<5000HIT記念 キリ番リクエスト小説>

      「 雨 の 前 兆まえぶれ 」




カシン!カシン!
硬い木の打ち合う音。
此処最近、午後になると毎日のように見られる光景。
宿の庭、取りあえずは誰の迷惑にもならない所で、小狼は毎日黒鋼と打ち合っていた。
「まだ・・・・踏み込みが・・・甘ぇ!!」
声と共に。
木刀が一閃し、小狼の手から得物が飛んでいく。
「・・・つぅ・・・!」
じぃん、とくる重い衝撃。
体重の差ではない。
明らかな力量の差から来る、『衝撃』。
(まだまだだ、俺は。)
首を振って。
「もう1回、お願いします!」
「・・・ちょっと待て。」
少し考えて。
「『緋炎』で、来い。」
「え?!」
小狼は耳を疑った。
『緋炎』を使う、という事は、『真剣勝負』。
「こっちは『これ』でいく。・・・『蒼氷』は長すぎて『互角稽古』にならねぇ。」
そう言って、練習用に手に入れた、ごく普通の刀を取り出した。
「『互角稽古』・・・・・?」
「同等の力量という意識でやる稽古の事だ。」
「・・・・・・。」
「不満か?」
「いえ。・・・お願いします。」
「念の為言っとくが。」
口元が、ニヤリ、と。
「『蒼氷』じゃねぇからって甘く見るな。・・・これだって『斬れる』ぞ。」
「・・・・はい!」
小狼は知っている。
下の者が上に合わせようとするよりも。
上の者が下の者に合わせようとする事の方が難しいという事を。
小狼は『緋炎』を抜刀した。
途端に炎が吹き上げる。
「来い!」
小狼は黒鋼に斬りかかっていった。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「大丈夫でしょうか・・・・・?」
心配そうに、おろおろと。
手を握り合わせて落ち着かないサクラに、どこか可笑しさを覚えて。
「大丈夫だよ。あぁ見えても、良い指導者のようだ。」
本人が聞いたら、どんな風に否定するのだろうか。
(しかし、『どちら』を心配しているのやら。)
くつくつと。
笑いながら、打ち合う2人を見遣る。
そんなこととは露知らず。
『傍目には互角』の打ち合いを展開する2人からは、汗が煌いて飛び散る様が見て取れる。
一瞬。
「・・・・ふぅん。」
思わず口から声が洩れたことには。


『緋炎』の炎が消えていた。


「・・・あ!」
サクラも気付いて。
「炎が消えましたよね?ねっ?ねっ??」
詰め寄らんばかりに服を揺さぶって。
その顔は、しかし満面の笑顔。
『緋炎に認められていないから炎が出る』と小狼自身が語っていた。
だったら、『炎が消えた』という事は。
「小狼、『緋炎』に認めてもらえたのー!!」
ノー天気に飛び回る白い物体は、思いっきり立ち合いの邪魔をしに行った。
「白まんじゅう―――――――っ!!」
当然のように黒鋼の怒りを買い。
キャーキャー言って飛び回るモコナを追いかけて、稽古は自然消滅してしまった。
「おやおや。」
半ば呆れて。
ちょうど沸いた湯を手桶に入れて、手拭いを放り込み。
『素手』で、ひょい、と絞った。
「・・・・・あ・・・・・熱くないんですか・・・・?」
ぎょっとして。見開いた翠玉の瞳はまん丸だ。
「いや、全然。」
魔法でガードしていると言っても、呪文を詠唱しない以上、理解は難しいだろう。
小さな盆の上に絞った手拭いを乗せて。
「はい、配達。」
サクラは受け取ると、慌てて走っていった。入れ替わるようにモコナが帰ってくる。
「ソエル、追いかけっこは終わりか?」
「うん!・・・・あ!来たよ!」
モコナの口からポーンっと飛び出した物を見て、リアンの目がふっと和んだ。
「・・・・さて。クロウの『お奨め』は、どんな物かな?」


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「・・・・!」
「ごめんなさい!沁みる?」
「いえ、大丈夫です、姫。」
木刀同士で打ち合った時の打ち身に加えて。
あちこちに服を裂いてにじむ『血』。

「『蒼氷』じゃねぇからって甘く見るな。・・・・これだって『斬れる』ぞ。」

これはこの意味だったのだ。
実は黒鋼が使った刀は、『刃』がつぶしてある。
その意味では『木刀』と同じだ。
それなのに。
『緋炎』以上の鋭さで空を裂き、服を切り裂いていった。
その纏う『気』が裂帛の気合いを放つ。
おそらくは『手刀』であったとしても、身体を切り裂く事が出来るだろう。
『剣技』を使う黒鋼には、『気』の使い方に一日の長がある。
まだまだ、彼から学ぶ事は沢山有る。
(先は長いんだ。)
小狼は気を引き締めた。
だが。
「・・・おわぁっっ!!!・・・」
「キャッ!ごめんなさい!!」
薬が多かったのか、それを塗る力が強すぎたのか、はたまた包帯を強く巻きすぎたのか。
ついうっかり大声を上げた小狼と、思わず動転したサクラの声が重なる。
「二人とも〜〜〜らぶらぶ〜〜〜〜♪」
「・・・モコナ!!」
「・・・モコちゃんっ!」
3つの声のハーモニーが、木陰の葉を揺らして囁いた。


************************************************


「・・・お前は、どう思う?」
首筋を手拭いで拭きながらかけられた問いに、軽い視線を返す。
「小僧は『緋炎』に認められたと思うか?」
「・・・その事か。」
軽く、笑って。湯飲みの湯を急須に戻す。
「『緋炎』は最初から小狼を認めているよ。」
「・・・・・何?!」
「『あれ』は気難しい。そして結構頑固だからね。」
ふふっと。
「何故自分が小狼を『認めてしまった』のか、自分で自分が解らなくなっているのだよ。」
「・・・・何だそりゃ。」
「八つ当たりと言えばそうなのだが。」
くすり、と笑う。
「己が認めるに足る域に到達するまでは、『認めていない』振りをするつもりだろう。」
『あれ』はかなり依怙地な悪ガキだ、と付け加えて。
「・・つまりなんだ、お前が小僧に言ったのは、『嘘』なのか?」
『認められていない』から『炎を出す』のだと。
それを聞いたから、小狼はさらに修行に熱を入れるようになっていたのに。
「『嘘』ではないよ。『本当に』認められていないなら、やはり炎は出る。」
とぽとぽ、と急須から湯飲みに茶を注ぐ。
「小狼はまだその『域』には達していない。『緋炎』の『声』は、小狼にはまだ聞こえてはいない。」
「・・・・・・・。」
「『声』が聞こえた時こそ、本当に『緋炎』が小狼を『認める』時だ。」
「それは、『何時』だ?」
「そればかりは、本人次第だな。」
そう言って、コトリと湯飲みを前に置いた。
何の気なしに手にとって、一口飲んで。
その紅玉の目を驚きに見開いた。
「・・・『玉露』じゃねぇか、これ・・・・・。」
「ほう、『日本国』でも『玉露』と言うのか。」
見れば湯飲みも急須も、『朝には此処に無かった』ものだ。
「侑子に送ってもらったのだよ。もちろん対価は払ってな。」
「・・・対価は何だ。」
「この国の美味い酒を3本ほど。」
そう言って。小狼とサクラとモコナに湯飲みを渡す。
「・・えぇ?!これ、甘いです!」
「本当だ・・・・!」
「これ、『玉露』っていう種類のお茶なのー!」
「お茶がこんなに甘いなんて・・・・。」
「『玉露』は特別なのー!侑子の居る『日本』のお茶だよー♪」
「へぇ・・・・・。」
感心して、小狼もサクラも湯飲みのお茶を見つめている。
「この会社の茶は、確かに味がいい。クロウのめがねに叶っただけの事はある。」
ぴく、と。
何故自分の眉間に皺が寄ったのか、わからないのだが。
「?クロウ、って誰なんですか?」
黒鋼は思わず茶を噴き出しかけた。
自分が『聞くに聞けなかった』事を、よりによって『本人』に聞くとは。
だがしかし、と思いなおす。
サクラの問いは、『玖楼国』との発音の相似から発せられた物だ。
『あの時』、『弟子』のことを『聞いた』のは、モコナと自分だけのはずだ。
その時爆睡していたサクラが知るはずはない。
(・・・姫が『弟子』の事を知ってるわけねぇし・・・・まぁ、聞くのは当たり前、か・・・・。)
「あぁ、『日本』に居る知り合いの名前だよ。中々の食通でね。」
答は、核心には全く触れずに、拍子抜けするほどあっさりと語られた。
しかも小狼もサクラもそれで納得をしてしまう。
望んだ答は、なおも得られない。

その『知り合い』は。
かつての『弟子』で――――――――。
『不世出の魔術師ウィザード』と、リアンをして掛け値なしに賞賛させる、高い魔力を持ち。
『この人』に『あの表情かお』をさせる―――――『男』。

そして、『彼』はもう――――――――『居ない』。

「どうした?」
戻ってき様に、眉間の皺を深くしていたのを見咎められて。
「・・・何でもねぇよ。」
その声音が不機嫌なのが自分でも解るだけに、妙に腹が立つ。
「?」
小首を傾げつつ。
コップに水を入れて、盆に載せた。
何だ?と問えば。
「ファイに薬を、な。」
ただ1人撃沈を続ける魔術師は、未だ臥せったままだ。
いー加減に治らんかなー?と呟きながら、薬を持って2階に上がっていった。


モコナがサクラに玉露の淹れ方を教えている。
飲んでみて下さい、と出されたのはまあまあ甘く。
「いいんじゃねぇか?」
とだけ言ったら、サクラはとても嬉しそうな顔をした。
初めて淹れたにしては上出来だろうが。
リアンの淹れたものの持つ『深み』には敵わない。
(腕か、それとも。)
『弟子』のおかげなのか。
あの『広東かんとん粥』とやらも、『弟子』の『直伝』だといっていた。
『玉露の淹れ方』も、『弟子』が教えたのだろうか。
(・・・・くそ・・・。)
甘いはずの『玉露』が。
何だか『苦く』感じられて。


柔らかな日差しが、ふと陰る。
風が微かに雨の匂いを運んできた。
ちょうど降りてきた夕闇色の瞳が、空を見て。
ぽそり、と呟いた。
「今夜は、雨かな。」


黒い、影の。
心の、中も。



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「5000HIT」をゲットしてくださった、熊様に捧げる(ちょっと長い)ショートショートです。

いや〜〜〜思いっきりノッて書かせていただきました!
場面は『エステリアランドから逃れた先の国』です。(えーかげんこの国にも名前を付けんといかんかな〜。)
皆がぶっ倒れて順次回復した辺りです。
最後で解るとおり、本編で『完全ダウン』していたファイはまだ熱が下がってません。
ファイもできれば出したかったんですが、そうするとお茶出し係がファイになってしまうので。^^;
お好きな傾向が『小狼とサクラ』『黒鋼とリアン』だったもので・・・ごにょごにょ。
ソエルは何とか出しましたんで、どうかご勘弁を。(平謝り)

『緋炎』=『依怙地な悪ガキ』は、こぼれ話に書いた、『熱血少年』ネタです。(第1章ー3)
擬人化ぎりぎりですかー?これって。

しかし最後が何でこうなったのかは・・・・・何ででしょう?(おーい)
こら〜〜忍者〜〜自分が心荒れてるからって、もうちっと姫には優しくしろ〜〜〜。


『玉露』、実はメーカー名を明記していたんですが、さすがにイカンかなあ、と思って外しました。
有名な老舗なんで、ご存知の方も多いと思います。お中元のこの時期、各デパートなどにも出ているかと。
何か知らんけど好きなんです、『一○堂』のお茶。(苦笑)

熊様、ありがとうございました!

           作者・シュウ   2006.06.13UP

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