「僕の『友達』なんだ。」
はにかみながら言った少年。
周りに集まった『鳥』達を見て。
その微笑みに、『哀しさ』を垣間見たのは。
皆がそれぞれに『哀しき過去』を引きずっているからか。
『鳥』が、友達。
『人間の』友達は――――――――――居ない。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
鳥の多い国。
何処を見ても、鳥、鳥、鳥。
家の飾りも、鳥。
街の看板の意匠も、鳥。
身に纏う服にも、どこかしら、鳥。
「・・・・いい加減食傷気味なんだが?」
黒鋼の呟きは、皆の心を代弁していた。
さすがにそうだ、と声高に賛同できずに、ただ苦笑するのみでその意を伝える。
鳥と『共に在る』国。
「ま、こういう国があってもおかしくないし〜〜。」
それがフォローになっていないことは重々承知しつつ。
「モコナ、羽の反応は?」
「それがね・・・・・・。」
モコナは困った顔をした。
「ものすごく、いっぱい、『羽』があるの。」
「は?」
「羽が?」
「・・・・たくさん・・・・?」
「うん・・・・・『羽』の気配、すごくたくさんあるの・・・・。」
「それは・・・・・。」
ありえない。
玖楼国で、あの時飛び散ったサクラの羽は。
『少し』ではなかったが、『無数』でもなかった。
『すごくたくさん』と表現されるほどの数ではないはずだ。
「ふん・・・・・。」
飛び交う鳥を見て、眉間の皺が増えた。
「『木の葉』を隠すには『森』の中、『羽』を隠すには、『鳥』の中・・・・・。」
はっとしたように皆は見た。
この無数といえる『鳥』達の中に。
――――――――――『羽』が、ある。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
それこそ雲を掴むような話だ、とは思ったが。
とにかく街で情報収集を開始した。
小狼はサクラとペアで。
ファイは単独で。
黒鋼は和ませ役が必要だろうという皆の意見で(本人的には非常に不満らしい)、モコナと一緒だった。
色々聞きまわれば。
「鳥さんと一緒に住んでる国なんだね〜〜。」
時には迷惑なこともあるだろうが、彼らは決して鳥たちを排斥したりしない。
ましてや、『殺し』たりするなど。
万が一『間違って』殺してしまったような時、人々は驚くほど深く悲しみ、己を責めるのだ―――――――。
「・・・こりゃあ、厄介だな。」
『羽』を手に入れるのに、『鳥』達に危害が及ぶようなことになったら。
それこそ自分たちの方が危うくなる。
もちろん『自分』はどうにでもなろうが――――――――――サクラは。
とりあえず日が傾いてきたこともあり、宿の方に向かった。
バササッッ・・・・・・・。
鳥の羽ばたきの音がして。
何の気なしにそちらに目を遣った。
見晴らしのよい高台に『公園』のような空間があり。
アヒルのような鳥の形のベンチに、1人の少年が座っていた。
その周りに、舞い降りた、鳥たち。
といっても、ほんの数羽だった。
鳥たちも、もう巣に帰るのだろう。
むしろこの時刻に鳥がここに居る事の方が珍しいのではないのだろうか。
「鳥さんたちとお話してるのー?」
いきなり視界に入ってきたであろうモコナに、驚きの目を向けて。
でもすぐに、少年はふんわりと笑った。
「うん。」
「でも鳥さんたち、おうちに帰らなくても大丈夫なのー?」
「この子達のおうちは、うちの庭の木にあるんだ。」
「じゃあー一緒に帰るんだー。」
そのときの、少年の顔が。
何故か心に突き刺さるようで。
黒鋼は、モコナに何事か囁いた。
「うん、わかった。」
モコナはにっこり頷いて。
くるり、と少年に向き直った。
「モコナ、この鳥さんたちとお友達になりたい!一緒に『帰って』もいい?」
少年は。
かなり困った顔をした。
だが。
「ね、お願い!!」
懇願するモコナに根負けしたのか。
小さく、いいよ、と呟いた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
街を、歩く。
鳥たちは、少年の、そして黒鋼の肩や頭に止まっている。
「『皆』が他の人の肩に止まるなんて、珍しいな。」
「黒ポンはね、見かけは怖いけど、ホントはおせっかい焼きで優しい『うさうさ』さんなの♪」
「伸されてぇか、白まんじゅう。」
楽しそうにモコナは跳ねて。
そして、聞いた。
「ねぇ、『おうち』、何処?」
ピタ、と少年の足が止まった。
「・・・あ・・・うん・・・・もう少し。」
ようやく呟いた、その言の葉は。
黒鋼は、静かに目を閉じた。
「家を出てきたのか。」
責めるでもなく、ただ平静に。
その静かな言葉に少年は顔を伏せた。
「え?『家出』しちゃったの?!」
モコナの驚いたような声に、少年は。
微かに、微かに、言葉を重ねた。
「・・・・・・・・・・あの家に、僕は居ちゃいけないんだ。」
どれほどの事情があって、その言葉が出てくるのか。
普通なら。
それを全て話してみろ、というだろう。
しかし。
黒き疾風は。
ポン、と少年の頭の上にその大きな手を置いた。
「?」
「家に、帰れ。」
その時見上げた少年の顔は、今にも泣き出しそうで。
だが見下ろす紅い瞳は微かに優しい光を湛える。
「帰ってみて、もし家の者がお前を拒否したら、改めて荷物を纏めて家を出ろ。」
ここで待っていてやる、と。
お前の家は、そこだろう?、と。
指さしたのに驚きの目を向けて。
少年は、おずおずと『我が家』へ足を向けた。
何度も、何度も、振り返る。
その度に。
頷いて。
白い小さな手を振って。
少年は。
『我が家』の呼び鈴を押した――――――――――。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
猛烈な勢いで開いた、ドア。
転びでるように飛び出してきた、母親らしき人影。
頬を撫で、身体を抱きしめ。
早口で何事か、言っている。
その声は、涙声で。
少年は呆然としたように、その嵐に身を任せていたが、やがてはっとしたように、身体を離した。
おそらくは、『世話になった人たちがそこに居る』とでも言ったのだろう。
こちらを向き、やってこようとしたのを、手真似で止めた。
軽く手を上げて。
きびすを返す。
「また遊ぼうねー!!」
モコナが手を振りながら叫んだ。
「良かったね〜〜〜あの子、おうちに帰れて!」
角を曲がってその姿が見えなくなって、モコナは黒鋼にそっと呟いた。
「あぁ。」
モコナは、黒鋼の口元が微かに笑っているのを見つけた。
――――――――――そう。
後ろを向いていても、解る。
母親は何度もお辞儀をし。
少年は――――――――――泣いていた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「・・・・初めて、だったんだ。」
翌朝、礼を言いにやってきた少年は、恥ずかしそうに顔を伏せながら言った。
『人』に、気遣ってもらったことが。
『人間の友達』が、居ない。
居るのは、『鳥』だけ。
だから、『家族』の中でも、孤立してしまった。
会話が、無い。
心が、通じない。
居場所をなくした少年が、悲観的な発想に走るのは当然かもしれない。
「とても、嬉しかった。」
昼前には帰るはずの少年が帰ってこないことで、母親は気も狂わんばかりになり。
父親と兄は、近所中を探し回っていたのだという。
もちろん、『叱られ』はしたが。
それが――――――――――嬉しかった。
「ありがとう。」
そういって少年は頭を下げた。
一晩中、『家族』と語り合った。
思いのたけを、感情の迸るままに、ぶちまけた。
大人しい、と思っていた少年の激情に『家族』は驚き。
その心のうちに秘めた『哀しみ』に初めて気がついた。
「・・・・ごめんなさい・・・・。」
慮ってやれなかったことを。
『母』は、詫びた。
『父』は黙って抱きしめ。
『兄』は痛いほど背中をドン、と叩いた。
羽ばたきの音がして。
鳥たちが舞い降りてきた。
「僕の『友達』なんだ。」
鳥たちを見る、その表情に、『哀しみ』が見えるのは。
小狼は首を振った。
「鳥たちと一緒に、『人間』の友達が出来るよ、きっと。」
『家族』という最小の社会単位での関わりを復活させた少年は、やがて大きな繋がりの中に入っていくだろう。
『鳥』達は、きっとその仲立ちをしてくれるだろう――――――――――。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
鳥は、その止まる『枝』を選ぶのか。
弱い鳥は、下からは攻撃を受けない高さに。
上からは己を隠す葉の陰に。
止まろうと『選ぶ』のかもしれない。
サクラの肩や手には、可愛い声でさえずる小鳥たちが。
小狼の肩や手には、あまり鳴き声はたてないが、どこか人懐っこそうな鳥たちが。
ファイの肩や手には、その姿から色から、気品と美を醸し出す、物静かな鳥たちが。
モコナの周りには、少し猛禽類に近いような大きな鳥たちが。
そして、黒鋼の肩や頭には、色も声も地味な、小さな鳥たちが。
それぞれに舞い降りてきて集っているのだった。
周りの鳥たちを見比べて、苦笑して。
『モコナ、ちょっとコワーイ♪』という声が大きな影に埋もれた中から聞こえて。
少年は、くすり、と笑った。
「見て欲しいものがあるんだ。」
この国に来た理由を聞いて。
少年は森へ皆を誘った。
「ほら・・・・あそこ。」
少年が指差したのは、高い木の枝。
よく見ると、鳥の巣があるようだ。
「この子の家なんだ。」
少年の肩に止まった鳥を撫でながら言う。
「『羽』、あそこにあるよ。」
「!!!」
小狼が木に登った。
不安そうに鳴き声を上げた鳥たちに、サクラが声をかける。
「大丈夫、小狼君は何もしないわ。」
やがてするすると下りてきた小狼の手には、確かに『羽』があった。
「めきょっ!!」
「遅ぇよ、白まんじゅう。」
『羽』はサクラの中に、スウ、と吸い込まれていく。
「『恩返し』・・・・できたかな・・・・?」
恥ずかしそうな、少年の笑顔。
ファイはぎゅ、とその手を握り、頭をなでなでとした。
「有難う〜〜とっても助かったよ〜〜。」
少年は。
これで1歩を踏み出せるだろう。
受けた恩をきちんと返せる、心優しい『人間』としての、第1歩を。


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