「まあ『羽』のチカラというものはさまざまな方向に働くものなのだな。」
「それ自体が大きなチカラを持っているというのはわかっています。でも・・・・・。」
「『大きすぎるチカラ』というものは、両刃の剣だ。そして毒にも薬にもなる。」
「私の『羽』・・・・・災いを呼ぶものでしかないのでしょうか・・・・?」
「それは違うな。今まで訪れた国の中で、『羽』によって救われた国があったはずだ。」
「・・ジェイド国・・・・・・。」
「東京・・・・も、かな・・・・?」
「『想い』さえ確かならば、必ず良い方に事態は向かう。それこそ『無敵の呪文』が効くのではないのかな?」
サクラと小狼は顔を見合わせた。
「そうだよ〜、きっと、幸せになれるんだよ〜!!」
「・・・・信じる者は救われる、って言うしな・・・・・。」
『いつもの調子で』賛同した『声』は、どこか高くて『幼い』。
「信じ続ければ、いつか必ずネガイは叶うの!!絶対大丈夫!!」
部屋をぶんぶん飛び回り始めたモコナをガシッ!!と掴んだ、その手はどこか小さくて。
紅玉の瞳は苦々しそうな色を湛え。
金糸に隠れるように蒼玉の瞳はいたずらっぽい光を湛えた。
「がんばってみよ!!『子供』の力で!!」
―――――――――――――― * ―――――――――――――
外見上。
「12、3歳ってとこでしょうか?」
お互いに顔を見合わせて。
「・・・そんなものかな。」
「・・・そういう感じだねー。」
「でもお2人とも、『可愛い』です!」
それは全く褒め言葉になってはいない、と口をへの字に曲げる『黒髪の少年』。
「えー?可愛いよねー??」
覗き込むような蒼い瞳に、思わず後退る。
「か・・・可愛くなんかねぇっ!!!」
「あー?もしかして、黒様、照れてるー?」
「て・・・・照れてなんかいねぇよっ!!」
――――――――――どう見ても、『照れて』いる。
「黒ぽん、大人になったら性格もひねくれちゃってるのー!」
「うるせぇっっ!!」
があぁぁっ!!と怒る所は『変わっていない』のだが。
「基本的に、『12歳』までのようだな、この国は。」
『13歳』になると、正確にはその前日までに国外に出る。
13歳になると『魔物』が襲ってくるのだと言う。
連れ去られ、食われてしまうらしい。
もしこの国に帰ってくるとしたら、『31歳』になってから以降なのだと解った。
つまり。
13歳から30歳の者は、1人もいない。
今、旅のメンバーは、皆。
『12歳相当』の姿に変わっていた。
(なんでオレまで小さくなったのかなー?)
そっと独りごちる。
皆には話してはいないが、ファイ自身、相当長い年月を生きている。
チカラの強い魔術師の宿命――――――――――長命。
(見た目の年齢って事かな?)
それ以外に納得のいく答が見つからない。
(でも、だったら何故。)
その視線は、『時の魔女』に。
(どうしてリアンさんは変わらないんだろう?)
実際リアンの姿は何の変化も見せてはいない。
『シールドのおかげだろう。』などと言ってはいるが、ファイは違う、と感じていた。
自分よりも長い時間を生き続けているのに。
ファイは、知らない。
その『理由』を、皆が知るのは――――――――――いずれ訪れる、諏倭の地での事だということを。
************************************************
「課題は、今日からの宿と、『こんな事になった』原因の究明と、『羽』の捜索だな。」
「あったりまえな事、言うなよ!!」
ツッコミは健在だが。
その頬がかすかに染まるのは、今までには見られなかったこと。
『少年』であるが故に、『子供』であるが故に。
『感情』というものは隠しきれないままに現れてくる。
今やただ1人の『若い大人』である、この存在は。
いや、それはこの国にとっても、唯一の。
その人は、目を閉じ、風の『声』を『聞いて』いた。
「・・・・・私は、『居ない』方が良いな・・・・・。」
はっとして見遣る皆を代表してファイが尋ねた。
「どうしてー?」
「目立ちすぎる・・・・のと、二手に分かれたほうが、良い。」
「じゃあ、誰かと・・・・。」
それは、エステリアランドでも、他の国でもそうであったように。
しかし。
「いや。今の皆を分断するのは危険だ。自分たちの能力が『年相応に後退している』事を認識してもらおう。」
『今まで』の皆なら出来たことが、『今』は出来なくなっているのだと。
「ソエル。」
「なぁに?」
モコナはちょこん、と首を傾げた。
「もし黒鋼が刀を使うことがあったら、『緋炎』を出せ。」
「え?『蒼氷』は?」
「長さが間に合わん。・・・小狼は足技のみで対応してもらおう。」
黒鋼は鼻白んだ。
「何で『蒼氷』じゃダメなんだよ!!」
「やってみたらいい。」
「・・・・白まんじゅう!『蒼氷』、出せ!!」
声に応じてモコナが出した『蒼氷』を手にしたとき。
「・・・?!」
感じた、違和感。
抜刀しようとして――――――――――。
「・・・・・・・・・!!」
「『抜けない』だろう。」
抜刀できない。
「腕の長さが根本的に違う。解ったか?」
「・・・・・・・・・・解った・・・・・。」
元来の性格なのか。
理路整然と示されたことには、素直に従うようだ。
「では、後は任せる。」
言葉だけを残して、ふっとその姿が消えた。
『存在を認識させないようにした』のだと知る。
「・・・行きましょう。」
「そうだねー・・・・。」
自分たちに出来ることを。
為さねばならないことを。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
はっきり言って。
「お手上げなんですけどー?」
苦笑いしながらファイがツッコむのも無理はない。
どうにも理解が出来ないのだ。
「『13歳から30歳の人間だけ』を食べる魔物が居るなんて。」
「その細かい年齢設定は一体どうなってんだ?」
「その間の年だけ『美味しい』何かがあるとか?」
「・・・・『若さ』のエキス、とか・・・?」
「それならもっと若い子でもいいんじゃないのー?」
内容がとんでもないということは棚の上に上げて。
どこか他人事めいた会話は、それこそ遠慮なく続けられた。
「じゃあオレ達、元のままじゃあ、あっという間に食べられちゃったって事だよねー?」
「・・・・・・・・・・・。」
では、自分たちは。
「・・・・・助けられた・・・・・?」
「そうなるかなー?」
「・・・・・・『誰』が・・・・?」
「それは探してみないとわかんないでしょー。」
そう、探すしかない。
「手分けして探すようにしましょう。」
小狼は地図を広げた。
モコナは『羽』のチカラを感じた、と言った。
『人を子供に変える』なんていうのは、おそらく『羽』のチカラによるものだ。
『助けられた』のかどうかは確定ではないが。
それを『為した者』を探し出せば、手がかりはつかめる。
真実に、『羽』に、限りなく近づくことが出来るだろう。
「・・・・どう組みましょう・・・・?」
自分たちの『能力』は、『後退』している。
今までと同じようにはいくまい。
「うーん、此処は『分かれない』方がいいんじゃないかなー?」
ファイの意見に、黒鋼も腕組みをしながら同調する。
「・・・そうだな・・・・・・『あいつ』もそう言っていたし・・・・。」
それもそうだ、と頷く小狼をみて、サクラも納得した。
ファイはそっと耳元で囁く。
「『名前』で呼んであげないのー?」
『子供』なんだから、いいじゃない?と。
「それに本人聞いてないしー。」
「・・・・・うるせぇ・・・・・。」
うつむきながら、声に怒気を滲ませながら。
しかしその顔は、目元耳元まで色が変わっていた。
それと見て取って、ファイは満足げな笑みを浮かべる。
(小っちゃくても、眉間に皺寄るんだー。)
それが『発見』であるかどうかは別として。
まずはその『魔物』が棲むという噂の山に行ってみる事になった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
『人』を食らう『魔物』が棲む山。
――――――――――のはず、なのだが。
「おや、見かけぬ子らだわえ。他所から来たのかえ?」
かけられた『声』は、とても柔らかで。
「此処は何もないが、果物はたくさん木に生っておるし、遊び場所には事欠かぬ。気をつけてお遊び。」
「あ・・・・はい・・・・・。」
呆然として。
それだけの言葉を返すのがやっとだった。
「あの人・・・・どこかで見たような気がするねー?」
「高麗国の秘妖さんに似てますね。」
「魂を同じくする別人ってヤツか?」
「たぶんー・・・・・。」
ならば、根幹として『悪い』存在ではないことを祈りたい。
そうぼんやり考えていると、まさに鉄槌を振り下ろすが如く、言葉は紡がれて『しまった』。
「どうして13歳から30歳の人間を食べちゃうんですか?」
また思いっきりストレートに尋ねたものだ。
もはや『天然』を通り越しているような気がする。
さすがのファイですら、表情を繕うことを忘れて頭を抱え込んだ。
固まりきった皆の目の前で。
『女』は、ほんの少し目を瞠り、ふ、と笑った。
「一番小僧らしい年頃なのだわぇ。」
そう言われて。
どう言葉を返したら良いか、思考が止まったとしても無理はないだろう。
「・・・・言う事聞かないから、食べちゃうんですか?」
サクラの対応が一番まともなのは、それはそれで驚くべきことかもしれない。
「お前には、子供は居ねぇのか?」
「居るわいな。そりゃもう、可愛い盛りの、のぅ。」
「じゃあその子が13歳になったら、やっぱり食べちゃうんですか?」
「あの子はそんな小僧らしい子にはならぬわいな。」
「その自信、何処から来るんですー?」
「この、妾の子じゃからのぅ。」
全然理由になっていない、というツッコミを入れるべきかどうなのか。
さすがの皆も躊躇した。
そこへ、『やぁ、いらっしゃい。』という声と共に、男が1人、やってきた。
「子供が来るのは久しぶりだ。楽しんでいっておくれ。」
女よりは、穏やかそうだ。
しかし――――――――――この、気配、は。
「貴方も・・・・・・『魔物』?」
「まぁ、『人間』じゃないねぇ。」
己は人外の存在である、と簡単に認めて。
女にふと、問いかけた。
「ところで、私たちの可愛い坊やは何処に行ったんだい?」
とたんに女の顔色が変わった。
「坊やが?!居ないのかえ?!」
「見当たらないんだよ。里に下りたのかな?」
「それはない!川がまだ渡れないから、里には下りられない!!」
「じゃあ?」
男は皆に向き直り、こんな子を見かけなかったか?と年恰好を説明した。
「・・・会わなかった、ねー?」
「・・・てか、この山で『最初に』出会ったのはあんた達だ。」
「他に気配・・・無いようにも思いますが・・・・?」
『気配』が無い。
それは、その『子供の存在』が『山には居ない』ということを示す。
しかし――――――――――事実として、『下りられない』。
「・・・まさか、川に・・・・・。」
「!!!」
サクラの呟きを耳に留め、女は脱兎の如く駆け去った。
「オレたちも行ってみよう!!」
何か手助けが出来るかもしれない。
川はこっちだ、と男に案内されて。
行けば、女が髪を振り乱し、必死の形相で探しているのが目に入った。
「坊や!!坊や!!私の可愛い坊やは何処?!」
岩をめくり、水を掻き分け、川原を行ったり来たりする。
それは。
子を想う、母の姿。
人も、魔物も。
『母の心』は、なんら変わることは無い。
************************************************
「どう?結構高く積めたでしょ?」
「なかなか上手だ。」
「でももう1個乗せたら倒れちゃうね。もう限界だなぁ。」
「次はもっと土台から考えるといい。」
「よし!もう1回!!」
アヤカシのように辺りに満ち満ちてきた霧の中。
『会話』が聞こえてきた。
はっとして見遣れば。
ぼう、とした空間が浮かび上がり、川原の石を積み上げる子供の姿が見えた。
そして、その傍らには――――――――――『時の魔女』。
「――――――――――坊や!!」
涙ながらに叫んだ女の声は、子供には届いていない。
霧の中、子供はまた石の塔を作り始めた。
「坊や!!坊や!!聞こえないの?!」
「聞こえないんだ。」
ファイの声は、氷のような冷徹さも併せ持って。
「特殊なシールドに覆われている。おそらくはリアンさんが仕掛けたものだね。」
「誰だい、それは?!」
「あの人。」
子供の傍に座る人を指差して。
「残念だけど、あの人の仕掛けを破ることなんて出来ないよ。・・・魔力のケタが違いすぎるからね。」
「何を・・・・何をしようとしてるの!!あの女は!!」
『母』の叫びは霧の中に消えていく。
「哀しい事だな、『子供を奪われる』ということは。」
男がポツリ、と言った。
「え?」
「お前、ずいぶんたくさんの子供を『奪って』きたな。・・・・子供の親から。」
「・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・。」
「どれほど言ってもお前は聞く耳を持たなかった。・・・そんな俺の前に、この『羽』が下りてきたんだ。」
男が懐から出したのは――――――――――サクラの『羽』。
シールドに包まれているのか、モコナが反応しない。
「俺の愛するお前が、同じように子を持つ親から子を『奪う』のが耐えられなかった・・・・。」
『羽』は、ネガイを叶える。
そんな声が聞こえたのだと言う。
「もしお前が、『同じ目に遭った』ら、解ってもらえるんじゃないかと思った。」
考えた末に、『誰かに子供をさらってもらおう』と思った。
いわゆる『狂言誘拐』とでもいうようなものだ。
それ自体がシャレにならないことは十分承知してはいたが、それでも愛する者の心を正したかった。
しかし、その手段が見つからない。
あくまでも『芝居』だから、子供に危害が加わるようなことがあってはならない。
だが。
残念ながら、この国の者たちは自分たちに対して悪意を持ちこそすれ、善意は持ってはいまい。
『子供を奪ってきた』、張本人なのだから。
「だから、『他所から来た』お前たちに頼もうと思った。」
そう考えたとき、『あの人』が現れた。
そして、『あの人』は。
自分が説明する前に、申し出たのだ。
お前の持つ、その『羽』がほしい。
その対価として、お前のネガイを叶えよう。
『もしお前の妻が、私を恨んだとしても、私は構わない。』とまで言い切った。
男は、賭けてみることにしたのだ――――――――――。
************************************************
「お前の心が、本当に正されない限り、あの子は私たちの手元に帰っては来ない。」
そういう『約束』なのだという。
「あの子は時が流れるのも忘れて、石の塔を積み続けるのだそうだ・・・・永遠、に。」
「・・・まるで『賽の河原』だな。」
「『賽の河原』?」
男も女も、そして皆も、一様に黒鋼を見た。
その、語る声が、その目の光が。
辛くて哀しそうなのは。
「死んだ子供がな、あの世に流れる『三途の川』の川原で石の塔を積むんだ。」
「『三途の川』・・・・。」
「『父母の供養の為』に積んだ塔を、地獄の鬼が来て片っ端から崩しちまう。でも、また子供は積み始める。」
「・・・・・・・それって、結局意味無いじゃない・・・・。」
積んでは崩され、また積んでは崩されて。
哀しみの連鎖は途切れる事無く永遠に繰り返されるのか。
「そういう意味の例えに使われるがな。・・・だが最終的には地蔵菩薩が来て子供は救われるんだそうだ。」
「良かった・・・・。」
心底ほっとしたように、サクラは呟いた。
救いの光があるならば。
たとえ親に死に別れ、先に黄泉路を辿ることになった哀しみも少しは癒されるのではないのだろうか。
「じゃあリアンが『お地蔵様』なの?」
モコナの指摘に、かなり考えて。
ぼそりと、『そうなるかな、似てねぇけど。』と呟いた。
「お地蔵様には、『お参り』しなくちゃいけないの!!」
だんだん話がずれてきたのは、意図的なのか。
「お茶とお団子を供えて手を合わせて拝むの!!」
「だから!!あいつは『地蔵』そのものじゃねぇだろうが!!」
「エー!!だって黒鋼、『リアンはお地蔵様だ』って言ったじゃないー!!」
「言ってねぇ!!」
「黒鋼、嘘つきー!!」
「嘘じゃねぇ!!」
また始まったドタバタに、呆れ顔を向けて。
でも黒鋼に満ちていた重い空気が消えたのも感じ取って。
安心したように、ため息1つ、大きくつく。
そして、小狼は女に言った。
「もう、子供を親から奪うなんて事はやめてください。お願いします。」
そう言って、頭を下げる。
小狼の美点ともいうべき、真摯な態度。
女は小狼を、そして霧の中の我が子を交互に見た。
自分が改心しない限り。
そしてそれがうわべだけではなく、心から、そして永久的なものでない限り。
――――――――――この子は、自分の所には帰ってこない。
「・・・・わかった。もう二度と、しない。」
サクラの『羽』が、摩訶不思議な光を放った。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「『二手に分かれる』って、こういうことだったんですか・・・?」
少し困ったような、サクラの声。
「そうでもせねば、『解ってもらえぬ』であろうからな、あの者には。」
女と子供を引き離す為に、自分たちを囮に使った。
自分たちが女と話している間に、子供を手の内に納める。
囮に使われたことが悔しいのではない。
何もかもを背負い込んだこの人が『傷つき』、自分たちは『何も影響を受けなかった』ことが悔しいのだ。
理由はどうあれ、子を『奪った』事は『罪』。
シールドの開放は、『罪の対価』をも要求していた。
隠していた傷を目ざとく見つけて、無理やり手当てをしながら、サクラは、『でもやっぱり無茶です。』と呟いた。
「結果よければ全て良し、というではないか。」
「だからって、てめぇはいつも自分で全部背負い込むじゃねぇか。」
「そうだよー、オレ達だって、働けるんだからさー。」
「貴女は。」
ス、と小狼はその手を取った。
「俺たちにとって、『大切な存在』なんです。・・・無理しないで下さい。」
一途な少年の目に。
ふわり、と笑った、時の渡り人の、その表情に。
何かがどくり、と跳ねたような気がしたのは錯覚だっただろうか。
手を取り合う2人を見下ろして。
見上げるのは嫌だ、と思ったのは。
『見上げる』のは嫌だ。
できれば『見下ろして』、無理ならばせめて『同じ高さ』で見ていたい。
『護られて』ばかりは嫌だ。
俺は。
『護りたい』――――――――――。
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