花の香りに包まれて。
髪に、胸元に。
あるいはそれをモチーフにして。
『自分の花』を大切にするこの国の人たち。
「ようこそ、『モデフレア共和国』へ!あなたの『花』はどれですか?」
―――――――――――――― * ―――――――――――――
この国には『羽』は無い。
というよりは、この国に在る『ある物』を手に入れなければ『次の国』で『羽』が手に入らない。
RPGなどではよくあるパターンだ。
幸いにして『ある物』を手に入れるのは簡単なようだ。
ただそれが日持ちがしないようなので、最後に手に入れることになった。
前の国で。
小狼が足に、ファイが肩に傷を負っていた。
少し強行軍だったこともあり、まずは静養してから、ということで意見の一致を見たのだ。
しかし宿を取るにはまだ時間が早い。
それに、まずしなければならないことがあって――――――――――。
「花には『花言葉』というのがあるんだよ。」
大通りの一角、噴水近くのベンチでファイが説明をする。
「花それぞれに言葉は違う。色によって違ったりするものもあるんだ。」
「花をとても大切にするお国柄なんですね。」
小狼は、今までこういう国には来た事が無い、といってきょろきょろと見渡した。
「・・・ここの人たちは、その花言葉から『自分の花』というものを決めているみたいだね。」
その花は、自分の護り部となるのだという。
生花や造花、あるいはそれをモチーフにした飾りを必ず身につける。
「『守り袋』みたいなもんか。」
『花』を身につけることはお断りだが、それをモチーフにした飾りなら。
もちろんそれでも眉間に皺は増えてはいるのだが。
「サクラなら何の花――――――?」
モコナが問えば。
皆もうーん?と考える。
「『スノーフレーク』がいいんじゃないかな?」
花言葉は、『皆をひきつける魅力』。
「花自体も可愛らしいし、いいのではないのか?」
「んじゃ〜〜決まり〜〜!」
真っ赤になったサクラの髪に、ファイがフラワースタンドから貰ったスノーフレークを挿す。
「小狼君はー?」
えっ!!となってあわてて手を横にブンブンと振る小狼にかまわず、ファイとモコナは同じように腕を組む。
「うーん?」
「うーん?」
「カーネーション。」
「え?」
モコナがぴょん、と跳ねる。
「花言葉は『良き競争相手、純粋な愛情、貞節、若い娘』・・・・。」
ちょっと違うんじゃ?という目。
深い紺の髪が、風を受けて横に振られる。
「『あらゆる試練に耐えた誠実』。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・いいかも、ね。」
微妙な色の苦笑いを浮かべて。
小狼はカーネーションのバッジをつけた。
「モコナはー?」
「『白饅頭』っていう花言葉の花はねぇのか。」
「そんなのあるわけないのー!!」
ボカスカとパンチを繰り出す。
いい度胸だ、てめぇ、とじゃれる2人、もとい1人と1匹を尻目に。
2人の魔術師は意見の一致を見る。
「『アイスランドポピー』で決まりだろう。」
「確か『慰め、いたわり、陽気で優しい、思いやり』だったよね。」
本来は髪留めなのだろうが、耳の根元にちょこんと、造花をつけた飾りをとめる。
「これで子供たちは完成〜!さあ次は大人の時間〜〜〜!」
じゃあまず黒様から!!と言うファイの目が、実に嬉しそうだ。
反対に黒鋼の眉間の皺はさらに深くなる。
「『苧環』、かな。」
「『オダマキ』?」
「花言葉は、『断固として勝つ』。」
最高だー!!と笑い転げる白き魔術師。
モコナは早速小間物屋らしき店にすっ飛んでいって、なにやら貰って帰ってきた。
「はいこれ!」
「何だ?」
「ループタイなの〜。」
しかし今の服装にも合いそうにない。
結局蒼氷の鞘に結びとめることになった。
「ファイさんは・・・・・。」
「今度は俺たちが考えます!!」
うんうん唸る小狼とサクラ。
モコナも小狼の頭の上で腕組みをする。
その一生懸命な姿に、思わず笑みがこぼれた。
「決めました!!『姫百合』です!!」
は?という顔の大人組に、2人は説明する。
「花言葉は、『強いから美しい』です!!」
「ファイさんにぴったりだと思います!!」
「ファイはとっても美人なのー!!」
思わず刻んだ表情が『おいおい』といっている。
それが果たして『男性』に対する賛辞であるのかどうかは別として。
一生懸命考えてくれたのだから、とファイはそれを受け入れた。
さて。
最大の難関、は。
――――――――『この人』に合う花言葉を探すのが―――――――難しい。
「オンシジュームは?『印象的な瞳』って!」
「風船唐綿はどうでしょう?『隠された能力』だそうです。」
「『物事に動じない』ってことで『葉牡丹の葉』は?」
「ファイ、それ、『花』じゃないよ?」
「あ、そうか〜。」
「ナスタチュームで『有能な人』とか?」
「こうなったら、どーん!と『極楽鳥花』!!花言葉は『万能』!!」
「いいとは思うが、『花』が合ってねぇな・・・・・・。」
ぼそ、と呟かれたツッコミに、ファイが反撃する。
「じゃあ、黒様も考えてよ!!」
「あぁ?!何で俺が!!」
黒様だけ何も考えてない!!という非難を受けて。
キレた黒鋼は、フラワースタンドから、ガシッ!と1本の花を掴み出した。
「ほら!これにしておけ!!」
「く・・・黒様・・・・。」
「黒鋼・・・それは・・・・。」
明らかにヤバい、といった顔つきのファイとモコナ。
突きつけられた当人は、少し驚いた表情だったのだが。
だが微かに笑って受け取った。
ありがとう、と。
「リアン・・・・いいの・・・?」
頭をガシガシ掻きながら歩み去った黒い背中を見送って、モコナがそっと尋ねた。
「何が?」
「・・・その花・・・・。」
「ああ、これか。」
手にしているのは――――――――――カトレアの花。
「侑子の台詞を借りるなら、『これもまた必然』なのだろうな。」
軽く笑って。
そろそろ宿を取りに行こうか、と歩みを促す。
歩き出した一行の後方で、ファイとモコナはそっと声を潜めた。
「ねぇ、ファイ・・・・・。」
「うん・・・『知らない』って怖いよね・・・・・。」
「あれの花言葉って、確か・・・・。」
「・・・・・・・『成熟した年配の人の魅力』・・・・・・・。」
いや、当たっているといえば当たっているのだが。
――――――――――永遠ともいえる時を渡ってきているのだから。
しかし。
「ストレートすぎるよね・・・・。」
『年配』という言葉は。
少なくとも女性に対してはタブーともいえるだろう。
「『品格の備わった優美さ』っていうのもあるから、そっちに解釈すれば・・・・。」
「解ってて受け取ったんだから、心が広いってことに感謝しようね・・・・。」
そうでなければ、『とんでもない事態』になっていただろうから。
ごそごそ語り合う白い大小に眉間の皺を増やしつつ。
一行は宿の中に入っていった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
宿の主人とカウンター越しに会話をして。
ツインとトリプルの部屋を取る。
皆が花をつけているのを見て、宿の主人も嬉しそうに顔をほころばせていた。
この国の人は。
本当に花が好きで。
花と共に生きているのだ――――――――――。
「ではご案内しますね。」
ルームキーを持ち、宿の主人が先導する。
カウンターから離れかけた時。
近くの揺り椅子に座っていた老婆がふと顔を上げた。
「お前さん・・・・花が『違う』ね・・・・。」
微かな声は、時の渡り人に向かって。
すい、と花を差し出してくる。
「お前さんの花は、『これ』だね。」
黙って受け取る。
「どちらも、『私の花』だ。」
老婆の目が細められた。
それは、どこか嬉しそうに。
*******************************************
夜が更けて。
小狼とファイの治療も終わった。
正確には治癒魔法をかけたのだが。
あまり得意ではない、と言っていたのを如実に示すかのように、『完全に』治せるわけではなかった。
それでも通常の治癒レベルから考えると格段の差がある。
ただ対価として、かなり身体が疲労するため、十分な休養を必要とする。
安眠できる香を焚き、心身をリラックスさせるというハーブ茶を飲み。
ファイと小狼は早々に眠った。
サクラとモコナもつられてか、ぐっすりと眠っている。
夜の街。
細い月の幽かな光の下。
時の渡り人は独り佇んでいた。
『ある物』を手に入れるための準備のために。
ふと、気配を感じた。
「まだ寝んでいなかったのか。」
「それは、こっちの台詞だ。」
黒き影は、音も無く歩み寄る。
「女が独りでこんな夜更けにちょろちょろしてんじゃねぇ。」
「あぁ。もう、終わった。」
戻るよ、と。
ふわ、と歩みだした、その腕をぐい、とつかんだ。
「?」
「花・・・・違うのか・・・・・?」
老婆の言葉を耳に留めていたのか。
「何の花なんだ?」
微かに笑って。
差し出したのは――――――――――。
「杜鵑草だ。」
「花言葉は・・・・?」
「――――――――――『秘めた意思』。」
眉間の皺が深くなった。
お前も。
あのへらいのと同じか。
心のうちに、『何か』を秘めて。
自分だけで抱え込んで、決して外には見せないのか。
俺は。
――――――ただ、見ていることしかできないのか――――――?
「でも、この花のほうが好きだな。・・・・お前が選んでくれた。」
カトレアの花にそっと唇を寄せて。
風を受けるその髪に、その後ろ姿に。
ドクン、と心臓が跳ねたのは。
だが、それが『何』であるのかに気づくには。
どちらがどちらとも。
『知らなすぎる』世界にいたことが。
不幸ともいえるのかもしれなかった。
**************************************
カトレアには。
もうひとつ、花言葉がある。
それは。
――――――――――『純粋な愛』。
*******************************
|