「とりあえず、『此処』は『何処』なんだよ?」
元より、まともな答など期待していない。
――――――――――解らない、のだから。
「ん〜〜解んないねぇ〜〜〜?」
脳天気ともいえる、のんびりした声に、確かにどこかで音がした。
ブチッ!!、と。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
この国には、『車』というものがあった。
移動には、とても便利だ。
操作方法は意外と簡単で、およそ機械には縁のないであろう黒鋼すら運転できるほどだった。
「馬に乗るより簡単だ。」
その言葉に、比較対象が違う、とツッコミを入れそうになる。
季節は、『夏』だという。
暑いことは暑いのだが、風がとてもさわやかだ。
「湿度が低いんだろうね。」
黒鋼にはさっぱり解らないことではあったが。
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「羽があるっていう街は何処だ?」
「ここですね。」
小狼が地図の1点を指差す。
赤い丸があり、何やら文字が書かれている。
おそらくはその街の名前なのだろう。
「どうやって行くのー?」
「此処をこの道を通って、こっちに曲がって・・・・・。」
幹線道路らしき道筋を、指が辿る。
「此処はまっすぐ行っちゃいけないの?」
サクラが指した所は、原野になっている所だった。
「道があるといいんですが、無いかもしれません。此処は、やはり大きな道を通ったほうが。」
「面倒くせぇなぁ。」
「じゃあさー、こうすれば?」
ファイが満面の笑顔で言う事には。
原野にもし『道』があれば、そこを通る。
無いようなら、幹線道路を通る。
「おっそろしく解りやすい話だな。」
苦虫をつぶしたような、黒い影。
小狼は、ただただ苦笑いを零して。
とりあえず。
――――――――――出発することにした。
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そもそもの間違いは、『道』が見えたことだ。
地図上『原野』と表現されていた所は――――――――――一面の、花畑。
「向日葵に良く似ているな。」
「『向日葵』?」
「いつも太陽の方を向いている。だから『日に向かう葵の花』ということで、『向日葵』、だ。」
それは、日本国で普通に見られた花なのだろう。
ほんの少しの懐かしさをにじませたその物言いに、鼻の奥の方が微かにツン、とする。
『氷の国』には。
『砂漠の国』には。
――――――――――無かった、花。
大きくて。
背が高くて。
太陽に向かって両手をいっぱいに伸ばしているような、花。
「人の手によって植えられているようですね。」
冷静に状況を判断する少年の声に意識を戻す。
「たぶん世話をするためなんでしょう・・・・あそこに、『道』があります。」
指し示すほうをみれば、確かにそこは花の波が切れている。
その切れ目は、クレバスのように、彼方へと続いていて――――――――――。
「・・・まっすぐ行ければ、近道だな。」
「いざとなったら幹線道路にも抜けられます。それほど離れないようですし。」
「じゃあ〜〜決まり!!」
車は道を外れ、花畑の中へと進んでいく。
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「わあぁ・・・・!背が高ーい!!」
「こりゃ〜〜すごいね〜〜!!」
「向日葵の種は、ハムスターさんのご馳走になるのー!!」
「ハムスターさん?」
「小さ〜〜いネズミさんなの〜〜!」
助手席で地図を広げてはいても、およそナビゲートなどはしていない。
後部席の小狼も、サクラと一緒になって見とれている。
(・・・・曲がってるな。)
道、が。
離れた所から見た時にはまっすぐなように見えたが、どうやら奥の方でカーブを描いていたらしい。
徐々に進みたい方向からずれていくのを、黒鋼は感じ取っていた。
キィッ!!
「?あれー?黒たん、どうしたのー?」
「何かあったんですか?」
「黒鋼、疲れたのー?」
「あ・・・じゃあ、飲み物でも・・・。」
サクラが差し出した水筒のお茶をぐい、と飲み干して。
憮然として呟いた。
「道が、無ぇ。」
え?と。
慌てて見渡すと、確かに道が途切れている。
眼前を向日葵の大群が覆っていて。
――――――――――つまり、行き止まり。
「・・・どうしましょう?」
「道が曲がっていた。元に戻さなきゃならねぇ。」
「でも、ここ・・・・・・。」
『何処』なんでしょう?
解らない。
『此処』が一体『何処』なのか。
位置も、方角も――――――――――解らない。
「迷子の子猫さんなのー!!」
は?!という視線の先で、モコナが歌いだした。
「迷子の、迷子の、子猫さん〜〜あなたのおうちは何処ですか〜〜♪」
「モコちゃん、それ、なんていう歌?」
「『犬のおまわりさん』!!」
ぶぶっ!!と噴き出した小狼とファイを責めるのは酷というものだろう。
犬――――――――――黒い影はこめかみをひくつかせているのだが。
お家を聞いても解らない。
名前を聞いても解らない。
それは、寄る辺無き、今の自分のようで。
サクラは顔を伏せた。
それと見て。
黒鋼が小狼に合図を送った。
ここはいい。
姫を、何とかしろ。
わかりました、と。
小狼はその意を汲んで頷いた。
さて、どうしよう?
辺りを見渡した小狼の目に、彼方に光るものが見えた。
「?」
双眼鏡を取り出して見た――――――――――。
「姫!あれを見てください!!」
何故そんなに楽しそうなのだ、といぶかしげに見るサクラに、双眼鏡を押し付ける。
「ほら、あっちです!!」
指差す方を、双眼鏡で見たサクラの顔が。
パアァッ!!と明るくなった。
「小狼君・・・・!」
「ね?すごいでしょう?」
「うん!!」
何々?と覗き込むファイやモコナも、同じように双眼鏡で見て感嘆の声を上げた。
「あんな所に滝があるんだー!!」
「お日様でキラキラして、すごくキレイなのー!!」
彼方の山の中腹から、噴水のように流れ落ちる滝。
それが光を受けて輝いていたのだった。
「あ!!鳥さんがいっぱい!!」
小さいのやら、大きいのやら。
何処にこれほどの鳥たちが、と思うほど、彼方の空を乱舞して。
その羽は滝の光をも受けて、七色に輝きわたる。
「いや〜〜すごいね〜〜〜。」
感嘆の声を背に、いずれ訪れる先の国で『お父さん』と呼ばれる人は。
時計の文字盤の上に小さな棒を立てて日時計を作っていた。
(・・・こちらが、『北』・・・つまり、南、か。)
実はこの国の太陽は『南』にではなく、『北』にある。
そして、『西』から上って『東』に沈む。
日本国とは真逆の方向だ。
ということは、『同じように』調べて、結果を『逆』にすればいい。
日本国でなら『北』、つまりこの国での『南』を確定し。
『滝の見える山』との位置関係から自分たちの位置を推測する。
(このあたりか。)
予想が正しければ――――――――――それほど予定した進路から外れてはいない。
だが、此処は幹線道路に戻ったほうが無難だろう。
どうやらその方が近いだろうとの予想もつく。
(よし。)
「行くぞ。皆座れ。」
「え?」
バードウォッチングに夢中になっていた皆は、驚いて振り返る。
「黒鋼さん、此処が『何処』かわかったんですか?」
「だいたいな。」
エンジンの振動が伝わってくる。
「しっかりつかまってろよ。道の無ぇ所に突っ込むからな。」
それってもしかして迷惑なんじゃー?!という魔術師の叫びを乗せて。
車は向日葵畑の中に突入していった。
太陽の、エネルギーを『友』にして。
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