<68186HIT記念 キリ番リクエスト小説>

  「 白 鷺 城 の 午 後 」




葉ずれの音が耳に心地よい。
さやさや、さやさや。
(この音を、この国で初めて聞いた、のは。)
そう、去年のこと。


全てを終えて。
魂の呪縛からも解き放たれて。
自分を護る、と言ってくれた人の元にやってきた。
『護られる』ことに面映さも感じるが。
この国、日本国の時間はとても穏やかだ。
刺客や魔物の来襲も、時として知らぬ事であるように。
それだけ忍軍や兵達が身を挺し、命を賭して戦ってくれていればこそ。
他人の犠牲の上に、成り立つ平和。
それを良しとするほど落ちぶれてもいないつもりなのだが、周りはそうは思わないらしい。
自分の周りに流れてくる情報も現実も。
全てが選択されているようだ。


「そ。過保護だって思うでしょ?」


時として、かえって不満にさえなるのだと。
ファイの言葉に、以前は自分が宥めたようにも思うが。
ただ苦笑するしかないのは、彼とても、同じこと。


己の身は、己自身の力で護る。
それだけの力を持つと自負している。
そして他の者たちをも護りたい。
その力も、己は持ち合わせている。


だが。


『キケン』は己の傍をすり抜けて。
遙か彼方で弾かれる。
他の者の力によって。


自分の力量が認められていないのではない。
それでもなお、『働く』場が与えられないのは。
むしろ苦痛ですらある。
たとえそれが、皆の『思いやり』によるものだとしても。


大きな力にいだかれて、包まれて。
そのことが『嫌』なのではないのだが――――――――――。


さやさや、さやさや。
葉ずれの音が、心の漣を後押しする。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



「お茶にいたしますわよ。」
「あ、はいー。」


あるじの姫の声に、呼応する氷雪の魔術師ウィザードの声。
ふと、現実に引き戻される。
無論、彼とても。
本当は『此処』に居なければ『ならない』理由など無い。
ただ、共に旅した『仲間』の国だから。
時間の流れを違える彼が、ほんのひと時の安らぎを求めた場所だというだけだ。
『仲間』が――――――――――黒鋼が、そして私が。
土に返ったとき、此処を離れると既に公言している。
はやそれを惜しむ声も聞かれたが、それはまだまだ先のことであろうとて、今一皆に真実味を持って捉えられてはいない。
私にとっては――――――――――『近い』未来のことなのだが。


「ほら!『おかーさん』も早く!!」
「先に訂正。」
「はーい、『お姉さま』、いえ『若奥様』もお早く!!」


私の腕を引っ張るその顔には、きっと確信犯の笑みを浮かべている事だろう。
姫のくすくす笑う声も聞こえる。
「そうやってぼんやりしているとさー、また余計なことを言われるよ!!」
「余計なこと?」
「ん〜〜〜?まぁ世の中にはゴシップ好きな人種が多いってこと!!」
「?・・・それはそうだとは思うが・・・?」
「ファイ、『ごしっぷ』とは何ですの?」
「あ、いわゆる『噂』です。う・わ・さ。」
ふっと長い黒髪が脳裡を流れる。


「『ゴシップ』。名詞。噂話。無駄話のこと。・・・いつも侑子が使う辞書ではないが、『角川国語辞典』より。」


「・・・って、次元の魔女さん、いつも言うんだー?」
ファイが苦笑しているのがわかる。
「妙に細かい所があるからな。」
「こだわり、とでもいう物でしょうかしらね?」
そう言いながら、『やけどせぬように気をお付けなさい』と気遣ってくださる。
本当は音を立てるのはご法度だが、そうしないと目標が判らないので、コチ、と当ててから湯飲みに注ぐ。
「緑茶って不思議だねえ〜〜〜。」
感心したようにファイが言う。
「紅茶だったら、最後の1滴は『ベストドロップ』って言って、一番美味しい、って言われてるけど。」
「そうだったな。」
「緑茶はあまり絞らないもんねえ〜〜。」
「『最後の1滴』は、それこそ『苦味』が勝ってしまうからでしょうね。」
知世姫のお言葉には、説得力がある。
玉露を口に含み、『甘いのって不思議ー!!』と声を上げている。
こく、と飲む。
ああ――――――――――これは。
『彼』が教えてくれたから――――――――――。


「ねーねー、クロウ=リードって、どんな人だったの?」


とても『面白い』という気配を感じさせる、声。
私もぜひ聞きたいですわ、と知世姫が便乗する声が聞こえる。
「あ・・・でも、大したことは・・・・・・。」
「教えてくれなきゃ、やだー。黒様に訴えに行くー。」
「あらファイ、それでは逆効果ですわ。」
「え?・・・あ、ホントだ。」
「?」
何故そんな流れになるのだろう。
ファイはファイで、『確かにこれはいけない。』などと言って1人納得している。
「ファイ。」
「なーにー?」
「何故『逆効果』なのだ?」


ぶ。


ファイがお茶を吹きかけて、ごほごほとむせかえっている。
「大丈夫か?」
「あ、うんー。」
ごほごほ。
胸をドンドン叩きながら、ファイは尋ね返してくる。
「解んない?」
「解らない。」
「・・・あぅ・・・・・・。」
突っ伏したらしい。
知世姫はくすくす笑っている。
「本当に『天然』ですわねー♪」
「・・・はい?」
「あらあら・・・・独り言ですわ。ひ・と・り・ご・と。」
「・・・・・・・。」
平然とお茶を飲んでおられるらしい。
少し、不思議な気が、した。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



「知世姫ー、この天然夫婦、どうしましょー?」
「あら、天然なのはとりあえず1人ではないのですか?」
「いやどうも、最近黒様も感化されてきてるんじゃないかと・・・・。」
「ファイもそう思います?」
「力一杯思いますー。」


会話の間にも、手を休めることはない。
お茶の後、クロウの思い出話をしていたら、何かの弾みで『万華鏡』の話になった。
「『錦眼鏡』ですわね?」
知世姫の言葉に、ファイの方が首をかしげた。
「『錦眼鏡』?」
「万華鏡の別名だ。『カレイドスコープ』と言えば解るか?」
「あぁ!あれ!!」
ぽん!と手を打った。
世界が変われば呼び名も変わる。
作ってみようか、ということになり。
リアンがガラス板を魔法で作っている間に、ファイと知世姫とで色紙を小さく切っていた。


「五角柱とかも面白いけど、やっぱり三角柱にする?」
「基本に忠実でよいのではないか?」
「そうだねー。」


『こっち』の会話はずいぶんとシンプルだが。
『そっち』の会話は。


「知世姫、本当に怪談がお好きなんですねー?黒様から聞いてはいましたけどー。」
「えぇ、大好きですわ。先だっての怪談大会にはファイも参加してくれましたわね。」
「いや〜〜〜お恥ずかしいお話で〜〜〜。」
「皆にはよく『ウケて』いたようでしたわよ?」
「そうですかー?」
「えぇ、腰を抜かした者もだいぶいたようですし。やはり氷の国仕込みは違いますわね。」
「よかったぁ〜〜。次回はもっと面白そうなのを披露させていただきます〜〜。」
「楽しみですわねぇ♪」
たまたま耳に挟んだ侍女が、悲鳴を飲みこんでそそくさと立ち去っていく。
噂はあっという間に広まるだろう――――――――――。


次の怪談大会は、ネコ様の気合いの入った怪談が語られるぞ、と。


受けを狙って猫の話でもしてみようか、などと考えたりもする。
日本国にも『化け猫』というのがいるらしいから、話は通じるだろう。
「ねぇ、リアンさんも、次の怪談大会には何か話をしてよー?」
前回は失神者が続出した為にリアンが話す前にお開きになってしまったのだ。
もちろんその原因はファイの話だったのだが。
「・・・やめた方がいいと思うが・・・・。」
「なんでー?どうしてー?」
まるで子供のように駄々をこねる。
知世姫が袖に笑いを零した。
「やってもいいのだがな。」
「ん?」
「洒落に、ならぬぞ。」
「どう、ならないのー?」


「『招く』ことになるが?」


一瞬。
顔の引きつったファイと。
満面の笑顔で手を叩いた知世姫と。
見事なまでに好対照な反応を見せた。
「ぜひトリを飾ってもらいましょう!!」
「決定ですかーっ?!」
さすがのファイも、少し情けない声を上げた。


『招かれるモノ』が『何』なのか。


考えただけでも、結構、くる。
「・・・・ささ、早く作りましょう!!」
すっかりご機嫌の知世姫に苦笑しつつ。
万華鏡作りに戻った。
竹筒を使って胴にし、ビニールテープなんか無いからにかわを使う。
あれやこれやと試行錯誤しつつ。
5本の万華鏡は出来上がった。


「まあ・・・・なんて美しい!!」


知世姫は感嘆の声を上げた。
今まで見た事が無かったらしい。
知世姫と、天照に1本ずつ。
ファイも1本貰った。
「これ、サクラちゃんに送ってあげて?」
可愛らしい柄の千代紙を貼った1本は時空を越えてサクラ姫の元に届けられた。


残り1本は。


「きっと興味津々で覗き込むよ。」
と。
ファイが太鼓判を押すので、黒鋼に渡すことになった。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



ファイの予言はしっかりと当たっていて。
「・・・ふん?」
などと如何にも興味無さげでありながら、その実しっかりと覗き込んだまま、なかなか目を離そうとはしなかった。
どんな風に見えるのか、言葉で説明するのがもどかしい。
ボキャブラリーが少ないのもあるが。
どうやったら。
『伝えること』が出来るのか――――――――――。


「記憶の中の万華鏡が『そのまま』あると思っているから。」


魔法の修行の傍ら、手慰みにと作った万華鏡。
息抜きのつもりがずいぶんと熱中してしまったのを思い出す。
まだ『少年』であった――――――――――『彼』は。


「俺にも・・・・・聞かせろ。」


背後から回された腕は、もどかしそうな色を見せる。
「え?」
「俺だけ『知らない』のは、業腹だからな。」
2人に語った分だけでいいから、と。
カタン。
万華鏡がころりと転がって、硬い音を立てた。




翌日の朝。
剛真はため息混じりに言った。


「おい、頼むからこの季節に雪が降るようなことはしてくれるな。な?」
「・・・・解ってらぁ・・・・・いててて・・・・・・・・・・・・・・。」
「お前、どんな飲み方したんだ?こんなに悪酔いするなんて・・・・。」


目の前には。
おそらく今までに見た者は皆無であろうほどに二日酔いにぐったりしている黒鋼の姿があった。



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「68186HIT」をゲットしてくださった些瑞 香乃意様に捧げるショートショートです。

リクは『白鷺城にて、五月、万華鏡、ファイ・リアン・知世姫・魔術師の会話、ほのぼの』
というご指定。
いや、むしろわかりやすい。(^^ゞ 
何と言っても魔術師の会話っつーのがツボでございました。
一歩間違えれば果てしなく黒い会話に(笑)
いや十分黒いかも(苦笑)
お嬢が素でトボケている所がご愛嬌。
最後にほのぼのしていない人が1人いますが。(爆)
黒様、ヤケ酒はいかんよ、うん。(他人事)

些瑞 香乃意様、ありがとうございました!(あのー・・・こんなもので・・・よろしかったでしょうか〜〜・・・?)

           作者・シュウ   2007.08.11UP

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