<57575HIT記念 キリ番リクエスト小説>

  「 雲 の 通 い 路 」




     天津風
     雲の通い路 吹き閉じよ
     乙女の姿 しばし止めん



――――――――――― * ――――――――――


セレスでの傷も癒えて。
近習として勤め始める日が決まっていた。
それまでは、少しの間だけだが、自由。
異国の姫を、その長い腕に包み込んで。
黒き疾風かぜは、馬を走らせていた。

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自分とて。
さほど『暇』というわけではない。
何といっても、とことん衰えた我が身を、何とかして元の域に戻さねばならない。
任務に就くか、眠りを取るか以外の時間は、全て鍛錬に費やしていた。
剛真に言わせれば、『8割方は戻った』ということだが、自分としてはまだまだだと思っている。


それでも今日のように丸1日空いているような時には、ようやく床を払った想い人を、あちこちに連れ出すのが常だった。
ある日はあちらの山。
またある日はこちらの川。
またある時は、有名なやしろ――――――――――。


『見せて』やりたい。
たとえ、その目に映ることはなくとも。
この日本国の、美しさを、素晴らしさを。
どうにかして、教えたい――――――――――。


そして、今日は。


白鷺城からは少し離れた山の中腹に広がる草原に、馬を駆ってきたのだった。



――――――――――― * ――――――――――


「いい風だろ。」


さわやかに吹き抜ける風。
早くも秋の気配を見せる草原は、風さえも柔らかい。


1人、佇んで。


風を受けるその人を見遣りながら、少し離れた所に腰を下ろした。


まるで、流れ落ちる水を受けるかのように。


掌を上に向け、風を受け止めている。
この人にとっては。
吹き抜ける風さえも、まるで水であるかの如くに質量を持つのだろうか。
風は衣の裾を揺らし、草原を渡ってゆく。


ザアッ!!っと。


一陣の風が吹き抜けた――――――――――。


「・・・・・・・・・・・!!!」


それは、一瞬の、事。



――――――――――― * ――――――――――


「・・・・・・・・・黒鋼・・・・?」


てしてし、と。
小さく胸を叩く。
我に返れば。
自分は思いっきり抱きすくめていて――――――――――。
さすがに苦しい体勢になっていると訴えているものだった。


「あ・・・・す・・・すまねぇ・・・・・。」


ほんの少し、力は緩めたが。
それでも肩をしっかりと抱いた手が、離れない。
それは、自分の意思に反して。
どうあっても、手が離れないのだ――――――――――。


そして、それは微かに震えていて。


「どうかした・・・・?」
問われて、すぐに答が出てこない。
自分は、何故?
一つ一つ思い出そうと試みる。


風が吹いて。
衣の裾が、袖が、大きく風を受けてはためいた。
――――――――――そこまでは覚えている。
その先が、思い出せない。


自分は――――――――――何故?


ようやっとのことで、肩から手を剥がす。
微かに震えを残す手を、じっと見遣った。
何故、この手は震えている?
何に怯えていると?


もう一度。


風が吹いた――――――――――。


(・・・・・・・・・・・これか・・・・・・・・!!)


風が吹いて、衣がなびいた。
それが、連想させたのだ。


「――――――――――お前が、風に乗って、行ってしまいそうだった。」


鳩が豆鉄砲を食らったような顔を向けてくる。
それは、当たり前の反応だろう。
自分の発想は、あまりにも唐突で。


だが。


この人は、『翼を統べる者』。
今は畳んでいるとはいえ、その背なに、気高き翼を持つ。
何処の誰よりも、風を受け、風に乗ることを巧みとするだろう。
それは、言い換えれば。


風に連れ去られてしまいそうで。


自分の手の届かない、遠くへ。
風にさらわれていってしまいそうで。
それを『怖い』と。
『失いたくない』と。
思った身体が、無意識に、反射的に、抱きとめたのだ。


「――――――――――何処にも、行くな・・・・・・。」


それは、ネガイ。
たった一つの。
心からの、ネガイ。


『二度と』失いたくない。
『愛する者』を、目の前で。
父のように。
母のように。
――――――――――だから。


「・・・何処にも、行かない。私は、ここに、居る。」


光映さぬ瞳が、優しげに細められて。
宙を彷徨った手が、己の頬を滑る。
「此処は、もう私の『故郷』だから。」
その手を、そっと、握り締めた。


「風になんか、連れていかせねぇ。・・・・・・・・ここに、ずっと。」


在るべき場所は、自分の、この腕の中に。



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「57575HIT」をゲットしてくださった、カク様に捧げるショートショートです。

誰 で す か 、 こ の 人 た ち は 。(自分で書いておいて何を)

黒鋼が、完全に別人です。
こんなに弱くないよ、黒鋼は!!と叫びつつ。
書いてる私もナンですが。(ーー;)

まあ、冗談はさておき。
黒鋼にとって、『目の前で手の届かない所に行ってしまう』というのは、一種のトラウマだと思うのですね。
父しかり、母しかり。
原作においても、『護りたいのに護れない』状況が続いています。
だから、彼にとっては、『去られること』は、とても『怖いこと』なのではないかと。
別に愛する人でなくても、です。
だから、風を受けて飛んでいってしまいそうに思って、必死に抱きとめてしまったと。

ちなみに、こういうのは誰かが必ず『見ている』ものでして。(笑)
しっかり知世姫にも報告があがっていたりします。(爆)
あ・・・不憫な・・・・・。(でも嬉しい)←?

冒頭の和歌は百人一首にもあるのでご存知だと思います。有名ですね〜〜〜!



カク様、ありがとうございました!(返品可です〜〜〜。^^; )

           作者・シュウ   2007.05.17UP

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