珍しく、寝苦しかった。
「こんな時には『寝酒』ですかねー?」
自問自答しつつキッチンに立つ。
お酒をシェイカーに入れようと思って棚に手を伸ばした。
「?」
向こうの方で、かすかな気配。
オレはさすがに忍者ほど気配を探るのに長けているわけではない。
それでもそこそこの探知は可能。
もしかしたら、どこかで『魔力』を遣っているのかもしれないけれど。
(ま、目立たない程度でしょ。)
自分で自分を納得させる。
実際、この程度なら、『気付かれない』はずだから。
さて。
『この気配の正体』は?
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「忍者なら、もっと上手に気配消そうよー。」
「うるせぇ。」
アヤシイ気配は黒たんだった。
買ってきたパーツを組み立てながら、マニュアルと首っ引きでその作動を確かめている。
「真面目にやってるんだー。」
「こんなのは『初めて』だからな。」
日本国には『機械』というものは無かったらしい。
では『勝手に』動く機械はとても不思議なものだっただろう。
そして今、それを理解し、使いこなさなければならない理由がオレ達にはある。
ドラゴンフライレース。
この国での巨大企業、ピッフルプリンセス社が主催するレースだ。
賞品が、サクラちゃんの『羽』。
即行で参加が決まった。
オレと黒ぽんとが夜魔ノ国で稼いだ報奨金が、この国で良い換金率で換金できた。
早速ベースとなる『家』――――――――――トレーラーハウスを中古ながら購入する。
服も調達したし、移動用の車もレンタル。
これの操縦は比較的簡単だったので、オレ達はすぐに習得した。
問題は、『ドラゴンフライ』。
基本的な設計は皆同一。
それをチューンナップし、外見をデザインし、オリジナルな機体を作らなければならない。
外形的なデザインはあれやこれやと揉めながら(一番揉めたのは、もちろん黒たんの分)ほぼ決まった。
あとはエンジンの問題。
そして――――――――――操縦者の力量。
トレーニングセンターで一通り教えてもらい、交代で練習に行く。
『2人』上手な者がいれば、あとは自力で教えられる。
そう思って。
此処はオレと小狼君かな、と思っていたのだけれど。
「でも意外だったよね〜〜〜操縦テストの成績が一番良いのが黒たんだなんて。」
「ふん。」
ある意味無鉄砲ともいえる思い切りのよさが、好成績につながったのか。
あれこれ思いめぐらせているオレを完全に無視して、黒たんは機体にエンジンをセットしていた。
「飛ばすの?」
「あぁ。」
エンジンの良し悪し、調子なんてものは、所詮地上で知るのには限度がある。
実際に飛んでみなければ判らない事はたくさんある。
もっともそこには危険もくっついて回るから、慎重には慎重を期して、と言いたいところだけど。
「じゃあ、飛ばしてみようよー。オレも付き合うからさー。」
「あぁ?!何でお前が?!」
「だってー、もし何かあったら黒たん回収しなきゃいけないしー。」
黒たんは、黙った。
実際、地上を走っているのとはワケが違う。
とても高い所から落ちるかもしれない。
いくら忍者でも、もし意識を失っていたら――――――――――。
「・・・わかった。」
その辺りは黒たんも理解したって所かな。
意外なほど素直にオレの提案を受け入れてくれた。
「じゃあ早速スタート〜〜〜。」
オレ達はふわり、と空に舞い上がった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
綺麗な月。
「頭の上にも結構車が走ってるから、気づかなかったねぇ〜〜。」
オレの言葉は独り言のように滑っていく。
実際黒たんはあれやこれやとチェックに忙しくて、オレの言葉なんて聞いちゃいない。
「オレはどんな風にチューンナップしようかな〜〜?」
「要所要所でカメラが回るみたいだから、パフォーマンスなんかも必要だったりして〜。」
「でも上位常連組はデータを見る限り凄く安定してるから要注意だね〜〜。」
「オレ達、何処まで食い込めるかな〜〜〜・・・・・いや。」
「絶対、勝たなきゃ、ね。」
返事なんて。
期待してもいないし、聞いているとも思ってない。
それなのに。
「当たり前だ。その為に俺たちは此処に居る。」
思わず操縦をミスって、慌てて体勢を立て直した。
見れば、月を背にして、黒たんがオレの位置からは逆光になっていて。
紅い瞳が射すくめるような光を放つ。
ぞく。
背筋に冷たいものが滑り落ちる。
このオレとしたことが。
長い時間を生きてきた強い力を持つ魔術師の、このオレが。
「――――――――――お前は、『何』を見る?」
黒たんが静かに問うてきた。
「え?」
「空と同じ色のお前の、その『瞳』に映るのは『何』だ?」
質問の意味が。
解らなくて。
きょとん、としてしまったオレに、黒たんはフン、と顔をそむけた。
「帰るぞ。」
「あ・・・・うん。」
混乱した頭のまま、静かに機体を地上に下ろした。
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「俺はもう少し整備を続ける。てめぇはもう寝ろ。」
いつもなら、『子供扱いして!!』と憤慨してみせるのに。
何も出来なかった。
混乱しきった頭のまま。ベッドにボスン、と倒れこむ。
そのまま頭の中で会話を反芻した。
「――――――――――お前は、『何』を見る?」
「空と同じ色のお前の、その『瞳』に映るのは『何』だ?」
ぞくぞく、ぞくり。
肌が、あわ立つ。
この感覚は、何?
見透かされている。
深い深い、深奥を。
キケン。
これ以上、彼に。
近づいてはいけない。
近寄らせてはいけない。
キケン。
あの紅い瞳に焼き焦がされる前に。
逃げなければ。
「・・・・『瞳』・・・・・。」
部屋の鏡を見る。
オレの瞳。
空の、蒼。
彼の紅とは、相容れない、色。
「空と同じ色のお前の、その『瞳』に映るのは『何』だ?」
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朝が、来る。
「おはようございます。」
「おはようございます、ファイさん。」
「おはよう〜〜〜ファイ〜〜〜。」
ただ1人、声の聞こえない、その人は。
「黒ぽん、こんな所で寝てるの〜〜〜。」
「夕べ遅くまで整備してたみたいだよ。」
「小狼君、どうして知ってるの?」
「明け方近くにキッチンに飲み物を取りにきた時に、まだ作業をしているのが見えたんだ。」
「黒ぽん、頑張り屋さんなの〜〜。」
頭を、少し振った。
振り切らなければ。
取りついた、モノを。
声を繕って。
仮面を被って。
「そっとしておいてあげようね〜〜〜。あ、サクラちゃん、毛布持ってきてくれる?」
「はい!」
「・・・しーっ・・・・・。」
「・・あ・・・・・はい・・・・!」
これで、いい。
――――――――――『時』が来るまでは。


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