「小狼君、この道はどう行くのですか?」
「はい、まっすぐ行きまして、突き当りを右に曲がります。」
「解りましたわ。お二方とも、参りますわよ。」
「うん〜〜〜解ったぁ〜〜〜!」
「あぁ。お姫様もがんばって歩いてくれ。」
「・・・モコナ、どうしていいか、解んない・・・・・・・。」
シュン、として。
長い耳が力なく流れる。
「なんだ?腹でも痛いのか?」
ぐいーっ!と耳を掴まれる。
――――――――――その仕草は、『同じ』なのに。
歩き始めた一行は。
栗色の髪の『青年』と。
翠の目をした『女性』と。
紅い目と黒髪の『少年』と。
――――――――――金髪の『少年』、だった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
この国に入ったときに、何がしかの違和感は感じたのだが。
それが何であるのかは解らなかった。
どういうわけか、この国に『宿屋』なんてものは1軒も無くて。
やむなく野宿、ということになった。
街で食料を調達し。
大きな木の下で食事をして眠ったのは、つい夕べのこと。
それなのに。
僅か一夜で『こんな事』になろうとは。
モコナが大きな大きなため息をついたのを聞いて。
ファイが問いかけた。
「ねぇ、どうしたのー?遊びたくなったのー?」
どこか舌足らずともいえる言葉に、もう一つため息をついて。
ううん、違うの、と答えた。
「煮え切らない奴だな。もっとシャキッとしろ。」
――――――――――そうは、言われても。
「ねぇ、本当に『覚えていない』の?」
皆は顔を見合わせる。
「ごめんなさいね、モコちゃん。あなたの言うことが理解できないの。」
「俺たちは『最初から』こうだったんだし・・・・。」
「何ワケ解んねぇ事並べてるんだ。」
「モコナ、とっても変だよ〜〜〜〜?」
「変なのは、皆の方なの!!」
たまらず叫んだモコナの声が震えている。
どうして?
どうして、皆?
――――――――――『覚えていない』の?!
サクラの記憶の羽を捜している。
次元の魔女に皆で対価を払い。
小狼は『関係性』。
黒鋼は『銀竜』。
ファイは『刺青』。
旅をして、次元を渡り歩いて。
少しずつ、少しずつ。
羽を集めてきた。
『それ』は、覚えているのに。
――――――――――どうして?
「『大人』と『子供』が逆になっているのに――――――――!!」
―――――――――――――― * ―――――――――――――
あの日、あの夜。
野宿をした、あの大きな木の。
梢を揺らして吹きぬけた風に、微かに羽の気配を感じたのは。
(きっと、間違いじゃなかったんだ。)
朝、目覚めれば。
『子供』の小狼とサクラが『大人』に。
『大人』の黒鋼とファイが『子供』になっていた。
そして、それに対する違和感を感じていない――――――――最初から、『そうであった』と思っている。
記憶の、置換。
誰が仕掛けたのか。
何のために?
――――――――――解らない。
(でも、きっと。)
それにはサクラの羽が、関わっている。
だから、きっと羽を取り戻せば、この状態は元に戻ると予想される。
というより、そう思わなければ、微かな希望を繋がなければ。
モコナの『ココロ』は壊れてしまいそうだった。
しかし、ある意味、興味深い。
サクラの物言いは、とても鷹揚で、威厳すら感じさせる。
(やっぱり『お姫様』だもんね。)
小狼の口調は、さらに丁寧になっているようだ。
(まるでお姫様に仕える騎士みたい。)
ファイは、とても幼さを感じさせて。
(何時もはへにゃっとしてるけど、何だかとても可愛い。)
そして、黒鋼は――――――――――。
(何だか、怖い。)
見た目は13、4歳の少年といった所。
なのに、『少年らしさ』とでもいう物が感じられない。
気配は鋭い刃のようで。
その眼光は鋭く、口調はどこか剣呑だ。
(黒鋼、昔はこうだったの?)
自分とよく漫才をしてくれる、あの『余裕』がこの少年には無い。
何故?
怖くて――――――――――さびしい。
モコナは、知らない。
『今』の黒鋼が。
――――――――――白鷺城に来たばかりの頃の黒鋼だということを。
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小狼が『大人の発想』をして。
サクラが『大人の包み方』をして。
黒鋼が『子供の無鉄砲さ』を遺憾なく発揮して(これは実は本当に困った)。
ファイが『子供の無邪気さ』で和らげてくれて。
そしてモコナがいつもの何倍も、いや何十倍もの苦労をして。
今、羽はみなの目の前にあった。
「こーんな所にあったんだねー。」
少し間延びした、無邪気さそのものの、声。
「モコナ、何故気づかなかったんだい?」
小狼に問われても。
モコナとしては、『シールドのせいなのー!!』と言い訳するしかない。
街に伝わる古い伝説――――――――――『トロッカの樹』。
梢に憩う、樹の精の歌声を聞いた者は、時計が逆回りをするという。
それは――――――――――下手をしたら。
「姫、羽を、どうぞ。」
恭しく捧げ持つ小狼の手から、羽がスウ、とサクラに吸い込まれていった。
カクン、と力が抜けて。
小狼の腕の中にぽすん、と納まる。
「――――――――――・・・!!」
ざあっっ!!と。
一陣の風が吹き抜けた――――――――――。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
そう、それは。
もし――――――――――『そのまま』だったら。
「オレと黒たん、『赤ちゃん』になったかもね?」
「・・・・マジかよ・・・・・・。」
「ありえるって事ー。」
羽の力が、『歪めた』伝説。
サクラが目覚めて、そのことを知ったら――――――――――涙を流すだろうか?
私の、羽のせいで。
「絶対に、姫には言うなよ。」
「サクラには内緒なのー!」
同時に紡がれた言葉に、お互いに顔を見合わせて。
モコナの頭に、ぽふ、と大きな手を置いた。
「黒鋼・・・・・。」
「ご苦労だったな。」
モコナがどれほど大変だったか、そして――――――――――どれほど悲しんでいたか。
記憶は置き換えられても、その事ははっきりと覚えていた。
「本当にご苦労様、モコナ。」
「助かったよ、有難う。」
モコナの目から、キラキラと。
涙の粒が零れ落ちる。
「・・・・黒鋼・・・。」
「あ?」
「頭の上に乗っててもいい?」
てめぇはいつも乗ってるだろうがよ、と。
『いつもの』会話が嬉しくて。
モコナはファイが調達してきてくれた、『この街で一番美味しい果物』に大きな口を開けてかぶりついた。
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