「俺たちは、こんな所で死ぬわけにはいかないんです。」
「生きて、必ず故郷に帰るんだ。」
「大切なものを集め終わるまでは・・・・・。」
「1ヶ所にとどまるのも嫌だけど、こんな所で死ぬのはやっぱり嫌だねぇ〜〜。」
「まだまだやりたい事がいっぱいあるの!!」
「お前さんたちの、その前向きな姿勢っていうのは、やはり見習った方がいいみたいじゃな・・・・?」
周りのうつろな目も、徐々に光を増していく。
「行こう!」
誰かの叫びがこだました。
牢獄の、片隅で。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
『理不尽』という言葉は、まさにこういう事のためにあるのだろう。
この国に入って程なくして。
全員、『逮捕』された。
しかも、その『罪状』がなんともふるっている。
「あんたたちは、『何』をした?」
まとめてぶち込まれた牢獄の中で。
先客の―――――――しかしそれも30人はいたのだが―――――――中でも年配の老人に問われた。
「どうせ、『つまらん』事じゃろう?」
「そうなんですよ〜〜〜。」
ファイはオーバーな身振りで説明した。
サクラは。
『みだりに肌を見せた』罪。
顔や腕はもとより、少しだけ見えた『へそ』などもってのほか、と。
「玖楼国では当たり前なのに・・・・。」
まるで『自分の国』を否定されたような、そんな気がする。
「そんな事ありませんよ、姫。」
「そうだよ〜〜〜小狼君なんて〜〜。」
『付近の建物に勝手に触った』罪。
「珍しい建材だったもので・・・・・。」
歴史的遺構などによく使われる建材だったのだと。
それは、知的好奇心ゆえに。
「小狼はまだえらいの!!黒鋼なんて!!」
――――――――――『銃刀法違反』。
いつもはモコナが預かってくれているのだが、どうにも周りが剣呑な気がして。
モコナから『蒼氷』を出させたとたんに逮捕された。
「冗談じゃねぇぞ、まったく。」
「冗談じゃない、といえば、モコナもですよね。」
モコナの『罪』は。
「『人間の言葉を動物がしゃべった罪』なんてひどすぎるの!!」
そして、一番『理不尽』なのは。
――――――――――ファイの、『罪』。
「兄さんの『罪』は何だったんだい?」
「いやぁ〜〜それがですねぇ〜〜・・・・・。」
『金の髪が日の光を弾いて眩しくさせた』罪。
理不尽さの極みともいえる『罪』に、さすがの先客達もあきれ果てた。
「じゃあお兄さんは、いっそのこと『丸坊主』にしちまえば、罪は無くなるってのかい?」
「無理でしょうねえ〜〜〜きっと『頭がまぶしい』とか何とかこじつけられるんでしょう。」
こんな事で丸坊主にされたのではたまらないが。
苦笑いをしつつ、老人に尋ねた。
「もしかして、みーんなそんな感じですか?」
「そうさな・・・おい!この中で、『本当に犯罪を犯した者』は居るか?!」
問いかけに。
1人だけ、手を上げた。
「お?もしかして、俺って稀有な存在?」
「兄さん、自慢にゃならねえよ。・・・何をやったんだい?」
「落ちてた財布を懐に入れたのさ。」
「『拾得物横領』って奴か。」
「でもよ?中に入ってたの、たった『2コロ』だぜ?!ボロボロだったしよ!」
「いくら捨ててあったかもしれなくっても、そこはゴミ捨て場じゃなかったんだろ?」
「あ・・・うん・・・・。」
「あの・・・・『2コロ』って?」
「この国の通貨じゃよ。まあ、飴玉1個が5コロかな。」
「・・・・・・・・・。」
でも、こればかりは、『罪』は『罪』。
「『生まれ変わった』ら、今度は拾ったものを懐に入れるような真似はしねぇよ。」
「『生まれ変わった』ら?」
「俺たち、もうじき『死ぬ』からさ。」
え?!と見返せば。
皆の顔には――――――――――『諦め』の、色。
「投獄されたら、ほぼ1週間であの世行きさ。」
「――――――――――冗談じゃない!!」
その叫びは、奇しくも2人の口から同時に飛び出した。
お互いに、はっと見合う。
「・・・ファイさん・・・・。」
「・・・オレだって。」
こんな所で、こんなカタチで死にたくはないよ、と。
「じゃあ、決まりだ。」
黒鋼が、にやり、と笑った。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
牢にいる皆は。
正確には、その建物全てに収監されている者達は。
目を、見張った。
「・・・ふん。」
モコナに『緋炎』を出させて。
凄まじい一閃で、全ての扉を切り払った。
「これはお前のものだ。」
そう言って小狼に渡す。
「でも、黒鋼さん、刀が・・・・。」
「『蒼氷』は必ず取り返す。」
証拠物件として『蒼氷』は没収されている。
「あるとしたら、きっと所長室だぜ。」
此処の所長は、何でもかんでも自室に持っていくのだという。
「むしろ探し物があるときには、探す手間が省けていいがね。」
「所長室は何処だ?」
「俺、知ってるぜ。」
別の牢に収監されていた気の良さそうな青年が手を上げた。
「俺、もし出られるなら、出たいんだ。年取ったお袋と・・・その・・・・婚約者が、いるんだ。」
「じゃあ、道案内頼める?」
「あぁ。俺、此処の掃除係だったからよく知ってるぜ。」
ちなみに彼の罪状は『掃除終了時間が予定より5秒遅れた』ということであったらしい。
「よし、行くぞ!!」
「俺も行くぜ!大事な親父の形見のベルトを取られてるんだ!!」
「俺も財布を持ってかれた!!」
「じゃあ俺たちはこっちで騒ぎを起こしてやるぜ!!」
「暴れることなら、任しとけ!!」
「あ・・・あの・・・!」
サクラの声に、口々に盛り上がっていた皆がピタ、と静まる。
「どうかしなすったかい、お嬢ちゃん?」
「み・・・皆さん、お気持ちは嬉しいんですけど・・・・。」
「うん?」
「どうか・・・・決して無理をしないで・・・・!貴方たちが傷つくと、きっと悲しむ人がいますから!!」
しん。
静寂を、黒い影が破る。
ポン、と肩をたたいて。
「人には、やらなきゃならねぇ『時』ってモンがある。それは、何物にも優先される。」
「でも・・・・。」
「覚悟と誠意は、いかなる岩をも通すさ。」
――――――――――次元の魔女の、ココロも。
「わかりました・・・。」
「オレがサクラちゃんにつくよ。小狼君、お願い。」
「ファイさん、姫をお願いします。」
「あんまり腕に自身のねえ奴とか、女子供で固まれ!」
「老いたりといえど、若い頃はブイブイ言わせたもんだ。昔とった杵柄って奴さ。」
あの老人を始め、いく人かの、見た目も少し弱そうな男たちがガードを買って出た。
他の牢などにいた女性や子供たちが集められる。
小さな子供に、何をしたのかと聞けば。
「ご飯食べるときに30回噛まなかったの。」
理不尽さも極まれリ、といった所だ。
「よし!いくぞ!!」
「おぉ!!」
切り込む者達と。
ひきつける者達は。
一斉に、駆け出した。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
けたたましいサイレンが鳴り響いた。
刑務官達が走ってくる。
「止まれ!!房に戻れ!!」
「脱獄は重罪だぞ!!」
警棒を振り回し、叫ぶ彼らに、『犯罪者』達はせせら笑う。
「へっ!!どうせ許す気なんざ無ぇくせによ!!」
「『道歩いてて石ころ蹴った』ぐらいで死刑なんて、そんな馬鹿げた話あるかよ!!」
「じゃあ、てめぇは『寝る前にあくびをした』ってんで死刑になりたいのか?!」
口々に暴かれる『罪状』。
そのいずれもが――――――――――理不尽。
「なに考えてるんだか、この国は!!」
思いっきり横っ面を拳骨で殴ってふっ飛ばしながら、呆れ返って呟く。
「こんな国、初めてです!!」
華麗に足蹴を決めて小狼も苦笑する。
「所長室はこっちだよ!!」
掃除係『だった』男が、廊下の先を指差した。
「よし!!」駆けていくと、頬を『何か』が、凄まじいスピードで掠めていった。
「?!」
「隠れて!!自動迎撃装置だ!!」
柱の陰に隠れて窺えば。
ドアの上や横などに銃座が4基、セットされている。
「飛び道具か・・・!」
「どうします・・・・?」
少し、考えた。
「おい、あれには死角は無ぇのか?」
元・掃除係に問えば。
困ったように首を横に振る。
「黒鋼さん。」
小狼が意を決したように呼びかけた――――――――――。
************************************************
「行くぞ。」
「はい!!」
黒鋼と小狼は飛び出した。
とたんに銃撃が2人を襲う。
「上手いぞ!!」
元・掃除係の男は手を叩いてガッツポーズをした。
大きな『盾』代わりの『板』を持ち。
一気に突き進む。
2人は離れているので、それぞれ右側の上と横、左側の上と横、という組み合わせでの迎撃だ。
『盾』を。
ほんの少し、傾けた―――――――――。
バチッ!!
続いて、角度を変えれば、無事であった銃座同士に、攻撃が向かう。
何回かの爆発音がして。
4基の銃座は完全に沈黙した。
「やったな。」
「はい、上手くいきました。」
それでも額に浮かんだ汗は隠せない。
「すごいよ!!あんたたち!!」
「全くだ!!こんなこと、考えつかねぇよ!!」
後ろで隠れていた者達が口々に感嘆の声を上げる。
2人が持っていたのは、大きな『鏡』だった。
「あれが『光線銃』だとわかったから出来たことです。」
小狼は照れたように言った。
『光』ならば、『直進』する。
では、『反射』させて、『自滅させる』ことは可能だ。
「此処の鍵は甘いよ。思いっきりぶつかったら壊れるはずだ。」
元・掃除係の言葉に、黒鋼は渾身の力を込めて体当たりした。
部屋の中からは、人の気配はしない。
バン!!
開いたドアからなだれ込む。
「あった!!俺の財布だ!!」
「親父のベルトだ!!こんな所に・・・・!」
口々に言いながら。
『大切なもの』を取り返す。
「こんなむさくるしい所にやっちまって済まなかったな。」
『蒼氷』を手にとり、す、と鞘に手を滑らせる。
「――――――――――黒鋼さん!!」
小狼の叫びに、はっとして見れば。
「――――――――――姫の羽か!!」
それは、無造作に。
机の上のペン立てに入っていた。
「あ、それ?そうだなあ・・・・・2ヶ月ほど前に所長が持ってきたよ。」
元・掃除係の男の言葉に、周りにいた者たちが。
「2ヶ月前と言やぁ、特別警察が出来た頃だなあ。」
「まったくひどいったらありゃしねぇ。」
「ホントだよ!!」
彼らは気づいてはいない――――――――――。
「もしかして・・・?」
「言うな。」
今はとにかく此処から脱出することが先決、と。
2人は、そして他の者たちも皆。
牢獄の外へ向かって走り始めた。
――――――――――未来を、取り戻すために。

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