「得物は任せる。」
王はそう言った。
俺の『蒼氷』には変わりはないが、問題はこのヘライのだ。
今まで遣ったのを見た事があると言えば、高麗国での棒術ぐらいだ。
しかし『棒』では戦場では如何ともしがたい。
もちろん、それを武器に使う者もいるが、それは『極めた』者だ。
こいつが『極めて』いるとは思えない。
―――――――全く、『言葉が通じない』というのは、面倒でいけねぇ。
武器庫には、それこそありとあらゆる武具が揃っていた。
俺でも魅力を感じるような刀もある。
ヘライのを見て。
俺を指差し、次に蒼氷を指した。
それからヘライのを指し、次に武器庫の中を指した。
こいつは聡いから、俺が言いたい事は解った筈だ。
実際。
中に入り、きょろきょろと見渡している。
そしてやはりと言うかなんと言うか、棍(=棒)を手に取った。
「そいつは駄目だ。」
俺が首を横に振ったのを見て、不服そうに口を尖らせている。
それでも次を探し始めて―――――――やがて一張りの弓を手に取った。
(弓、か。)
これならいけそうだ。近づいて、その手の中の弓を取る。
ビィン、と弦を鳴らして。
「こりゃあ・・・『強弓』だな。お前にはちょいと荷が重い。」
元の位置に戻して、別の弓を取る。
何本か張りを確かめて、これなら何とかなりそうだと思えるのを手渡した。
へにゃん、と笑って、それを受け取る。
「使った事あんのか?」
言ってしまってから、あぁ、言葉が通じないんだった、と思い至る。
「少し肩慣らしをしたいが。」
案内をしてきた者に問うと、射場に案内してくれた。
「射てみろ。」
決まった位置に立たせて、彼方の的を指差した。
その意を察した魔術師は弓を構える。
(・・・・おい。)
弓が、引けない。
ちょっと困った顔をしている。
「・・・こうやるんだ。」
背中から、手を添えて、弓を引く。
力の撓め方、弦を引くタイミング。
どうやら1回で理解したらしい。
手を離すと、今度は楽々と弓を引き絞った。
ぱぁん!と放つ。
しかし的には届かず、しかも大きく外れた。
少し悔しそうに。
第2矢を引き絞る。
1回目よりも、大きく、強く。少し照準も調節するように。
「・・・・ふん。」
第2矢は、的の端の方に射当てられた。
1回で此処まで修正してくるとは。
(やはり、こいつ、かなり戦い慣れてる。)
第3矢で、ファイは的に的中させた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「では、始め!」
声と共に。
踊りかかってきた兵輩は、ほぼ一瞬で地に叩き伏せられた。
その時走った銀光を、一体何人が認め得たのか。
「お前の強さ、しかと見届けた。」
王は満足そうに笑い、次を促した。
幾つもの的がランダムに用意される。
相変わらずへにゃりとした微笑みを浮かべたまま。
ファイは指定の位置に立った。
的の位置を流れるように見遣る。
そして、すう、と。
矢を弓に番えた。
そこにいた誰しもが、予想だにしない『モノ』を見た。
予想していたとはいえ、さすがの黒鋼も、驚かざるを得なかった。
『気』が。
凄まじい冷酷さを併せ持って張り詰めた。
高い耳障りな音すら伴って。
絶対零度の『戦気』を身に纏い。
その双眸に妖しいまでの光を帯び。
その金の糸を煌かせて、魔術師は弓を引き絞った。
放つ矢は。
右に。
左に。
上に。
下に。
それこそ自在に直線軌道を描き、それぞれの的の中心を射抜いていく。
全ての的に的中させて。
魔術師は心地よさげな笑みを、その口元に浮かばせた。
人々は知った。
そこに立つ『その人』こそは。
金の髪に光を弾かせた、玲瓏なる戦神なり、と。
「・・・満足だ。」
それは、王の心からの賞賛。
黒き疾風と、金の魔術師が、夜叉王のしろしめす『夜魔ノ国』に、その居場所を得た瞬間だった。
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