その日、砂漠には珍しい雨が降った。
スコールのように激しいものではなく。
どこか穏やかで。
思わず空を仰いで、雨をその身に受けてしまうような。
しとしとしとしと。
部屋の片づけをしていた小狼は、その手を止めて、雨に見入った。
(この雨。)
どこかで見たような?
考えこんだ、その脳裏をフラッシュバックしていくものは。
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「サクラを・・・サクラを助けてください!!」
しとしとしとしと。
その身を濡らす、雨。
「サクラは絶対、死なせない!!」
無我夢中で叫んだ、あの言葉。
後悔はしない。
自分の心の内の全てを。
心からのネガイを。
『言葉』にしたのだから。
そう。
それが、あまりにも辛い『対価』と引き換えであったとしても。
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あの『お好み焼き』美味しかったね。
兄様と雪兎さんそっくりな人がいてビックリしちゃった。
笙悟さんやプリメーラさん、正義君、元気かなあ?
空汰さんと嵐さん、今頃赤ちゃんがいるかしら?
巧断って、優しかったね。
春香、元気かなあ?
きっと元気印だよ。
また屋根の上に上ってたりして!!
きっと修行してるよ。秘妖さんも応援してくれてるもの。
いつかきっと、お母さんよりもすごい秘術師になるよね!!
グロサムさん、今も一人なんだね。
時間の進み方が早くてビックリしちゃった。
エメロード姫、300年前の人だって言うけど、俺たちの時間じゃもっと近い人だったのかも。
今はもう、明るい所で幸せに過ごしているわよね。
フェアリーパーク、もう復興したかな?
また『夢卵』やってたりして?
龍王とか譲刃ちゃん、足繁く通ってそうだね。
『猫の目』、誰かが続きをやってくれてたらいいのになあ。
鈴蘭さんと蒼石さん、仲良くやってるかしら?
俺たちが『変えて』しまった未来だけど、きっとこれで良かったよね。
そうね、2人が幸せになってくれたもの。
皆が仲良く暮らせるのが一番だよ。
火煉太夫の炎、もう一度見たいなあ!!
知世ちゃん、お宝映像、今でも持ってくれてるのかな?
結構マニアックだったからね。きっと毎日見てるんじゃないかな?
それって恥ずかしい〜〜〜。
ピッフル社の研究チームは、次元を越える機械が作れたかな?
早く出来ないかな!そうしたらきっと遊びに来てくれるよね?!
きっと来るね。ビデオカメラ持参で!!
『東京』の人たち、水はまだちゃんとあるのかな?
結局『羽』は全部集めてしまったものね。
水を維持することが出来なかったら・・・・・。
大丈夫だよ。きっと皆なら、生きる道を見つけてるさ。
・・・そうかな・・・・。
そう、絶対大丈夫。人間の生きる力を信じて。
・・・うん。
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一つ一つの想い出を。
思い返すたび、心に去来する。
自分たちは、どれほどの人々に助けられてきたのだろう。
明日をも知れぬ旅の空に。
『人の情けが身にしみる』とは、まさにこの事か。
もちろん、自分たちも『努力した』。
『ネガイ』を叶えるために。
一心に突き進んで。
しかしそれの全ては。
多くの人々の『おかげ』で、成された事。
自分たちは――――――――『生かされて』いる。
このことは、遠く離れた国にいる、仲間であった黒き疾風が言っていた。
『誰か』の力のおかげで『生きて』いる。
『自分ひとりで』生きている者など居ない。
誰かと関わり、助け合い、影響し合い。
寄り添って。
支えあって。
『人』という字はまさに良く出来たもんだ、と。
感心したように彼は言っていた。
元々は人が在る姿を示したのであろうが。
今は。
寄りかかるように互いに支えて在るように見える――――――――――。
ましてや、自分は。
『鏡の虚像』。
何の縁も持たぬわが身が。
宿命とはいえ、『運命の人』と出会い。
新たな縁を作り出そうとしている。
考えこんだ自分を。
心配するかのように、そっと優しい手が差し伸べられた。
「どうしたの・・・小狼?」
来月の今頃は、もう生まれているかもしれない。
臨月を迎えた大きなお腹を、大儀そうに、しかし愛おしい様子でそっと撫でるサクラの顔は、『母』の顔。
「・・・少し、考えてた。」
「何を?」
「・・・今までの事、これからの事。」
「どんな風に?」
「・・・・俺たちが、『どんな風に生きるべきか』ということを。」
脈々として受け継がれ、流れ続ける『人の歴史』。
その一翼を、今。
担おうとしている、自分たち。
その責を知らずにただ戸惑うだけの者たちもいるという。
『そんな人たちは、必ず何らかの形で道を外れるわ。』
礼を言うために立ち寄った『日本』で。
次元の魔女は、そう言った。
生まれてくる子は、元気か?
『正しい道』を歩んでくれるか?
『親』である自分たちは、『道しるべ』になりうるか?
生まれつき病気や障害を持つのがいけないのではない。
生きていく途中で失うのがいけないのではない。
『天から授かったものを、少し天に返しただけだ。』と、黒い影は言い切った。
それでもなおその存在が『ここに在る』のは。
「『何か』しなけりゃならないことがあるんだよ。」
その『何か』を。
見つけなければならないのだと。
それは。
傍らに止め置いた、『鳥の人』にも言い聞かせるように。
あるいは無限に研ぎ澄まされた頭脳。
あるいは卓抜した芸術的感性。
あるいは『そこにいるだけ』で全てを癒すチカラ。
その素晴らしさ。
一体何があるのだろう?とワクワクしさえする。
不謹慎だね、と自嘲するのに、サクラは微笑みを零す。
『普通に、何の不自由なく生きていける身体と心』が在るのは、『親』として安心なのかもしれないが。
「『天は二物を与えず』って言うけれど。」
周り全てのものに影響を与えることの出来るチカラがあると言うのは、何と素晴らしいことだろう。
生まれてくる、新しい命の全てが。
心優しくて。
誰かのために一生懸命になれる人になってくれたなら。
この『人間の世界』は。
眩いばかりの輝きに満ちたものになるだろう――――――――――。
願って。
祈って。
力の限り、己の信念に従って。
努力して。
――――――――――願い続ければ。
いつかきっと、ネガイは叶う。
「俺は――――――――――誓う。」
大きなお腹に、そっと手をやって。
小さく、しかし確固たる信念を持って言葉を紡ぐ。
「多くの人のおかげで援けられてきた、俺の、そしてさくら、君の命。」
「俺は、君を護る。この命の全てをかけて。」
「そして、『この子』も護る。」
「この子は、今まで俺たちを援けてくれた人々よりも、もっと多くの人々に係わり合い、援けられて生まれてくる。」
「俺たちが、しなければならない事。」
「それは。」
雨が、止んだ。
遠くに子供の歓声が聞こえるのは。
空に大きな虹がかかっているからだろう。
「全力で――――――――――この子を、護る。」
いつだったか、ファイが言っていた。
「虹の根元には、宝物が埋まっているって言うよ。」
今この空にかかっている虹の根元は――――――――――。
虹の柔らかな7色の光に照らされて。
そこに在るのは――――――――――玖楼国の王宮だった。
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