どこかぼんやりとした春の夜。
月明かりも茫洋としてどこか摩訶不思議すら感じさせる。
縁側に腰を下ろし、空を見上げれば。
蝶が、飛んでいく。
『見える』のではない。
ただ、『感覚』が、そうと教えている。
それは、『光無き者』であるが故に。
ありえないほど研ぎ澄まされた感覚には、蝶の羽音すら聞こえるのだろうか。
「・・・・・・・・何を『見て』いた?」
黒い影が、問いかけた。
「・・・・・『何も』。」
『見えない』のだと。
解っていても。
その問いに対する答が『嘘』だと思えてしまうのは何故だろう。
『嘘』など、1つも言ってはいないのに。
『虚言』を弄したりすることのない人なのに。
何故。
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ごろ、と横になる。
春の夜の縁側は、本当なら少し肌寒い。
もちろん自分的にはむしろ心地よいのだが。
――――――――――この人、は。
「冷やすなよ。」
羽織を1枚、その背にかける。
大丈夫、という言葉は手で遮った。
「大丈夫かなんて、解るわけねぇよ。」
しょうがない、といった顔で羽織を肩に掛けるのを見ながら、膝にひょい、と頭を乗せた。
「少しくらい、いいだろ。」
そのまま目を閉じて。
しばし優しい波に、その身を委ねる。
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春の風が、そよ、と吹く。
桜の花びらが、何処からか舞ってきた。
さくら、さくら。
弥生の空は。
見渡す限り。
霞か、雲か――――――――――
白鷺城のご神木。
去年の皐月の日に、若木に代替わりした、ご神木。
自分の中に在った瘴気を浄化するために、自らの『時』を止めてくれた、優しい、樹。
普段なら1ヶ月は咲き続けるのに、去年は僅か1日でその花の盛りを終えた。
今年は。
早くもその枝に花は開き、7分咲きといった所だ。
一月、は叶わぬかもしれないが、しばらくは花を楽しむことが出来よう。
「花見が出来るな。」
「酒を飲む口実?」
「言うなよ。これでも少しは減らしてるんだぜ。」
放っておいたら、それこそ浴びるように酒を飲み続けてもケロリとしているのだから。
家計がもちません、と何度苦笑されたか。
それでも他の者よりはたくさん飲めているようで。
同じような所帯持ちの忍者に聞くと、皆一様に目を丸くする。
「お前・・・自分の甲斐性で家族を養うようにしろよ?」
剛真に言われるのならともかく、同輩の忍者に言われたのでは。
そうだよなー、とは解ってはいるが。
好きなものは、仕方がない。
それでも以前なら、任務の時と眠っている時と、鍛錬の時以外は飲んでいたようにも思うが。
――――――――――今は。
ひょい、と頭を動かせば。
くすぐったい、と笑い声が降る。
こち、と当たった『壁』は、想像以上に固い。
「―――――――こーんなに『固い』モンだとは、思わなかったなあ。」
向きを変え、見つめながらそっとさする。
曲線は、張りがあり、弾力があり、そして、固い。
「聞こえるかな?」
そっと耳を押し当ててみた――――――――――。
「――――――――――・・・・て・・・・・っ!!」
完全に虚を突かれた。
思わず起き上がり、頬を押さえる。
驚いたような顔がやがて緩み、笑いをこらえきれずに肩を揺らして。
「・・・・顔・・・・『蹴られた』・・・・?」
笑われているのが、悔しい。
聞いちゃいないだろうとは解ってはいるが、つい文句の1つも言いたくなる。
「おい!『親父』の横っ面を蹴り飛ばすたぁ、いい度胸だな!!」
まだお腹の中にいるのに、聞こえませんよ、と。
「解ってらぁ。今から言い聞かせておくんだ。」
言ってるそばから、また、ベコン。
「・・・・・元気だな。」
「話しかけてもらえて喜んでいるのでしょう。」
「俺に?」
「・・・えぇ、『父上』に。」
『父上』。
その言葉は、とても、気恥ずかしくて。
そして、深い過去の傷を伴って。
背中から抱え込めば、柔らかな声が降る。
「『同じ』になる必要は何処にもありません。『己の道』をこそ進まれれば、それで。」
親父のようになりたい。
だが、『同じ』でなくていい。
俺は、俺だ。
親父じゃない。
「―――――――早く『出て』こい・・・・『ととさま』は待ってるぞ・・・・。」
――――――――――きっと、『護る』から。
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