「・・・・・また『レース』なのかよ。」
「とか何とか言っちゃって〜〜一番ノリノリになるのは黒様だよねー?」
「ねーっ♪」
「うるせぇ。」
次元移動から降り立ったのは、雪の国。
一瞬ファイの顔がこわばったが、しかしそこは彼の故郷ではないと知るや、いつものへにゃりとした顔に戻った。
さっそく服を調達し、居酒屋で食事をしながら聞き込んだなら。
「あさって開催される『雪上バイクレース』の今年の賞品は、結構面白いのが揃ってるぞ。」
聞けば、1位の者から好きな物を選択できるという。
ほれ、と見せてくれたチラシに掲載された『賞品』の中には。
「・・・・姫の羽!!」
あおり文句には、『不思議な力のある羽。ファッションにインテリアに。これで他人に差をつけろ!』とある。
ピッフルワールドに比べれば、さして重要視されていないようでもある。
しかし、『これってキレイだよねー。』とか言う周りの声を拾うと、意外に人気があるようだ。
となると。
「1位にならなきゃ、手に入らない可能性あるねぇ?」
ファイの言葉は正しい。
「今日はもう遅いから、明日開催事務局に行くといいよ。」
居酒屋の主人は親切に、事務局の地図まで書いてくれた。
明日。
同様に紹介してもらった宿で、一同は眠りについた。
雪は時折、音も無く降り、辺りの白を深くする。
「・・・・・・・・・。」
「・・・どうしましょう・・・・?」
さすがに、これは声も出ない。
朝一番に開催事務局に赴いた一同を待っていたのは、『開催規定』。
『タンデム(=二人乗り)』である事。
『体重制限』がある事。
一定時間の『練習』をシュミレーションシステムで行う事。
練習時間は6時間を規定されており、これは今日中にクリアできそうだ。
問題は、『組み合わせ』。
「体重制限があるからねえ・・・・。」
自動的に、小狼とファイ、黒鋼とサクラ、という事になる。
黒鋼と組めるのはサクラしか居なかったのだが。
「・・・大丈夫なのか?姫は・・・・?」
基本的に運転は黒鋼になるだろう。問題はサクラが何処まで黒鋼の『荒い運転』に耐えられるかだ。
なんせ、『ドラゴンフライ』のように空を飛ぶのとは訳が違う。
雪上面は『硬い』から、当然衝撃も大きくなる。
それにルートマップを見ていると、クレバスなども多くあり、ジャンプしたりする必要が出てくる。
「大丈夫です!頑張ります!」
と言われても。
不安を払拭できないのは小狼も同様だった。
でも。
「エントリーは出来るだけ多くないと、万が一って事もあるしねぇ・・・・。」
1組だけでは、リタイアした時、そこで終わってしまう。何としても2組出場しなくてはならない。
「とりあえず、練習しようよ。」
規定時間の練習をこなさなければ、エントリーできないのだ。
案内されてシュミレーションシステムに入った。
実際にレースをしているように、映像も映るし、衝撃も体感できるようになっている。
「こりゃあ面白そうだねえ〜。」
意外にファイはご機嫌だ。
さっそく小狼と始める。
後席はナビゲーションが主であるらしい。
もちろん、後席が操縦して前席がナビ、と言うのも出来るようになっている。
こちらは息もピッタリあって、順調なのだが。
「おわっ!」
「きゃあっ!」
・・・・・こっちは、どうにも。
サクラが前席なのは解るとしても。
サクラの『操縦』は、もはや『論外』だった。
まず『まっすぐ』走れない。
何度も木にぶつかる。
(これが実体験だったら、間違いなくあの世行きだ・・・。)
サクラはスピード『だけ』はぶっ飛ばすので。黒鋼は、思わず頭を振った。
「姫、もういい。操縦は俺がやる。」
「・・・・はい・・・・・。」
だが、これにも問題があった。
ほぼフルスピードなので、カーブなどの時に、体が対応しきれず、サクラが吹っ飛ばされてしまうのだ。
「・・・・マジかよ・・・・・。」
バイクにシートベルトはねぇのか、という呟きが、思わず口から洩れる。
「・・・すみません・・・黒鋼さん・・・・。」
モコナと一緒に、シュン、となって。
「・・・あー、もういい。気にするな。・・・・何か考える。」
頭をガシガシと。
とりあえず規定時間は終わらせて、エントリーはした。
(さて、どうするか・・・・?)
宿のベッドに転がりながら。それでも1つの答を弾き出した。
(・・・それっきゃねぇわな・・・・・。)
要は、『勝てば』いいのだ。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
レース当日。
各自に装備が支給される。
薄手だが、性能のいい『緩衝服』にヘルメット。
乗るバイクは、公正を期すために、当日ランダムに抽選される。
ただ、乗る者の体格などを考慮して、いくつかのバリエーションが用意されていた。
「あれ?」
小狼は、黒鋼が自分達とは違うタイプのバイクを申請したのに気付いた。
(黒鋼さん、身体が大きいからシートアレンジとかに問題あるのかな?)
その時はそう思ったのだが。
スタート位置でファイとバイクの点検をしていて、つんつん、と袖を引っ張られた。
「?どうかしましたか?ファイさん。」
あれ、と指差す方を見れば。
(・・・えぇ?!)
黒鋼とサクラが居るのだが。
バイクが。
『1シートタイプ』だった。
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「く・・・黒鋼さん・・・・。」
「しょうがねぇだろ。吹っ飛ぶのを防ぐにゃ、こうするしかねぇんだ。」
憮然として。計器類のチェックを終える。
「ほれ、さっさと、乗る。」
「・・・は・・・はい・・・・・。」
真っ赤になりながら、ちょこん、と座った姿を見て、黒鋼は頭を掻いた。
「違う。」
「はい?」
サクラはキョトン、とした。まともに、『シートの後方』に座ったのだが。
「前、だ。」
「え?」
「姫は前。俺は後ろ。」
「・・・えぇ?!」
サクラはそれこそ頭のてっぺんまで真っ赤になった。黒鋼は眉間に思いっきり皺を寄せている。
「計器が全然見えなくなるからな。しっかり見てもらわねぇと困るんだが。」
「・・・・・・・。」
「『やると決めた事はやる』んだろ。」
そう言って見遣る目には、どこか優しい光。
サクラは、そうだ、と思いなおした。
今は、自分にできる事をやるのだ、と。
「・・・はい!」
「ん。」
くしゃ、と。
サクラの頭に手をやって。
ヘルメットを手に取った。
「行くぞ、姫。」
「はい!」
それぞれのバイクがエンジンを始動し始めた。出走位置も抽選―――――――当然黒鋼・サクラ組がポールポジションだ。
身体が大きく、手も長い黒鋼に、前に座るサクラは、まるで包み込まれているかのよう。
ランプが、点った。
「GO!」
実況中継のアナウンサーの叫びは、バイクの爆音にかき消された。
最初からフルスロットルで、黒鋼は飛び出した。もちろん他の出場者も負けじと続く。
ルートは自由に選べる。ただ、障害物が多く、クレバスなどもあるため、自ずと取るべきコースは限られていた。
「・・・黒たん、強引・・・・。」
半ば呆れたようなファイの口調は。
「思いっきり『直線ルート』ですねえ・・・・。」
これまた呆れたような小狼の声。
確かに『直線ルート』は『最短コース』だ。
しかし、障害物が一番多いルートでもある。
それを、ほとんどスピードを落とさずにすり抜けていくのだ。
アナウンサーが興奮して絶叫している。おそらくこんな参加者は今まで居なかったのだろう。
「俺たちは、俺たちなりに・・・・。」
「はーい、がんばりましょー。」
小狼はハンドルを握り締めた。
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シュミレーションでも、こんな『爆走』はしなかった、と思いつつ。
それでもサクラは必死で計器を読んだ。
黒鋼の位置からは、サクラが邪魔になって計器が見えない。
自分がやらなければならない事、なのだ。
「もうすぐクレバスです!」
「幅は?」
「えっと・・・15メートルです!」
「わかった。」
機能上、このバイクは幅25メートルまで『飛べる』。
だが黒鋼は、ジャンプの高さを極端に低くしていた。
クレバスを越えるのには、ある程度高さを飛んだほうが安全だが、それでは時間をロスする事になる。
フルスピードに近い速度を維持している黒鋼ならではの荒業だ。
難なくクレバスを突破する。もちろんほとんどスピードは『殺さない』。
「またクレバスです!・・えっと・・・今度は18メートル!」
「よし!」
あっさりと、バイクは空に舞う。何の問題も無く越えられる筈だったが――――――。
「何?!」
横合いから別のバイクが飛び出してきた。高さは向こうの方が高い。
空中でクロスする形になる。
が。
あと少しで着地、という所で、上のバイクががくん、と失速した。
「!!」
そのまま落下してくる。逃げようにも、空中では如何ともしがたい。
「伏せろ!」
黒鋼の声に、サクラは慌てて身体を低くした。覆いかぶさるように黒鋼も体勢を低くする。
ガツンッ!!
鈍い音と、押さえつけられるような衝撃。
(ぶつかった―――――!)
サクラは思わず身体を硬くした。
「・・・ぐ・・・・・っ・・・・。」
くぐもったような苦悶の声が黒鋼の口から洩れる。
「?!黒鋼さん?!大丈夫ですか?!・・・・あ!!」
振り返ったサクラの目に、黒鋼の顔に流れる血が映った。
「黒鋼さん!!」
「・・・前見てろ・・・・。」
少し苦しそうな声で。
「でも・・・。」
「『前』が見えねぇんだ・・・・姫、代わりに見てくれ・・・・。」
黒鋼はレースを続けるつもりなのだ。速度を落とした途端、後続のバイクが目に入ってくる。
やると決めた事を。
ただ、ひたすらに。
「解りました!私が黒鋼さんの『目』になります!」
ふっと笑って。
「行くぞ。」
「はい!」
サクラは計器と前方を交互に忙しなく見た。
自分が。
やらなければ。
自分でもよくやったと、後から思ったものだが、サクラは『完全』に『的確』にナビゲートした。
前方の障害物の位置。
クレバスまでの距離と幅。
風向きに至るまで、ありとあらゆるデータを言葉にした。
勘だけでハンドルを操作する黒鋼も大したものだが、サクラのナビゲートが無ければ不可能だっただろう。
すんでのところで追撃をかわし、バイクは1位でゴールに飛び込んだ。
「黒鋼さん!やりました!1位です!!」
サクラの喜びの声に、返事は無い。
ぐらり、と覆いかぶさってきた黒鋼の緩衝服の背は、大きく裂けていた。
「黒鋼さん!!・・・小狼君!ファイさん!黒鋼さんが!!」
3位でゴールした小狼とファイが駆けつけてくる。ゴール近辺はにわかに蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
鈍い痛みで目が覚めた。
「あー黒様、気が付いたー?」
その声は、どこか安心したように。
何とか目を開けてみれば。覗き込む小狼、後ろにファイ。
そこは病室であるらしい。自分は横向きに寝かされており、抱き枕のような物を抱えさせられていた。
身体が、動かない。
「無理して動いちゃだめだよー?頭も強く打ってるからってー。」
「あ、背中の傷は浅いそうです。緩衝服のおかげですね。」
小狼も安心したような声を出す。頭痛がひどく、声を出す気になれないが、それでも。
「・・・小僧・・・・。」
「はい、なんでしょう?」
「・・・姫は・・・・怪我は無いか・・・・?」
「大丈夫です。『羽』も取り戻しました。姫は今眠っています。」
そう言って視線をずらす。その視線をたどると、ベッドに凭れて眠るサクラの姿が目に入った。
「サクラちゃん、黒たんが起きるまではって言ったんだけど、『羽』はちゃんと取り入れておいた方がいいよって言ったんだ。」
黒たんが目覚めた時、『羽』を取り込んでいなかったら、きっと心配するから、と言われて、サクラも頷いたのだ。
「・・・小僧。姫を宿に連れて帰って寝かせてやれ。」
「そうしたいんですが・・・姫が。」
ちょい、と指差した先は、サクラの手。
しっかりと黒鋼にかけられた毛布を掴んでいる。
「さすがに病院の毛布ごと姫を運ぶのは・・・・。」
それも、然り。
「じゃあそこのソファに寝かせてやれ。毛布は持っていっていい。」
「え・・でもそれじゃあ・・・・。」
「オレ、もう1枚毛布を貰ってくるよ〜。」
ファイが病室を出て行く。小狼は失礼します、といって、毛布にサクラをくるみ、ソファに運んだ。
きゅっと。
毛布を握り締めたその手に力がこもったような。
しかし温かさに包まれて、サクラはさらに深い眠りに落ちていく。
「お父さんのあったか毛布だね〜〜♪」
新しい毛布を黒鋼にかけながらファイが茶化す。状態の悪さからツッコミも出来ないが。
「じゃあオレ達、用事を済ませてくるね〜〜。」
レース後のパーティやらその他の行事に出なければならない。二人は病室を出て行った。
「黒ぽんも、ゆっくり寝るといいよ♪サクラはモコナが見てるから!」
あんまり役に立ちゃしねぇよ、と呟きつつ。黒鋼はソファの方を見遣った。
安らかな寝息を立てて眠る、砂漠の姫。
「疲れただろう。・・・お休み。いい夢を。」
聞こえるか聞こえないかの声で呟いて。
黒鋼もまた、目を閉じた。

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