怒号と喚声が渦巻く。
血に煙り、命火が煌く。
人ならぬモノの咆哮が、辺りを震わせる。
「いい度胸、してるじゃない。」
金髪に日の光を弾いて。
白き魔術師は至極ご機嫌斜めだった。
――――――――――― * ――――――――――
日本国に、人材がないわけではない。
しかし、それぞれに秀でた者を求めるには、やはり限りがある。
そんな中で、黒鋼は、まさに異色の、そして傑出した存在なのだ。
忍者としての、剣の技と。
剣技としての、破魔の技と。
両方を兼ね備えた人材は、さすがに居ない。
本当は居るのだが、その人は諏倭にあるため、員数外だ。
そして黒鋼もまた。
諏倭の領主となった今、いつも白鷺城に居るわけではない。
月の半分は、警護のために居る。
しかし残る半分は諏倭に戻る。
それを見計らうかのように。
増えるのだ。
――――――――――刺客や魔物の来襲が。
「馬鹿にしてくれちゃって。」
いったい何度、帰ったばかりを、あるいはその帰り道で、黒鋼は呼び返されたことか。
馬を飛ばしても2〜3日かかる道中、実際に諏倭に居れるのは10日もないだろうに。
帰れば、領主としての仕事が山積しているはずだ。
家族とくつろぐなど―――――――おそらくほとんど無いであろうと容易に推察されるのに。
時にはそれを、哀れとも思う。
そしてそれをカバーしきれない自分にも腹が立つ。
魔物相手には遠慮しないが、やはり人間相手では、遠慮が出てしまう。
その分忍軍や兵に負担がかかってしまうのだ――――――――。
「オレももう少し、割り切ったほうがいいのかも?」
自問自答してみる。
此処は、日本国。
時代は、戦国の世。
命のやり取りなど日常茶飯事の、この世界で。
人の命をどうこう、などということに斟酌しているのは。
やはり『きれい事』といわざるを得ないだろう。
それでも、やはり。
人の命を奪うことは、その命の分まで背負うことになる。
命の重さは、つぶれてしまうほど重い。
次元の魔女ですらそう言い切る、『命の重さ』。
『逃げている』のかもしれないが、しかし。
「やっぱりオレは、『魔物専門』係のほうがいいかもね。」
改めて。
魔法杖を構えなおした。
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黒鋼が諏倭に戻って以来。
帝の近習を勤めるファイにも、時々出陣の命令が下るようになった。
そして今回も。
いらっしゃいませ状態の魔物の大群を前に、ファイは口をへの字に結んでいた。
侍大将の説明によれば、今対峙している相手に人間としての戦力はほとんど無い。
魔物を操る術師が何名か居るだけだ。
しかし、魔物の量が、半端ではない。
『今までに無い大群です。』という報告があがっている。
しかも。
――――――――――そのほとんどが、『氷雪系』。
「よく調べてるねえ。」
明らかに『対ファイ布陣』。
彼が氷の国・セレスから来た氷雪の魔術師と知ってのこと。
氷系の魔法に、氷系の魔物は、強い。
これならば、いかに相手が近習を勤める異国の術師とて、一分の利があろうという目論見だろう。
ファイにしてみれば、『なめられた』といった所か。
一気に殲滅させ、日本国に侵攻を、と画策したのか。
「オレだって〜〜キレる時もあるんだよぉ〜〜〜?」
指示を出し、味方の兵を遠く下がらせる。
「巻き込まれたくないでしょ?」
にっこり笑って言われて、兵たちは慌てて後方に下がった。
凍りつくような、微笑み。
それが錯覚ではなかったと、彼らはまもなく知ることになる。
「んじゃあ〜〜いっちょ気合い入れてやりますか〜〜〜?」
トン、と魔法杖を地につける。
輝く魔法陣が現れて。
摩訶不思議な光を放ち始めた。
辺りにダイヤモンドダストが乱舞し、光のオーラがその金の髪を妖しく照らす。
神。
誰もがそう思った――――――――――。
――――――――――― * ――――――――――
吹きすさぶ風。
怒号を上げて渦巻く雪。
光り輝くオーラに包まれて。
静かに動いていた口元が、ようやくその動きを止めた。
「さあ・・・・・地獄への道案内、謹んで承り候・・・・・。」
演劇の脚本などを読んで覚えた口上を少し、真似して。
その口元に、妖しい微笑みを浮かべた。
ズズ・・・・・ン・・・と。
地響きがした。
魔法陣を囲むように。
地割れが地を走る。
瞬間!!
辺りを乱舞していたダイヤモンドダストが、一瞬で火の粉の嵐に変わった。
風に乗り。
炎が大地を駆け巡る。
「地獄に落ちろ!!『ヘルフレイム・クエイク』!!」
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氷雪系だとばかり信じてきた者が。
まさか炎熱系の魔法を繰り出すなど。
『聞いていない』といった所か。
しかし、相手に慮るほどこちらは優しくは無い。
大地に走った炎と地割れは、全ての魔物を飲み込み、消し去った。
「いや〜〜〜働いた〜〜〜。」
額に浮かんだ汗を拭って。
へらん、と笑ってみせる。
その落差が、信じられなくて。
後方に下がった兵たちは、ただただ呆然として、見ていることしか出来なかった。
そして。
彼らが仲間にどれほどその光景を説明しようとも。
誰一人として信じてもらえぬのも、また宣なるかな。
そんな騒動、どこ吹く風、と
ファイは階で茶と甘い菓子を口にしてのんびりと時を過ごしているのだった。
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