「どうしてそんなに『逃げる』のよ?!」
「黒様〜〜往生際悪い〜〜〜。」
「・・・・てめぇら・・・・・!!」
「今日のオカズは貴方なんだから。しっかりお勤め果たしなさいな。」
「お前も笑って見てねぇで、何とか言え!!」
おや、矛先が、と。
ラーグを抱えて微笑んでいた人は。
「八つ当たりだな。面白い奴だ。」
「そういうものでもないよ、ラーグ。」
それは、褒めているのか、それとも、貶めているのか。
まこと魔術師の心の内は――――――――――解らない。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「おまたせしました〜〜。」
割烹着に三角巾のいでたちの少年が大きな盆を持ってやってきた。
此処は、次元の魔女の『ミセ』。
用がある者にしか見えない、不思議なミセ。
「俺には用は無ぇよ!!」
やっと縁を切れたのに!!と憤慨する、黒い影。
「あらぁ、すっごく大きな『用』があるわよぉ?」
「どんな『用』だよ!!」
「『新婚さんをツマミにして飲む会』の『ツマミ係』よ〜〜〜。」
「・・・・・はぁ〜〜〜??」
「黒様〜おツマミ〜〜〜!」
「おツマミ〜〜〜!」
「おツマミ〜〜〜!」
「そこ!!合唱してんじゃねぇ!!!」
その反応は。
実は自分と同じであるのだからにして。
「・・・あの人って、俺と同じ、『いじられキャラ』なんだ・・・・。」
少年の呟きをしっかりと黒い魔法生物は聞いていて。
「おー!!四月一日ー!!自覚したーーー!!」
「自覚したーー!」
「自覚したーー!」
「だから合唱しない!!」
こうなったら、このミセの酒、全部飲んでやる!と。
それこそがぶがぶ飲み始めた黒い影。
ちょっと、冗談じゃないわよ、私のお酒よ、と。
文句をつけつつ、それ以上のピッチで飲む次元の魔女。
2人ともしょうがないね〜〜と。
言いながら、実はこっそりたくさん飲んでいる氷雪の魔術師。
「・・・あ〜〜あ、ウワバミが増殖しちゃった・・・・。」
いつもなら1人だけを注意すればいいが、3人では。
少年のため息に、にこり、とする。
「たぶん侑子よりは弱いから、寝る部屋を用意してもらえたらそれでいい。」
「わかりました。」
「侑子には『液キャベ』だったか?」
「もう、ばっちり、箱買いですよ!!」
少年が指し示す方の『存在』の、『気配』にふっと目を和ませる。
風が。
流れた――――――――――。
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それは、『あの日』と同じ。
風に乗り、散り急ぐ、『桜』の花。
あの日、あの時。
初めてこのミセにやってきた。
魔力が大きく上回るが故に『入れた』このミセだが。
もしかしたら。
自分には、『必要性』があったのかもしれない――――――――――。
そして、ここに誘った、魔術師は。
もう、何処にも――――――――――居ない。
「会いたいですか?」
少年の問いは、唐突で。
しかし核心を突いてくる。
「・・・そうだな。会いたい、かも知れない・・・・・・。」
桜の花と共に、声は散って。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「会う必要なんざ、どこにも無ぇ。」
驚くよりも早く、抱きすくめられる。
「・・・・黒鋼・・・・?」
てしてし、てしてし。
何とか自由な手で、その背を軽く叩いてみるが、力が弱まることはない。
「死んじまった奴になんざ、会わなくったっていい。お前は俺だけ『見て』ればいいんだ。」
「・・黒鋼・・・酔ってる?」
「あぁ、酔ってる。」
カクン、と首がうなだれる。
「あらら。」
「なによ〜〜〜意外に弱いじゃない!!」
これからなのに!!と。
不平たらたらの次元の魔女を、ファイがまあまあ、となだめる。
「全く、何が『これから』なんだか・・・・。」
呆れた口調で、少年は部屋の支度が出来ました、と言いにきた。
「ありがとう。済まなかったね。」
ひょい、と肩を貸して歩く人を先導しつつ。
少年はふと、問いかけた。
「そうだ、以前おいでになった時に、『俵最中』をお気に召しましたね?」
そうだったね、と。
それはまだ日本国に来て半年ほど、ようやく床を払った頃だったから。
「よろしければ、作りましょうか?」
「いいね。・・・・では、明日に合わせて。」
「明日に?」
「二日酔いに『お薄』は効きそうだ。」
それっていいかも!!と少年は手を打った。
首の周りに巻きついていた管狐が、すりすりとその頬に擦り寄っている。
「お食事はどうされますか?」
「今日はもういいと思う・・・明日の朝を、よろしく。」
「わかりました。一応此処に液キャベ置いておきますね。」
笑いながら。
どたん!と寝床に横たわった大きな黒い影に布団を被せてくれた。
「まだ夜は少し肌寒いですから。」
「ありがとう。」
襖が静かに閉められた。
「――――――――――何処にも、行くな。」
枕元に座った、その膝を抱え込むように。
ちゃっかり膝枕にしながら、呟くように。
「『弟子』になんざ、連れていかせねぇからな・・・・・。」
そのまま安らかともいえる寝息をたて始めたのを見て。
その固くてまっすぐな髪に手を滑らせる。
「きっと『見えて』いたのだろうな・・・・・クロウには、この『未来』は・・・・。」
その呟きは、その部屋の空気と、黒い影だけが、確かに、聞いた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
頭が、痛い。
「ただ単に二日酔いです。」
なんだか気分悪くて。
「液キャベ、飲まなかったんですか?」
ちょっと頭痛が痛くて。
「それ、日本語になってないから。」
一つ一つの言葉に、律儀にツッコミを入れつつ。
己が主と。
遠来の客人と。
黒い魔法生物にかいがいしく世話をする。
「本当によくできた子だ。」
「あげないわよ。」
「俺、『物』っすか――――――――――?!」
絶妙のタイミングでツッコんでくるのに、むしろ快感とでもいうような物を覚えつつ。
桜の花びらが舞うのに心を乗せる。
「ぜってぇに、『連れて』いかせねぇからな。」
不世出の魔術師、クロウ=リードにケンカ売ろうとは、いい度胸ね。
知るかよ!俺には俺の矜持ってモンがあるんだ!!
黒様、怖いもの知らず〜〜〜。
怖いもの知らず〜〜〜!
怖いもの知らず〜〜〜!
怖いもの知らず〜〜〜!
「だから!!合唱するんじゃねぇ!!!」
桜の花が、舞い散る春の日。
眼鏡の奥の瞳は、確かに優しく、微笑んでいた。

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