包まれた。
両の手を。
差しのべて。
それは、その光ごと包むかのように。
その口が微かに動く。
荒ぶる魂を鎮め、闇を打ち払い、光の道へと導く。
時折激しいスパークが走るのは、闇の世界からの抵抗か。
明らかな敵意を持って奔る雷光は、その服を裂き、身に切りつけていく。


だからといって。
自分に何が出来るというのだ?
魔力もない。
導く為の祝詞も知らない。
いやたとえ。
ファイのように魔力を持っていたとしても。
おそらくは心得ているであろう魂鎮めの術があったとしても。
手出しは出来ないほどの強いチカラを感じる事が出来る。
(この人形の『魂』は、恐ろしいほどのチカラを持ってる。)
『羽』は、あくまでも『増幅装置』にすぎなかったのだ――――――――。


それでも。
人形とて、己の持ち主を『愛して』いたのだろう。
皆の笑顔が嬉しいと思っていたのだろう。
その時の、優しい『想い』を。
ようやく思い出したのか、闇の抵抗は少しずつ薄れていった。
やがて。
人形はキラキラとした光を放ち始めた。
「・・・・魂の『闇』が取り払われたんだ・・・・・。」
ファイの説明は、正しい。
ゆっくりと、虚空に人形は消えていく。
折りしも沈みゆく太陽の光の中に染まりゆくかのように。
「明るい所で、今度こそ幸せになって・・・・。」
胸元で手を組み、祈りを捧げる。
夕日に照らされて、赤き光を受けて煌く金の髪の輝きを、み恵みの光と見たのだろうか。
人形は、笑った。
柔らかな、優しい笑顔で。


************************************************


「ありがとうございます、ホントに皆さんのおかげです。」
宿の主人は何度もそう言って頭を下げた。
その夜に娘は産気づき、生まれた赤ん坊は、ぬいぐるみにはならなかった。
いや。
町中に、『子供』が帰ってきた。
歓喜の声。
涙ぐむ声。
声にならない声。
様々な声に満ち満ちて、町の朝は明けていく。
「司祭様が主催して、『人形供養』を毎年この日に行うことに決めたそうです。」
妻の腕に抱かれた孫の顔を眩しそうに見遣りながら主人は言う。
礼だ、という事で宿代はただにしてくれた。
軽食も持たせてくれた。
何時までも手を振り続ける主人たちに手を振り返して。
次元移動の風が皆を包み込む。
「1つだけ、聞いていい?」
覗き込むように、逃さぬように。
ファイは訊ねた。
「何でぬいぐるみにされそうになったの?」
見た目には十分成人していると思ったんだけど?と。
夕闇色の瞳は、静かに閉じられた。


「前に転生してからそれほど経っていない。」


それの意味を知るのは。
かなり後――――――――諏倭の地でのことだった。



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「34443HIT」をゲットしてくださった、奈美様に捧げるショートショートです。

長ぁ〜〜〜〜〜っ!!
少し重い内容になってしまいました。
リクは『ぬいぐるみを抱えたファイさん』だったので、遊園地モードで書き始めたのですが・・・・。
実はあまり遊園地に行った事がなくて(滝汗)
ネタが尽きてしまったので書き直したらこうなった・・・・。(あれ?)

京都には『人形寺』の通り名がある寺があります。
歴代皇女が代々門主を勤めた由緒ある寺です。
で、その皇女方が持ってきた年代物の雛人形が多数あるので有名。
春だったかな、確かひな祭りの辺りに人形供養が執り行われます。
人形の持つ魂よ安かれと祈念し、その灰を供養塔に納めます。
様々な形で自分を支えてくれた人形は、最期まで大切に送ってあげたいですね。(*^_^*)


奈美様、ありがとうございました!(・・・でも返品受付中・・・・。)

           作者・シュウ   2007.02.12UP

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