素焼きの壺に、水を張る。
それを屋外に置いておく。
砂漠の夜は殊の外冷える。
こうすれば――――――――――。
――――――――――― * ――――――――――
「小狼!またお話して?!」
サクラは小狼に会うたび、異国の話をせがむ。
猛獣に追いかけられるのも。
密林の中で遺跡に出会うのも。
何もかもが心躍る、魅惑の連続。
小狼も、今まで体験したことを誰かに話すのは嬉しいのだろう。
思いつく限りの話をする。
そしてそれは無限の泉からあふれ出るがごとく。
いつまでたっても話の種は尽きないのだった。
その中に。
雪と氷の国の話があった。
「とても寒いんです。1年中、雪が降っていて。」
「『雪』?『雪』って・・・・何???」
そこで小狼は固まった。
『雪』を?
知らない??
驚いた表情のままの小狼に、藤隆が助け舟を出した。
「砂漠の国である玖楼国では、雪が降ることはとても稀なのですよ。」
ハイ、とお茶を渡しながら言葉を添える。
「10年近く前に降ったのが最後だ、と聞きましたね。」
「・・・・・・・。」
そんなに前なら。
もとよりサクラが知るはずも無い。
「サクラ姫、『雪』というのは、氷の結晶なのです。」
「氷?」
「見たことはありませんか?冷たくて透明な。」
「・・・・・・・あぁ!!」
サクラはポン!!と手を打った。
「料理長が作ってくれたかき氷!!果物の蜜がかけてあったの!!」
「そう!それです。その氷の粒が、ひらひらと空から落ちてくるのですよ。」
「・・・すごい・・・・・!!」
夢見るようなサクラの瞳に、小狼は苦笑した。
「『雪』・・・・見てみたい・・・・・・・。」
それは叶わぬ夢なのだが。
「でも、ちょっとだけなら。」
できるかもしれない――――――――――。
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あちこちに頼んで回って、素焼きの壺を集めてきた。
それに水を張る。
砂漠の夜の冷気は、壺にしみこんだ水の蒸散と共に水温を下げる。
そうすれば――――――――――。
「・・・できた・・・・!!」
一つ一つ、丁寧に取り出す。
サクラには、とにかく早く来てくれ、とだけ伝えた。
丁寧に削って。
ひたすら待った――――――――――。
「小狼!!ごめんなさい!!寝坊しちゃって!!」
窓の外に響いた声。
準備した壺の中身を見る。
(まだ、大丈夫!!)
「サクラ、窓の外で待ってて!!」
「え?」
何故なのか、という問いには答えず、小狼は2階の窓を開き。
手にした本でパタパタと風を起こし。
壺の中身を風に乗せた――――――――――。
「わぁ・・・・・・・・・・・っ!!」
感極まったような、サクラの声。
太陽の日差しを浴びて、それはほとんどサクラには届かずに消えていく。
しかしいくつかは届き――――――――――。
「・・冷た――――――――――い!!」
嬉しそうな悲鳴。
風に乗った氷の粒は、キラキラ光りながら降り注ぐ。
一生懸命作った『氷』。
それを削って作った『雪』。
本物の『雪』には程遠いかもしれないが。
それでも。
「小狼・・・・・ありがとう!!」
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砂漠の国に、花が咲いた。
煌く光に満ちた、『氷の花』が。
嬉しさに心躍らせる、『花のようなエガオ』が。
それはまだ、砂漠の国が安らいだ時間を刻んでいた頃の、遠い遠いユメの思い出。
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