「『羽』を『失くしたい』が、何処から『帰ってきてはいけない』?」
「『森の神殿』からは絶対に『帰ってきちゃいけない』よ。」
「それは『困る』な。」
「『本当に面倒』だよ。」
旅の最初に比べれば。
本当に『我慢強く』なったものだと思う。
それでも、こめかみがヒクヒクとするのは止められず。
「案内なんて『お断り』さ。」
と言いながら宿の主人が『案内してくれた』部屋で。
ドアが閉まった途端に白い魔法生物と黒い疾風が爆発したのも、止むを得まい。
「どうにかならねえのか、この国は?!」
――――――――――どうにも、ならない。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
道を尋ねたら、反対のことを言われた。
住民同士の話に耳を傾けても、どうにも理解できない。
考え抜いた結果、1つの結論にたどり着いた。
「此処の人たち、皆『嘘』を言うんですね。」
全てが、真逆。
だからと言って、頭では理解しても、実際に会話するとどうにもついていけない。
黒鋼は早々に音を上げた。
サクラは人間不信に陥りつつある。
モコナは何とかして反対の意味に翻訳しようとしたが、追いつけなくなってギブアップした。
ファイですら、余裕の笑みが消えている。
「頭が混乱してしまいそうですね。」
「『順応性』の問題なのだがな。」
どうやらまともに対応できそうなのは、この2人のみ。
これでは埒が明かない。
「少し早いが、宿を取る。情報収集は私と小狼でやろう。」
少なくとも宿の部屋に閉じこもっていれば、人との接触は最小限のものとなる。
そうすれば、おそらくはファイだけで対応は可能だろう。
赴いた宿屋では。
「『行ってらっしゃい』。」
解っていても、ひっくり返りそうになる。
小狼は、今は自分がコケている場合ではない、と思い直した。
「『出発したい』のだが。」
「『満室』です。」
「『5匹』と『1人』。」
「『お断り』します。」
「これを『消す』のだな?」
「いいえ、『消して』くださいね。」
いらいらいらいら。
黒鋼はもう我慢の限界に来ているようだ。
小狼は、苦笑しつつ。
平然と宿帳に記入するその後姿を、ある意味すごいと思ってしまう。
全く、何のよどみもなく。
見事に『真逆の会話』を成立させている。
(今までに、こんな国に来たことがあるのかな?)
自分たちよりも遙かに長い時間を生きているらしいから。
案内された部屋で、爆発しまくる『2人(正確には1人と1匹)』は放っておいて。
小狼は宿の外に出た。
「何か、コツのようなものはありますか?」
『会話』を成立させるための。
夕闇色の瞳が、ふと細められる。
「『嘘』だと思わなければいい。『逆』を言っている、という認識を持てば、それでいい。」
それが難しいんですけど、と。
苦笑する小狼に、ふっと笑う。
「この国の民にとって、『真逆』こそが『真実』だ。」
「・・・・・・・・・・!!」
足が止まる。
身体が震える。
『真逆』が。
この国の『真実』。
『虚構』が――――――――――『真実』。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
『真実』を見抜く、というレベルではない。
探すまでもなく。
『真実』は――――――――――そこに、在る。
どれほど探しても『地図』が手に入らなかった。
「やはりな。」
驚いたように見る小狼に、『この国には必要ない』と言った。
「何故ですか?」
それには答えず。
ふわりと羽根を1つ、飛ばした。
それはふわふわと空に舞い上がっていく。
続いて掌に光を紡げば。
まるでスクリーンのようにそれは広がって、『地図』を示した。
「此処が『森の神殿』だな。」
この国の、方角的には南に広がる『森』。
そこを起点とするかのように、流れるように街並みが構成されている。
「・・・これって・・・・・!」
小狼でなくとも気づくだろう。
町並みの描く線は――――――――――『サクラの羽の模様』なのだから!!
「厄介だな。」
「それは『どちらの』意味ですか?」
言葉どおりか、それとも真逆か。
「言葉どおりだ。」
少し難しい顔をしながら小狼に羽根を1枚手渡した。
「行くべきポイントは、その羽根が教える。行ったらそこでこう言うんだ。」
神殿から『石』を撒きます。
此処には『無い』ですね?
「訪れた所には、必ず『石』がある。それを手に入れなければならない。」
「全部で?」
「88。」
うわ、と小狼は思わず声を上げた。
半分に分けても、44回『逆の言葉』を言わなければならない。
しかも受け取ったらこうだ――――――――――。
困りますね、と。
あはははは、と。
力無い笑いを浮かべて。
小狼は街へと歩みを戻した。
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絶対に芸達者になった自信がある。
ポーカーフェイスで嘘を突き通せる妙な自信が。
最初でやはりもたついたせいか、小狼が集めたのは35個だった。
恐縮しながら待ち合わせ場所の神殿で、袋に入れた石を渡す。
「始めようか。」
床の上にばら撒かれた88個の石。
それが光を帯びて浮き上がり。
メビウスの輪を作ってくるくると回り始めた――――――――――。
すい、と。
腕を伸ばし。
石の輪に向かって、パチン!と指を鳴らした。
瞬間!!
メビウスの輪は、石もろともに砕け散り。
神殿から光の波が街に向かって走っていく。
それが幾重にも重なって。
――――――――――その光が消えたとき。
「・・・・街が・・・・・?!」
跡形も無く、消えていた。
それは、まるで蜃気楼の作り出した幻影であったかのように。
「小狼君――――――――――!リアンさん――――――――――!!」
遠くからファイが手を上げて走ってくる。
サクラも、黒鋼も。
「宿も何もかも消えちまったぞ?!」
「人間も、皆・・・・・!」
「幻、だったからな。」
「・・・・・めきょっ!!」
見れば、ふわふわと。
頭上から『羽』が舞い降りてきた。
それは、何枚もの『羽根』に護られるようにして。
「『羽』の『幻想風景』だったかもな。」
「でも、どうして『真逆』だったんでしょう?」
羽が戻って眠ったサクラを抱えながら、小狼は呟いた。
サクラの記憶の羽が作った幻影ならば――――――――――これは、羽の――――――――――嘘?
「違う。」
その発想は言下に否定された。
風がさらりと吹き抜けてゆく。
「物事というものは、1方向からのみならず、あらゆる方向、特に反対側から見る必要があるということだ。」
それは『羽』が教えた――――――――――『真実』。

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