「オレと黒様、どっちが強いと思う?」
唐突に問われて。
何処からそういう話が、と問い返せば。
「ん〜〜〜、ちょっと小耳に挟んだんだけどね〜〜?食堂で言い争いがあってさぁ〜〜。」
城中での食事は、たいてい大膳寮が賄いをする。
そして食べる所は食堂と呼ばれていた。
そこは貴賤の区別なく食事をすることが出来る。
公達であろうと、忍者であろうと。
そこで言い争いがあったのだという。
「忍軍と陰陽寮とでねえ。」
「どちらが強いか、と?」
「うん。」
「そんなもの決まってる。俺のほうが強い。」
「あれ?それはどうかなぁ〜〜?」
「・・・どういう意味だよ?!」
「オレだって〜〜〜腕に覚えがあるってこと〜〜〜。」
有り得ねえ、とか、油断禁物、とか。
他愛もない、お茶の時間の小さな会話。
いつも一緒の3人の。
本当に当たり障りのない会話のはずだったのに。
「なーんでこうなっちゃうのかなー?」
「俺が知るか。」
憮然として。
黒い疾風は、思いっきり眉間の皺を深くした。
――――――――――― * ――――――――――
「あなたとファイとでは、どちらが強いんですの?」
「てめぇ、何処で聞いていやがった?!」
およそ会話として成立していないのもさりながら、こう言われてそう返すその即妙さ。
間髪いれずに発せられた答だけに、そのツーカーぶりに、ある意味感嘆するといったところか。
それがまったく賞賛の意味を持たないことは解っていても、そう思わざるを得ない。
蘇摩の思惑とは裏腹に、黒鋼は思いっきり眉間の皺を深くしている。
「噂ですわ。う・わ・さ。」
嘘つけ、と視線で責めて。
そんなもの、俺に決まっている、と言い放った。
「えー?絶対オレのほうが上〜〜。」
「全力で否定しろ。」
「やだー。」
たまたまなのか、それとも『必然』か。
天照からの用事を持ってやって来たファイが口を尖らせた。
まさに、絶妙のタイミング。
子供のケンカの様に、撤回しろ、お断りー、と会話が流れる。
「しょうがありませんわね。じゃあ、こういたしましょう。」
へ?と2人同時に知世姫を見遣った。
その視線の先には。
最上の(黒鋼にとっては『最悪の』)笑顔が。
「文句は言わせませんことよ。」
悪魔の微笑み、かくあらんや、と。
************************************************
確かに、これでは文句が言えない。
忍頭と侍大将が呼び出され。
天照直々の下知を承った。
「明日、御前試合を催す。出場する者を選抜せよ。」
徹底的に勝負をつける必要は無いが、それなりに褒美も取らせる、と。
忍頭には、さらに付け加えて。
「黒鋼はファイと対戦させる。それ以外を選み出すように。」
此処で俄然色めきたったのが、侍大将をはじめとする兵たちだった。
いつも何かといえば忍軍にしてやられている。
特殊な訓練を受けた忍軍に敵わない面は多々ある。
その中でも、『忍軍第一』の実績と力量を誇る黒鋼が相手では、どうにも分が悪い。
しかし、その黒鋼は近習である異国の魔術師の相手に立つという。
ならば。
他の忍の者ならば、あるいは相手になりうるかもしれない――――――――――。
「良いか!今こそ我らが力、天下に知らしめる時ぞ!!者共、心してかかれ!!」
「おおぉ!!」
異常なほどの気合いの入りようだった。
それと知って、忍軍も。
「兵輩何するものぞ!!真に強きは我らと、思い知らせてやれ!!」
剛真の号令一下、轟くような鯨波が巻き起こる。
「つか、みんな、肩に力入りすぎだ。」
呆れたような黒き疾風の声も、耳に入らぬかのよう。
異様なまでの戦気を孕み。
白鷺城は御前試合当日の朝を迎えたのだった。
――――――――――― * ――――――――――
「このような機会は、あったのか?」
天照に問われて。
昏き瞳は頭を振る。
「いえ。・・・・と言いましても、私が知らぬだけやも知れませんが。」
それは、『幽閉されていたが故の空白の時』。
その間に行われたのなら、『解らない』。
《 ・・・1度だけ、催された事がございます。王の在位15年を記念しての祝いの行事でござった。 》
まるで言い訳するかのように、『龍玉』――――――――ナーガが言葉を添える。
「ならば『初めて』だということだな。しかと・・・・・。」
「『拝見』させていただきます。」
一瞬の言いよどんだ言葉を、自らが口にして。
ふわ、とした微笑みに、哀しさを感じてしまうのは。
「済まぬ、な。」
「どうかお気に病まれますな。・・・・それよりも。」
「頼むぞ。」
「御意。」
傍に居た女官長には、何の事か解らない。
いや、それは、『龍玉』にも。
この御前試合は『真剣』を使わぬと定められているため、『銀竜』を預かる名目で手にしている。
何の話か、と問う『龍玉』に。
何事か、呟いた――――――――――。
「始め!!」
審判を拝命した陰陽司の号令の元。
御前試合は始まった。
とたんに沸き起こる、喚声。
応援する者達の声は、白鷺城の中庭を揺るがさんばかりに響く。
次々に、試合は進み。
ついに最後の試合――――――――――黒鋼とファイが中央に進み出た。
とたんに、水を打ったように、しん、と静まり返る。
「なーんでこうなっちゃうのかなー?」
「俺が知るか。」
恐ろしく気の抜けた会話が交わされる。
まさに、嵐の前の静けさといった所。
果たして。
この異国の者は、『強い』のか否か?
セレスでの激戦の末、日本国に『帰国』して。
傷を癒して、ようやく『近習』として勤め始めたのは秋も初めの頃。
その人当たりの良い笑顔と、何よりも玲瓏なその花顔に。
殆どの侍女と、一部の公達が『もっていかれた』。
皮肉っぽく言う者も居たが、それはただ『僻み』にしか聞こえず。
今ではファイの事を『悪く』言う者は殆ど居ない。
だが。
その『魔力』は、数回ではあるが目にしてはいる。
しかし剣などの『腕』は披露したことがなかった。
だから、黒鋼が『あいつは戦い慣れている。』と言っても殆ど信じてもらえない。
箸より重い物は持ったことがないに相違ない、と言い切る者まで居て。
同様に近習になった異国の姫もまた、剣などもってのほかの事と信じられていた。
「思い込みって、コワイよねー・・・。」
そう言いながら、2人で苦笑いしていた。
まあリアンはいいとして、ファイの方はあまりそういう誤解がまかり通っていても困る。
それゆえに、言い争いが発生したりするのだ。
黒鋼とファイ、どちらが強いのか、と。
さて。
どちらが『強い』?
得物が『刀』では、普段から実戦に従事する黒鋼に分がありすぎる。
元より、此処では『真剣』は使わぬ定め。
2人は。
長い棒――――――――――『棍』を手にしていた。
************************************************
ファイは高麗国での戦いの際、棒術で戦っている。
かといって、普段からそれで戦うわけではない。
一方の黒鋼は、素養として棒術の嗜みがある。
しかし得手というわけではない。
つまり、お互いに。
『もっとも得意』な物ではないということだ。
これならば、条件的に近くなる。
コンコン、と地を打ち。
ファイはにんまりと笑った。
「黒様、覚悟はいい?」
「てめぇこそ、その素っ首、洗ってきただろうな?」
黒様、コワーイ♪と茶化すその目がすでに笑って『いない』。
2人はキュ、と棍を握りなおした。
「始め!!」
陰陽司の号令一閃、凄まじい勢いで2つの影が交錯した。
「!!」
双方とも。
皮一枚の所でかわしきっていた。
金の髪をなびかせて。
棒高跳びの要領で地面に棒を立て。
身体をくるりと反転させて空高く舞い上がる。
身が軽いからこその、戦法。
そのまま落下のスピードを相乗させて猛然と突きを繰り出した。
「させるかよ!!」
切っ先ともいえる鋭い『気』を孕む先端をかいくぐり。
返す手で薙ぎ払う。
ふわり、と痩躯が宙に舞う。
蝶のように。
羽のように。
そして、鳥のように。
かわして、攻撃を繰り出す。
いなして、反撃する。
華麗な、という言葉がまさに示すかのように。
2人の戦いに隙はない。
凄まじいまでの気迫と熱気と裂帛の気合い。
居並ぶ皆は、ただただ固唾を呑んで見つめるのみ。
勝負が、つくのか?
誰もが、そう思い――――――――――。
そして、恐れた。
勝負がついて『しまう』、その瞬間を。
――――――――――― * ――――――――――
「のぅ、知世、黒鋼とファイ、いずれの方が勝りおると思う?」
姉である帝・天照の問いに、知世姫は目を丸くして。
「どうかなさいましたの、お姉様?」
「いや、ふと気になってな。何やら忍軍と陰陽寮とで諍いの種にもなっておると聞く。」
「・・・難しいですわね。」
諏倭から救い出した経緯、今までの付き合いの長さから考えても、黒鋼、と言いたい所だが。
(もしかしたら?)
『魔力』以外で戦った所を見たことがない、異国の魔術師。
どれほどの『力』を持つのか。
――――――――――確かめてみたくなった。
「どうかな。『御前試合』なんていうのは?」
「とても素敵な考えですわ、お姉様。」
これなら、あまり角は立つまい。
真の目的である『ファイの力を量る』というのも広言せずにすむだろう。
ファイを使う身である天照が、その力量を知らぬというのは憚られるので。
「本当はあっちも参加させたいのだがな。」
視線の先に、稀代の魔力を持つ人を捉える。
女が相手とて、皆の矛先が鈍るのは避けられない。
しかも、もし怪我でもさせようものなら、あの『黒くてでっかい』忍者が黙ってはいまい。
ファイと対戦させるのでは、本来の目的である、『ファイの力量を量る』ことが出来ない。
「無理ですわね。」
「仕方がないな。」
それは、『いかにも残念そうに』。
そう呟く天照の胸元に、組み紐を組んで作られたコサージュが揺らめく。
そこには『羽根』が挿してあった。
いつでも、天照を護れるように。
だが、これには実は弊害がある。
天照という『存在』が、掴みにくくなってしまうのだ。
心を読むことも、予見する事も。
それでも、これは知世姫の力を遙かに凌ぐ人のしたことだから。
自分としては、否とは言えない。
本当は、少しだけ、口惜しい。
今までは自分が『日本国で1番』だった。
それが今では『3番』だ。
ファイは自分に近いが、僅かに自分を凌ぐ。
そして、『あの人』は。
遙かな、遙かな、手の届かないほどの高みにいるのだ――――――――――。
それに阿る事も慢する事もしない、その人から。
『銀竜』を、しばしお預かりいただけませぬか、と頼まれた。
相も変わらず、この人の『考え』と『未来』は、ぼんやりとしていて、はっきりと『見えない』。
だから、そこにどんな思惑があるのか、全く読めない。
そして、その表情も。
『心の内』を全く読ませないのであるのだから。
それでも、他人に不利になるような事はしないと知っているからこそ。
知世姫はにこやかに『銀竜』を受け取った。
眼前の中庭では。
飛び散る汗を煌かせ、二人の戦士が熾烈を極めた戦いを展開していた。
固唾を呑む、一同。
咳ひとつ漏れ出ない。
凄まじい、『気』がぶつかり合う。
それは、戦頭を務める剛真の目にも、侍大将の目にも、驚きをもって映った。
(この異国の佳人、恐ろしい。)
黒鋼が『あいつは戦い慣れている。』と言った意味がようやく解った気がする。
忍軍第一を誇る黒鋼と、互角に渡り合っているのだ。
とても普段の人当たりの良い風と、その痩躯からは予想すら出来ない。
そして、互いに渾身の、そして必殺の一撃を繰り出そうとした、その時!!
「・・・・・・・・・!!!」
その状態で『止める』ことが出来たのは、この2人なればこそ。
2人とも、まるで時が止まったかのように、ピタリ、と動きを止めていた。
その目は、互いに大きく見開かれて。
それは――――――――――『信じられないものを聞いた』時の目。
ぎこちなくゆっくりと御殿の方に目を遣る。
そこに見たものは。
一瞬のことに、動くことも出来なかったであろう蘇摩と女官長。
奥には、大きく目を見開いて硬直する知世姫。
聞こえてきたのは、知世姫の、息を呑んだ悲鳴であったと知る。
そして。
その白い首のすぐ真横に煌いて在るのは。
――――――――――『蒼氷』の、気高くも玲瓏なる光だった。
――――――――――― * ――――――――――
かつては長刀であった『蒼氷』は、今は脇差ほどの長さに変えられている。
それが今、知世姫の首筋の、真横に『突き立てられて』いて――――――――――。
「・・・何・・・・・。」
それだけ言うのがやっとだった。
一瞬、『反逆』の二文字が皆の脳裡を駆け巡る。
しかし、『蒼氷』の鞘を払いし人は、ただただ静かに。
その眼を閉じたままで、呼びかけた。
「天照様。」
「ご苦労だった。・・・知世、こちらへ。」
不自然なほど平静な声で。
天照は己の方に知世姫を呼んだ。
がくがくと。
ぎこちない動きで姉の元に歩み寄る。
離れて見ると、『蒼氷』は『何もない空間』に突き立てられていると知れた。
そのまま妹を己の胸元に抱き取って。
天照は、数歩、退がった。
「待たせた。良いぞ。」
「御意。」
その言葉と同時に。
『蒼氷』を返し、一瞬で跳ね上げた。
「!!!」
『蒼氷』の描いた軌跡の、その残像の中に、鋭く研ぎ澄まされた錫杖の先端が光を零していた。
そしてその凶刃は『異空間』と思しき所から突如として伸びてきており。
その『入り口』は、白き羽根が描き出す『五芒星』に捕らえられているのだった。
「――――――――――『超空間』!!」
ファイが驚きの声を上げる。
「『超空間』?!何だ?それは?!」
黒鋼には、いや他の誰にもわからない。
ただ解っているのは――――――――錫杖の先端は、明らかに知世姫を狙っており。
それをすんでのところで『蒼氷』が食い止めていた、と。
「『超空間』は、『結界』の強力なもの。その中で術師は自在に空間を移動し、かつ術を行うことが出来る。」
ファイは凄まじいまでの警戒をその『入り口』に向けながら早口に言った。
「あの中に術師が――――――――――『複数』居る!!」
《 黒鋼!!我がチカラを使うのだ!! 》
『龍玉』の声にはっと我に返り。
一足飛びに駆け寄って、知世姫から『銀竜』を受け取った。
「いくぞ、『龍玉』!!」
呼応するかのように、『銀竜』はえもいわれぬ光を放つ。
「破魔・竜王刃!!」
剣戟は咆哮を上げて『入り口』に襲いかかった。
ガラスが砕けるような音がして。
結界が――――――――『超空間』が砕け散っていく。
瞬間!!
『影』が躍り出してきた。
1つは銀竜を咄嗟に持ち替え、刀背うちで迎撃する。
2つめの影は攻撃をかわして懐に飛び込み、肘撃ちを食らわせる。
よろめいた所を一気に叩き伏せた。
「――――――――――まだ?!」
まだ――――――――――『気配』は、2つ。
「させないよ!!」
その声が、氷のような温度を併せ持つと、何人が気付いたか。
金の光が走った、と思った時には。
手にした棍が一閃し、1人が叩き伏せられた。
さらにもう1つ――――――――――。
「!!」
術師は、宙を舞った。
それと見て。
ファイもまた、棍をダン!と地に突き立てて。
一気にジャンプした。
「ようこそー♪」
にこり、と。
その華麗ともいえる微笑みとは裏腹に。
見事なまでの足蹴りを食らわせた。
「・・・がっ・・・・・!」
空中では避ける間も有らばこそ。
術師は地面に叩きつけられた。
「いい度胸してるしー。」
「結界の中から狙ってきたっていうわけか。」
それは、かつての、『あの男』のように。
「4人の魔力を合わせてたんじゃ、ちょっと読めないねー。」
魔力が上回っていた、という事だろう。
それはそれで『口惜しい』、と。
中庭に下りてきた天照と知世姫に『お怪我はー?』と問う。
「大事無い。ご苦労だった。」
「2人とも見事でしたわ。」
ようやく落ち着いて、賞賛の言葉を続けようとした―――――――――。
陽が、陰った。
――――――――――― * ――――――――――
言葉を失う、というのは、こういう事を言うのだろう。
太陽の光の中に隠れて、『それ』は『降って』きた。
『太陽を背にする』というのは、空中戦での基本ではあるが、この日本国ではそれを知る者は少ない。
気配すら完全に消して。
『それ』を感知した皆が見たものは。
「・・・・・・・・ぐ・・・・・ふ・・・・・・・。」
それは、天照と知世姫の、すぐ間近に舞い降りて。
しかし、手にした佩剣は目的を果たす事無く。
不自然な格好で、その眼を驚愕に見開いた術師は。
くぐもったうめき声を僅かに漏らすのみ。
そして、その鳩尾には。
深々と拳が叩き込まれていた。
その拳に、その腕に。
ぐ、と力が込められて。
次の瞬間には、離れた所にある柱に叩きつけられていた。
「・・・・・ひゅー・・・・・。」
口笛の真似をして。
ファイが賞賛を表そうとした時!!
『叩きつけられたはず』の術師が、猛然と躍りかかってきた。
嫌な、音。
それは、『肉を切り裂く』音。
懐深く入って胸倉を掴み、一本背負いよろしく大地に叩きつけたものの、術師の凶刃はその腕を深く切り裂いていた。
たちまち白い服が朱に染まっていく。
「貴様ぁっっ!!」
激昂した黒鋼が銀竜を構えなおすよりも早く。
ファイは棍を手に、にんまりと笑った。
「大丈夫、ばっちり『お仕置き』しておいたから。」
足元には。
完膚なきまでに叩きのめされた術師が気を失って倒れていた。
――――――――――― * ――――――――――
「まァ、その、何だ、『証拠不十分』というのは困るものなのでな。」
次元の魔女の『日本』から手に入れた、といって淹れてくれた玉露は、実に深い味わいがあった。
ご機嫌で茶を飲む天照に比して、知世姫もファイも蘇摩も、機嫌は明後日の方向を向いている。
黒鋼に至っては怒り心頭、といった状態だ。
「・・・・だからって、一言も無し、かよ?」
「敵を欺くにはまず味方から、というではないか。」
当然不機嫌のボルテージが収まることはない。
『超空間』の存在に、気づいた。
5人の術師によるものである事も、すぐに見抜いた。
5人寄ればさすがにファイをも凌いだ魔力も、到底この人に敵う域ではなく。
しかし、その目的が不明確だった。
十中八九、知世姫あたりを狙ってのことであろうが、もしかしたら別の目的があるやも知れぬ。
例えば、ただ純粋に『修行』のためであるような。
『超空間』は、現実世界とは『空間位置』とでもいうような物を異とする。
『たまたま』白鷺城に近かっただけかもしれないのだ。
だから。
「彼奴らが手出しするのを待たねばならなんだ。」
『魔力』を持たない者に、『超空間』が察知されることはない。
5人という人数は、明らかに知世姫とファイの魔力を量った上でのことだ。
たとえバレたとしても、自分たちの居る『超空間』を捕らえ得る事などは不可能――――――――。
全ては、『誤算』。
魔界の入り口をも捕らえ得た人に、何で『超空間』ごときが。
そしてその人は、『魔力』を『感じさせない』。
あらゆる意味で『常識外』の人が居たからこそ。
「今回は命拾いしたということだ。」
御前試合も、相手に『手を出させる』為の方策。
護り手である、黒鋼やファイや蘇摩などの目を、知世姫から外す為の。
「必ず、知世を護ってくれると信じておったからな。」
凶刃を食い止めた『蒼氷』は、役目を終えて鞘の中に眠る。
治癒魔法をかけたから本当は必要ないのだが、用心のためだと黒き疾風に押し切られ。
白布で腕を吊るした昏き瞳のひとは、にこり、とした。
「で、結局、『どちらが』強いのですか?」
おや、忘れていたな。
勝負がつかないままでしたわね?
何ならもう1回やるか?
え〜、面倒くさい〜〜〜。
「最後の一人にとどめを打ったということで。」
その時の対応は、ファイの方が早かったから、と。
とたんに文句を言い募るその声が、どこか柔らかくて小さいのは。
それをまた茶化す金の風を、黒い風が追いかける。
「『今回は』はるばる異国よりやってきた魔術師に花を持たせましょう。」
南の空に一つ星が煌く秋の空。
日本国はゆっくりと冬に向かって歩みを進めていた。
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