「最近ね、ううん、ずっとだけど、本当に『元気』なの。」
微笑む、その顔に『母』を見る。
「本当によく『蹴る』の。・・・・遺伝かしら?」
上目遣いに、ちらり、と見て。
くすくすと笑っている。
「・・・じゃあ、夜になると特に活発になるって言ってたのも、遺伝だね?」
「誰の?」
「もちろん、君の。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
思い当たって、ぷうぅっ!とふくれっ面をした。
その仕草は、まだまだ、子供。
「君は、本当に、寝相がよくないから。」
「もう、知らない!!」
まん丸になった頬をちょん、と突いて。
小狼は――――――――――笑った。
――――――――――― * ――――――――――
考えてみたら、『とても不思議なこと』だ。
元々、自分は『鏡の虚像』。
母の胎内から生まれ出た存在ではない。
いわば『人工生命体』とでも言うようなもの。
そんな自分から――――――――――『命』が繋がっていくなんて。
生命体としての『人間』の範疇から外れた存在を、その域に招き入れてもらえたようで。
(うれしい。)
人間になれた、と。
義兄となった桃矢王にまだ子供はいない。
ほんの少し申し訳ない気もしたが。
でも、ずいぶん長く『待たされた』のだ。
「これでお相子ですよ。」
そういって雪兎神官は笑った。
「桃矢も、もう少し素直になればいいんです。」
くっくっと喉の奥で笑いを隠しきれずに零して。
雪兎神官はおめでとう、といってくれた。
「きっとよい子が生まれます。『貴方の』子だから。」
「きっと幸せに育ちます。『姫の』子だから。」
それは――――――――――予言?
どちらにしても、嬉しい言葉だ。
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ポロン、ポロン。
優しく弦をはじく音。
(この曲は。)
何処で聞いただろうか、と考えて。
あぁ、あそこでだ、と思い当たった。
「阿修羅王の前で弾いた曲だね?」
修羅の国を統べた、美しくも哀しき王。
あの人の前で、偶然にも玖楼国と同じであった楽器をサクラは奏でた。
そしてその音楽が良い、と自ら舞を舞い。
機嫌よく酒も振舞ってくれた。(これはかなり困った)
あの王の、おかげで。
俺は、道を定めることが出来た。
一心に願い続ければ、いつかきっとネガイは叶う、と。
そして俺のネガイは――――――――――叶った・・・・・。
「うん。古い曲なんだけど・・・・・歌もあるのよ。」
「歌も?」
「断片的にしか伝わっていないんだけど・・・・。」
この曲を。
この歌を。
奏でれば、歌えば。
「この子、とても静かになるの。」
子守唄なのかな?と。
少し小首を傾げて笑う、その仕草が――――――――――愛しくて。
「聞きたいな、その『歌』を。」
この子と、一緒に。
――――――――――― * ――――――――――
窓からそっと 朝陽がのびて
まどろむ睫毛に こぼれてくよ
静かな旋律に、凪いだ水面を連想したのは。
砂漠の国、玖楼国の民では、むしろ有り得ない発想かもしれない。
旅を重ねてきた小狼だからこそ。
イメージは現実のものとなるのか。
遙か遠く離れてる時も
暖かく息づいてるよ
それは君と繋がっている奇跡
どこにいても 君と一緒にいるよ
(そう、一緒にいる。)
明日をも知れぬ旅の空。
ただひたすらに『羽』を集めることを最優先に。
この人を護りたいがために。
刹那的に、生きてきた自分。
――――――――――だが、それも。
今は、ただ。
心安らいで。
かけがえのない この想いは
変わらない いつまでも
きっと・・・・。
変わらない。
いや、変えさせはしない。
何人たりとも、この想いには。
(絶対に、手を触れさせない。)
護らねばならないもの。
それは、命かけて。
それは、己の矜持にかけて。
「絶対に、護るから・・・・・・。」
それが寝言であると気づいて。
サクラはふふっと笑った。
「本当に『親子』なんだから。」
ぴたりと静かになった、大きなお腹をすっと撫でて。
サクラは青い空を見上げた。
(子供が生まれたら・・・・来てもらえるかな?)
お祝い、という名目で。
遠い遠い次元の彼方の、日本国の。
新しい命を育む、懐かしい人たち、に。
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