<57975HIT記念 キリ番リクエスト小説>

 「 過 ぎ 去 り し 日 の 想 い 出 」




この国に来て、一番喜んでいるのは、モコナだろう。
何といっても、食べ物が豊富。
アイテム数ときたら、まさに無限なのではないかと思うほど。
しかもその一つ一つが洗練されていて。
『誰の口にも合う』というは、本当に凄い事なのだ。


「モコナ、満足ー!!」


もちろん、次元の魔女に送ることも忘れない。
『向こう側』も、いたく感心しているようで。
ハウスキーパーの少年が、レシピ作りにおおわらわになっているらしい。
「すごい国だねぇ〜〜。」
「・・・ずっとここに居たら、あっという間に太ってしまいそう・・・・。」
その危惧ももっともだと思えるほどだ。


皆、おおらかで。
皆、明るくて。
皆、『食』に対して貪欲で。
そして、皆。


『王様』に、無限の親愛と敬意を持っているのだった。

―――――――――――――― * ―――――――――――――


『どこかで見たことのある』王様は。
時折街にやってきては、気さくに民に声をかける。
ちょうど小狼たちの目の前を、その『王様』が歩いてきていた。


「・・・・・『王様』だ・・・・・。」


それは、玖楼国の桃矢王にそっくりな。
旅の仲間にとっては、阪神共和国で出会ったお好み焼き屋の店員そっくりだ、というところだろう。
にこやかに歩む王は、露店の果物を手に取ったり、売り子たちと笑いあったりしている。
「まあ、下々の実情を知るってのは大事なことだからな。」
かつては、己が父も。
魔物退治に赴いた先でもてなされるのを、殊の外楽しみにしていたではないか。


「王様!今年のコンクールはがんばりますよ!!」


でっぷり太ったコックらしき男が、豪放磊落といったような笑いを零す。
「おぉ、楽しみにしているぞ。『新しい味』をぜひ味あわせてくれ。」
「難しいですなあ〜〜王様は舌が肥えていなさるから!!」
あはははは!と。
快活な笑いと共に王が去っていき。
それぞれに仕事に戻った、その中の1人にファイは尋ねた。
「コンクールって、何のコンクールなんですか?」
「おや、あんたたちは旅行者かい?」
じゃあ知らないだろうね、と。
露天商の老婆は気さくな風で答えてくれた。


1年に1回、王様主催の料理コンクールが開かれるのさ。
腕に自信のある者は、誰でも参加できるんだよ。
もちろん優勝者には、名誉と褒美が与えられる。


「今年の褒美の品は・・・・あぁ、『不思議な羽』だねぇ。」


見せてくれた案内チラシにあったのは――――――――――確かにサクラの『羽』。


「こりゃ〜〜参加決定だね!!」
頭の後ろで手を組んで、ファイはにっこりと笑った。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


困ったこと、その1。


「・・・・ごめんなさい・・・・・。」
頭の上まで毛布をかぶり、半泣きの顔を隠す。
「仕方がありません。身体のほうが大事です。」
「気にするな。しっかり養生しろ。」
どだい無理というものだ。


――――――――モコナと同じテンションで『食べ続ける』など。


お腹を壊して寝込んでいるくらいなら、まだ良しとすべきだろう。
枕元の胃腸薬をハイ、と渡し。
苦味に顔をしかめながら、それでも飲んだのを確認して。
ゆっくり休んでください、と部屋を出た。
「でも、困りましたね。」
小狼の言葉に皆も頷く。
桜都国以来、ファイやモコナに料理を仕込まれてきたサクラが、戦線離脱したのだ。
コンクールに『2人1組』という規定があったから。
「・・・俺で、何処までお手伝いできるか・・・・。」
こうなったら、サポート役に徹するしかない。
「ファイさん、よろしくお願いします。」
「うん、がんばろうねー。」


が、しかし。


ポタリ、ポタリ。
滴り落ちる、赤い、血。
手近にあった布で肩の辺りからきつく縛る。
「・・・黒たん〜〜それじゃキツすぎるよぉ〜〜痛いよう〜〜。」
「止血のためだ。辛抱しろ。」
「消毒薬、持ってきました!」
「おぅ!派手にぶっ掛けてやれ!!」
「ひ!そ・・・それだけはやめてぇ〜〜〜!!」
涙ながらの嘆願は、容赦なく却下された。
小狼が本当に1瓶丸ごとぶっ掛けた消毒薬で、のた打ち回るファイを押さえつけ。
2人がかりで手当てを施す。


困ったこと、その2。


ファイが固い果物を切ろうとして手を滑らせ、それこそざっくりと手を切ってしまったこと。


かなり深い所まで切っているため、医者にも診せた。
しばらくは絶対に動かしてはいけないということで。
『こいつはすぐに動かすから、固定してくれ。』と黒鋼が進言したこともあり、ファイの左手はがっちりとギプスで固定されていた。
「その代わり、きっと治りは早いと思います。」
小狼の言葉も上の空で。
ファイは涙目でフイ、と向こうを向く。
やれやれ、と。
『ワンココンビ』は肩をすくめた。


************************************************


ファイのなだめ役と、サクラの看病はモコナに任せて。
問題は――――――――――そのコンクール。
聞けば、王はかなりの食通。
当然舌は肥えている。
そんな王を、感嘆させなければ、優勝は望めない。
――――――――――でも、どうやって?


「とりあえず、今日は寝ろ。身体が疲れてたら、頭も働かねぇ。」
「はい・・・・・・。」


でも――――――――――眠れない。
心に気がかりを抱え込んだままでは。
それでも身体の疲労は極限にまで達していたのだろうか?
どうやらうとうとしたらしく、モコナに揺さぶられてはっと目を覚ました。
「・・・いけない!!」
慌てて飛び起きて。
顔を洗い、服を着替えた。
食堂に行けば、黒鋼が朝食を摂っている所だった。
「おはようございます、黒鋼さん。」
「おぅ。眠れたか?」
「・・・少しは・・・・。」
頷いて、朝食を食べるように促す。
あまり食欲はなかったが、それでも何とか食べた。


「黒鋼さん、どうするか決まりましたか?」
「・・・行ってから、考える。」


コンクールの会場は、眼前に迫っていた。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


食材の山を、じっと見つめる。
まさに、ありとあらゆるものが揃っているという感じだ。
足りないものがあれば、申告すればすぐに調達されるという。
腕組みをして。
ただ、じっと。


他の料理人たちは、とっくの昔に作業に入っている。
動いていないのは、自分たちのみ。
以前聞いたところによれば、『忍者』という職業は、炊事も基本的能力になるらしい。
しかし、黒鋼の料理というものを、食べたことが――――――――――あっただろうか?
(『何』を作るんだろう?)
小狼は、じっとその大きな黒い背中を見つめていた。


************************************************


『食』に満ち足りた国。
食通の、王。
毎日、美食の限りを尽くしていることだろう。
それは、とても、贅沢な。


しかし。


(・・・・・・・・よし。)


「小僧、これと、あれをとってきてくれ。」
指示された物を聞いて、小狼は少し驚いた。
「はい。」
返事はしたものの。
(これを一体何に使うんだろう?)
――――――――――わからない。
「持って来ました。」
「おぅ。」
見れば、黒鋼は大きな盥のような器に、小麦粉をどっさり入れている。
「鍋に水を張れ。そして、その『昆布』に切り込みを入れて沈めろ。」
「・・・・はい。」
それを火にかけるように指示される。
あまり強くない火で。
「周りに泡がついてきたら火を止めて引き上げろ。」
「わかりました。」
指示されたようにしていると、黒鋼の方は小麦粉に水を入れ、混ぜ始めた。
(?)
やがて一つの塊のようになったものを、ぎゅっぎゅっと力を入れて練り始める。
小狼のほうは、泡が立ち始めたので、黒鋼に声をかけ、了解を取ってから火を止めて引き上げた。
次にしょうゆとみりんと砂糖とで、だし汁を作った。
「これでいいですか?」
味見を頼めば。
「これでいい。」と。
続いて『揚げ』を切り、だしの一部をとって煮含める。
その間に、黒鋼のほうは練り終わったのか、麺棒で平らに薄く延ばし始めた。
「火を切ってしばらく置くと味がしみこむ。」
「はい。」
大鍋に湯を沸かすように言われて。
続いて小狼は青ねぎを取り、小さく薄く、小口切りにし始めた。
(これ、結構難しい。)
よく切れる包丁だからいいようなものの、少しでも刃が甘かったら皮のような所に引っかかる。
ちょっと額に汗を浮かべて。
ようやく切り終わった。


「黒鋼さん、それ・・・・。」


ちょうど沸いた湯に、バラバラと。
伸ばして細く切った『麺』を入れている。
「あぁ、これは『うどん』だ。」
「うどん・・・・・。」
初めて見る『うどん』に、小狼の目は釘付けになった。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


さまざまに並んだ、見事なまでのご馳走の数々。
王は満面の笑顔で、少しずつ試食していく。
「うん、これはとても柔らかいな。」とか。
「ほう、まるで舌の上でとろけるようだな。」とか。
やがて、王の動きがぴたり、と止まった。


「・・・これは・・・・?」


恐ろしくシンプルな、それは。
深めの鉢に、入っていて。
上に煮含めた『揚げ』と、小狼が一生懸命に切った『ネギ』が鎮座ます。
「『きつねうどん』だ。」
「『きつねうどん』・・・・・。」
その香りは、とても柔らかで。
王は添えられていた箸を手に取り、一口すすった――――――――――。


ほろり。


「・・・王・・・・?」
回りの皆が驚いた。
王の目から、涙、が。
「・・・なんでだろうな・・・・・とても・・・・懐かしい気がする・・・・・。」
ただ、黙って。
最後の1滴までも、飲み干した。
「これは、お前の得意な料理なのか?」
そう問われて、黒鋼は首を横に振った。
「いや。・・・だが、こんな物の方がいいんじゃないかと思った。」
「何故?」
「毎日毎日、美味い物ばっかり食ってるんだろう?」
そうだ、と頷けば。
「胃の腑にも、限度ってものがある。美食ばっかりしてると疲れちまう。」
そう、それは、遠い日に。


「何かの祝い事が続いて、たらふく食い続けて腹を壊した俺に、母上が作ってくれたものの一つだ。」


それは柔らかく炊いた粥であったり。
それはよく煮込んだうどんであったり。
疲れきった胃に、それはとても優しく滲みとおって。
「だから、あんたにもこんなのが良いんじゃないか、と思って作った。」
「そうだったのか・・・・。」
王は、黒鋼の手をとった。
「ありがとう。今年の優勝者は、お前だ。」
王の微笑みが、とても柔らかで優しいと。
居並ぶ誰もが思った。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「美味しいです・・・!」


宿に帰って、サクラの羽を戻して。
眠っている間にもう一度、きつねうどんを作った。
今度は小狼が麺を打つ。
額に汗をにじませながら、一生懸命に。
心を込めて。
目覚めて空腹を感じたサクラに差し出された、『きつねうどん』。
その柔らかな味に、満たされて。
サクラはきっと翌朝には復活できるだろう。
ファイも、動かさないでいたせいか、治りがとてもよいらしい。


「明日には移動できますね。」


次の世界で。
(今度は『粥』っていうのを教えてもらおう。)
小狼は、そう思った。


――――――――――サクラの、ために。



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「57975HIT」をゲットしてくださった、宴様に捧げるショートショートです。

えー。(笑)
元ネタ・・・というか、連想した最初は、実は『美味しんぼ』の1シーン。
新婚の奥さんが、いつも帰りの遅い旦那さんの浮気を疑う、というもの。
帰りの遅い原因は、『電子レンジ』。
料理上手な奥さん、料理を作って冷凍して、テニスとかをやってたんですね〜〜〜。
旦那さんが帰ってくる時間もまあ不定らしく。
で、帰ってきたら、『チーン!』と。
でも、1人暮らしでも、『チン』は出来るわけで。
家庭の温かさを求めていた旦那さん、それが辛かったのです。
で、主人公が、飲んだあとなんかに美味しい雑炊のレシピを教え、それを帰ってくる頃合いを見計らって作れ、と。
やっぱり帰ってきたときに、温かな食卓が迎えてくれるっていうのがいいそうで〜〜〜。
・・・・ホント、良いですよー・・・・。(ぼそり)

そんなことから、『相手の事を考えたメニュー』ということに。
『和食で勝負だ!!』とメールでのリクにもありましたので(笑)・・・・うどんの大元は中国でしたか・・・・?(滝汗)
お粥は本編でお嬢が作っていますので、こっちではうどんにしてもらいました。

『時の翼』で、というリクでしたが、お嬢が出ると黒様出番がなくなりますので(苦笑)
お嬢に会う以前、という設定にしてあります。
次の国かな?第1章の国は。(*^_^*)


宴様、ありがとうございました!(毎度の事ですが、返品受付中です〜〜。)

           作者・シュウ   2007.05.19UP

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