丁寧に土を筆で払う。
少しずつ、少しずつ。
見えてくる『何か』を壊さないように。
発掘作業というものは、『地味』の一言に尽きる。
そしてそれほどの努力を重ねても、果たして成果が現れるのかどうかなんてのは解らない。
掘って、当たればよし。
当たらぬことのほうが、基本的には多いのだ。
それでもこの発掘現場では。
1人の少年がもくもくと、土を払い続けていた。
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少年の名は、『小狼』という。
玖楼国、という国に居を構えていると言う。
父がやはり発掘現場で命を落としたとかで、天涯孤独である、と。
今は季節的な関係もあって、玖楼国での発掘が中断している為、この国の発掘に来ているのだった。
彼は、まじめで、そしてその作業が丁寧であると評判だった。
何処の現場に行っても重宝がられる。
しかもよく気がつくので、誰もに好かれていた。
難をいえば、口数が少ないことぐらい。
だが元々口数で勝負するような世界ではないため、誰も気にとめはしない。
「発掘は、好きか?」
そう問われて。
はにかんだように顔を伏せる。
はい、と。
小さいが、はっきりとした返事が紡がれるのが常だった。
考古学が好きで。
発掘が楽しくて。
出土した小さなカケラにも、その目をキラキラさせる。
小狼。
発掘に携わるもの達にとって、かけがえのない、『仲間』になっていた。
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今日も寒かったねぇ。
あぁ、まったくだよ。
いつまで続くのかな、この天気。
すっきりしないねぇ。
夜の帳が少しずつ下りてくる。
発掘小屋の中の宿泊ブースとでも言うべきエリア。
囲炉裏のように焚かれた火の回りで、発掘仲間たちは語り合っていた。
雪の多いこの国は、永久凍土というわけではないが、土そのものが凍っていたりする。
発掘は結構難航していた。
そこへ。
手がけていた作業のキリがつかず、遅くなったのだろう。
手を洗ってきたらしく、タオルで拭きながら小狼が入ってきた。
おぅ、お疲れさん。
今日はどのあたりまで進んだんだい?
まぁ、火のそばに寄りなよ。
「有難うございます。」
丁寧に礼を言って。
小狼も火を囲む輪に加わった。
「コーヒーでいいかい?」
「いただきます。」
他愛もない、いつもの会話。
何処の誰よりも、とは言わないが。
『発掘仲間』達は、『純粋な』部類に間違いなく分類される。
何の衒いも、ない。
阿る事も、ない。
単純な、と言ってしまえばそれまでだが。
彼らの心は、間違いなく『優しい』。
父を亡くし。
寄るべなき身となった己を包み込んでくれる、仲間たち。
そして、彼らは。
自分を『一人の存在』として、認めてくれているのだ――――――――――。
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確固たる、一人の存在として認められる、ということが。
どれほど嬉しいことか。
かつて、傷だらけで、父に拾われたとき、自分は『自分』でなかった。
小狼、という名前はわかった。
だが、そこに『感情』というものが欠落していて。
己の『心』とでもいう物を、どう表現して良いのか、全くわからなかった。
それを教えてくれたのは――――――――――砂漠の、姫。
あの、笑顔が。
あの、声が。
どれほど『嬉しい』モノであるのかを、自分は伝えることが出来るだろうか?
会ったら、何と言おう?
『ただいま』?
・・・・んー、少しありきたりかな?
『帰ってきたよ』?
ちょっと・・・偉そうな?
『会いたかった』。
・・・これは・・・ちょっと・・・・恥ずかしい・・・・・。
「父さんには、すっと言えるのに。」
今は亡き父の写真を手に、ただいま、と呟きながら。
心の中でため息をつく。
どうして?
どうして、さくらには・・・・・・・・・。
コンコン。
「?あ、はい?」
ノックの音に我に返り、ドアを開けようとした――――――――――。
「お帰り――――――――――っ!小狼――――――――――っ!!
おわぁぁっっ!!と。
『一番最初の声』は。
――――――――――悲鳴、だった。
しかしそれは、とても――――――――――温かな。
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