「ゆ・う・こ・さ・ん――――――――――っ!!」
少年の叫びが響き渡る。
「あのですねえ!!何時になったら、『片付ける』って事、覚えるんすか?!」
「あらぁ、四月一日がいるじゃない。私はい・い・の♪」
「いい加減にしてくださいよ―――――――――っ!!」
「四月一日がキレた――――――――――♪」
「キレた――――――――――♪」
「キレた――――――――――♪」
「そこ!!合唱しない!!」
いくら『必要としない者には存在を認識されないミセ』であるといっても。
これだけの大騒ぎが、よく辺り中に知れないものだと思う。
叫びつつ、ツッコミを入れつつ。
割烹着に三角巾のいでたちの少年は、一瞬たりとも手を休めることがない。
「ほーんと、働き者よねぇ〜〜・・・。」
いいバイト君だわ、と次元の魔女・侑子は満足そうに冷酒を傾ける。
「四月一日は、『このミセに望まれた』存在だな。」
黒いモコナ・ラーグの言葉は、正しいのだろう。
チーズのカケラをぽんっ!と口に放り込む。
「そう、全てが『必然』。四月一日がここに居るのも、あの子達が旅をするのも。」
見上げる空は、どこまでも、青い空。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
もう『宝物庫探検隊』とでも命名したい気分だ。
いったい何度この中を片付けているだろう。
もちろん一度にしてしまうのは無理な話で。
ある程度エリアを決めてやっている。
しかし、その上でさらに侑子が放り込んだり、取り出したりするものだから遅々として進まない。
それでも。
少しでも片付けようと四月一日が努力し続けるせいか、ようやく系統立てた整理、というものが見えてきたようだ。
陶器は、こちら。
掛け軸は、あちら。
箱書きのある物、無い物。
壺か、皿か、画仙の逸品か。
これなら何も知らぬ者に『あれを取ってきてくれ』と言っても、ちゃんと解るような気がする。
今日も、よい天気。
「よし、今日はこっちの棚だ!!」
敢然たる決意を胸に。
はたきを右手に、雑巾を左手に。
大き目のマスクをばっちりはめて、完全武装の戦士が突入していった。
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「・・・・ぐぇっげほっ・・・・・なんだこの埃は!!」
早速始まった、『戦闘』。
可能な限り運び出し、はたきをかけ、埃を拭い、中身を確認して包みなおす。
毎回毎回棚1つを整理するのに膨大な時間を費やしてしまう。
それでも先は見えてきたようにも思うので、作業にも気合いが入る。
「・・・・これは・・・・・。」
大きな箱を除けた時。
その後ろにあった『モノ』に、四月一日は目を見張った。
とても長い、日本刀。
その柄には龍の首がかたどられている。
傍らには、なにやら光るような、しかしペランとした黒い文様。
「これって。」
あの日、あの時の――――――――――。
しとしとと、降る雨に。
濡れていた、『異様な』客人たち。
眠る少女を抱きしめた少年。
黒き衣と、血の匂いを纏った大男。
白き衣に、何か不可思議な気配を漂わせた金髪の青年。
『次元』を超え、遙かな世界への跳躍を望んだ彼らが。
ある者は、決意を込め。
ある者は不承不承に。
ある者は諦念を垣間見せて。
差し出した、『対価』。
四月一日の記憶に鮮明に残る、『それ』は。
蔵の、こんな片隅にあったのだった。
「侑子さん。」
背後の気配に気づいて振り返ると、侑子が立っていた。
その目は、その『モノ』たちを見つめて。
「たまには虫干ししてあげないとね。」
刺青と、ガラスで出来た筒を持って、四月一日を促した。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「ハイ、『お薄』です。」
「ありがと。」
縁側に腰を下ろして。
四月一日にも座るように言った。
茶碗を回し、コク、と飲む。
視線の先には――――――――『対価』達。
「前にも言ったわよね。此処は『彼らがほんのひと時逗留する場所だ』って。」
この店に来ることは、その『モノ』にとって、『旅』の一環でしかないのだと。
「此処に『これ』があることは、今の『彼ら』にとって、とても大事なことなのよ。」
「・・・どういう意味ですか?」
答はすぐには返らず、茶碗の上に視線は留まるのみ。
「絆、というものはいろいろあるわね。『縁』と言ったり、『縁』と言ったり。」
「はい。」
「この刺青もこの刀も、彼らにとってとても必要なもの。出来れば取り戻したいと思っているもの。」
それは、そうだろう。
「そして、彼らを『この世界』に引き止めるためのモノ。」
「・・・『引き止める』・・・・?」
次元の魔女は、その長い睫毛を伏せた。
「自分を捨てないように、『あちらの世界』に自ら踏みこまないように。」
手にしたガラスの筒を弄ぶようにくるくると回す。
「侑子さん、それは?」
『対価』にそれはなかったはずだ――――――――――。
「これはあの2人の―――――――小狼とサクラ姫の、『対価』。」
「え?これが・・・・?」
彼らの対価は。
『関係性』だったはずだ――――――――――。
「その『関係性』で作られたモノ。そしてこれは2人にとって『希望』であり『絶望』でもある。」
『その先』にあるものを見そなわすが故に。
その表情は、翳りを見せて。
「帰ってきますよね?」
四月一日の質問に、侑子は顔を上げた。
「彼らは、『此処』に帰ってきますよね?・・・『忘れ物』を取りに。」
ふっ、と。
婉然とした、しかし寂しげな笑みが漏れた。
「そうね。きっと・・・・・・・『此処』へ。」
蝶が1匹、飛んでいくのを四月一日は確かに見たと思った。
――――――――――『夢色』の、蝶を。

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