龍が、翔んだ。
銀のうろこを、煌かせて。
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いつも、いつも、『してもらう』ばかりのような気がする。
『護る』とは、こういうことではないとも思うのだが。
ファイが評して言った言葉は、当たっていると思う。
『過保護』だ、と。
『嫌』なのではない。
ただ、面映くて。
何だか、居所が無いようで。
「困ったな・・・・・。」
つい、口から出てしまう。
「何が『困った』のですか?」
小耳に挟んだらしき女官長に、苦笑いでごまかして。
「天照様は。」
「そろそろ『ご進講』のお時間かと。」
ああそうだった、と思った。
「・・・今日は、工芸の匠をお招きしたのだったな・・・・。」
末席で拝聴するか、と天照の所に向かう。
帝といえど、『勉強』をする。
むしろ『帝』であるが故に、その範囲は多岐にわたるといってもいいだろう。
それぞれの専門の中で、第一人者とされる者が講義を行う。
今日の講義をするのは、工芸の道で『匠』と呼ばれる者。
末席の、いわばオブザーバー的な所ででも、『聞く』ことが出来るのは実に有意義なことなのだ。
今日の講師は、『象眼細工』では並ぶ者無き、といわれる匠の老人だった。
職人肌の老人は、帝の御前に出るのが初めてらしく、恐ろしく緊張していた。
だが、それでも自分の得手とする分野の話になると止まらない様子で。
まさに熱弁を振るう、といった表現が正しい。
多少脈絡が無かったりもしたが、内容は十分に理解できるものだった。
「なかなか面白い技法だな。違う金属をはめ込むとは。」
実例として老人が持参した作品を手にしながら、天照は感心したように言った。
「お前も、『見て』みるがいい。」
そういって、てづからその手に渡してくれた。
その手の、全ての感覚を持って『見よ』、と。
渡されたのは、刀の『鐔』だった。
指で辿ると、浮き彫りになっているのがわかる。
浮き彫りというよりは、盛り上げてある、といった感じだ。
当然微かだが手触りが違う。
(素材が違うのか。)
その細工は、『寿老人』の意匠だった。
「こちらは『布目象嵌』という技法で作ったものでございます。」
別のもの―――――それは香苞だった――――――を渡される。
こちらはその表面に、細かな切れ込みが規則正しく布目のように走っていた。
そこに違う金属が埋め込まれている。
(おそらくは、金や銀などといったものか。)
その意匠は――――――――――鴛鴦。
何かが、『走った』。
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匠の工房は、白鷺城に比較的近かった。
そこに毎日のように通い、教えを乞う。
元々手先は器用ではあったが。
「しかし、お見事ですな。」
匠をして、感嘆せしめた。
目の見えぬ者が、此処まで、と。
「これにて完成でございます。」
象嵌細工を施し、漆を塗って。
『それ』は、完成した。
「これは、心ばかりのお礼でございます。」
よい仕事を、心栄えを見せていただきました、と。
匠なればこそ、より良きものへの敬意は忘れない。
そう言って差し出された桐箱に、静かに納めた。
「お忙しい中、お手間を取らせました。感謝いたします。」
「何の、よい刺激になりました。これからもいい物が作れそうでございます。」
互いに礼をして。
匠の工房を辞した。
「・・・遅くなった・・・・。」
いつもはもっと早くに切り上げるのだが、今日は仕上げだったのでつい時間が経ってしまった。
急ぎ足で家に戻る。
門扉を開け、家に入れば。
(よかった、まだ帰ってない。)
急いで着替え、食事の支度をしようと土間に向かった――――――――――。
「遅ぇぞ。」
ため息を1つ、ついた。
「気配を消すのはやめて欲しい、といったのに・・・・・。」
たとえ目の前にいても、自分には『解らなくなる』から。
しかしそれは簡単にスルーされて。
「腹減った。飯にするぞ。」
「あ、すぐに・・・・・。」
「もう、出来てる。」
「・・・・え?」
きょとん、とした。
――――――――――食事の支度が、出来ている?
「何してるんだ。早く食わねぇとさめちまうぞ。」
食事の『匂い』が、しない。
(漆のせいで嗅覚が鈍った・・・?)
それは、ありえない。
もしそうなら、世の中の漆を扱う者達は皆嗅覚がおかしいはずだ。
しかしそういう話は聞いたことが無い。
答は。
すぐに、出た。
「――――――――――くしゅん!!」
とたんに背中を走る悪寒。
「おい、どうした?風邪か?!」
「え・・違・・・・くしゅん!!」
「風邪だろうがよ!!」
寝所に引きずっていかれ、布団に簀巻きにされた。
「しっかり被ってろよ!!」
どたどたと足音が去って、またやってきた。
「ほら、薬!!」
「・・・これだと3倍量・・・・。」
「多いほうがよく効く!」
「・・・それは、違う・・・・。」
さすがに正規の量だけを受け取って飲み、後は押し戻した。
「もう、いいから・・・・。」
「?」
「・・・食事・・・早く食べないと、さめてしまう・・・・。」
「・・・・・お前が眠ったら、食う。」
はあ、とため息をつき。
くしゅん、とくしゃみをすると、埋もれるほど布団を引き上げてくれた。
「最近帰りに何やってたんだよ・・・。」
匠の工房に日参しているのは、知っていたのだが。
「・・・・棚の上・・・・。」
「棚の上?」
見ると、見慣れない小さな桐箱がある。
「これか?」
頷くのを見て、桐箱を手に取り、開けてみた。
「・・・・これ・・・・・・・。」
色こそは、シンプルだが。
中にあったのは、『小柄』だった。
その表面に。
天空を翔ける、龍。
小さなキャンバスに描かれながら、それは雄大な大空の飛翔を感じさせて。
目の見えぬ者が、此処まで精緻な意匠を描き出すとは。
半ば呆然として見つめる、その耳に、微かな声が届いた。
「いつも『貰って』ばかりだから・・・・・。」
はっとしてみれば。
静かな寝息が聞こえる。
しかしそれは、少し荒さも含んでいて。
(今夜は熱が出るかな。)
しかし対処が早かったから、それほどひどくも、長引きもせずに済むだろう。
「無理しやがって・・・・。」
ため息をついて、頭を掻く。
全くもって、この人は。
どうしていつも――――――――――こうなのか。
とりあえずは食事をとって、後は寝ずについていてやるか、と。
腰を上げて部屋を出る。
その時に微かに聞こえた言の葉を。
聞いていたのは――――――――――天翔ける龍だけだった。
俺にはな、お前が傍に居てくれるだけで十分なんだよ――――――――――。
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