<68886HIT記念 キリ番リクエスト小説>

 「 Woodwind and brass 」




音楽が盛んな国には行った事がある。
この国も、また。
やはり音楽が盛んなようで。
通りにはストリートミュージシャンが実に一定の間隔で並んで演奏している。
「お互いに邪魔にならない距離なんだね。」
ファイが感心したように言う。
「・・・・あ!」
サクラが声を上げた。
「どうした?」
黒い疾風かぜの問いかけに。
サクラは黙って指差した。


「・・・あ・・・あれ?!」
「あの人たち・・・・・?!」
「居たな、『異世界の別人』が。」


「どうぞ!私たちの演奏を聴いていってください!」


にっこりと少女が言う。
後ろに控えていた身体の大きな男が、人懐っこそうな笑みを浮かべて楽器を手に取った。


「・・・譲刃ちゃんと、草薙さん・・・・。」


それは、かつて。
『桜都国』で出会った『鬼児狩り』の2人だった。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


軽快でノリのいい演奏。
「ジャズ系だな。」
サックスの音色も申し分ない。
曲が終わって、皆は惜しみない拍手を送った。
2人は照れくさそうに顔を見合わせて笑う。
「・・・あ・・・困った・・・・・。」
小狼の呟きに、皆は何事かと振り返る。
「どうしたの?」
ファイの問いに、小狼は困ったようなあいまいな笑みを浮かべた。
「この国の『お金』がないんです・・・・・ごめんなさい・・・・。」
2人の演奏に対する『対価』を出せないのだと。
きょとん、として見ていた2人は、やがて腹を抱えて笑い出した。
「あ・・・はっは〜〜〜!キミってマジメなのね!!」
「今まで『黙って』行っちゃう人は多かったけど、謝った人ってキミが初めてだよ!!」
それで気をよくしたのだろう。
「じゃあ私達の家で、『お客さん』になってよ!お茶会するから!!」
「いつも2人でじゃあつまんないからな。」
「あれぇ?私だけじゃ不満なのォ?!」
「あ、いや違うんだって・・・!」
なんとも微笑ましいまでの2人に、皆の顔にも笑顔が浮かび。
「じゃあ、オレたちが何かお菓子でも作りましょう〜〜!」
「えぇ?!お菓子、作ってくれるの?!」
「本当に?!」
2人して身を乗り出したところを見ると、ともに甘党らしい。
それと見てファイはバッチリ笑顔になる。
そして、バッチリ不機嫌になったのが――――――――――。
「ま、付き合ってやるのだな。」
宥められて、ブスッとしているのがどうにも可笑しくて。
小狼は笑いを押し殺すのに恐ろしいまでの力を使わなければならなかった。

*********************************************

2人の家―――――――正確には譲刃のアパートだったが―――――――皆はお茶を飲んでいた。
途中で材料を買い揃え、ファイが即席で作ったクッキーは殊の外2人に喜ばれた。
留守番をしていた大きな犬―――――――『犬鬼』という名だと譲刃は説明した―――――――も気に入ったようだ。
「これ、美味しい!」
「へぇ!凄いなあ!!」
感嘆の声で、対価にすることは出来ただろうか。
小狼は壁に立てかけてあるさまざまな楽器に目を奪われていた。


「興味あり、かい?」


草薙に言われて、小狼は少し顔を赤らめた。
「あ・・・はい・・少し・・・・。」
「俺たちは、ベースとなる楽団なんかには参加していないからな。」
「だから持ち運びに便利な楽器であることが必要なの。」
「それにどうしても値段的なことも関係するしな。」
ぺろり、と舌を出す。
「あとは個人の好みかな。・・・私たちはこういう系統が好きなの。」
示されたのは。
「金管系も木管系も両方なのだな。」
「それぞれの中で好きな楽器を揃えてたらこうなっちゃったの。」
「これは形は同じですね?大きさは違うけど。」
「サックスだ。これが『アルト』、こっちは『テナー』、そしてこれが『バリトン』。」
「これはなんですか?」
「これはフルートよ。」
こうやって演奏する、と手取り足取り教えてもらう3人から離れて。
心のざわめきを押さえられない黒い疾風かぜ
「教えてもらえばよいものを。」
「・・・うるせぇ。」
「では私が教えようか?」
とたんに目を見開いて凝視する紅い瞳に映るのは、微かな笑みを浮かべた黝簾石の瞳。
「・・いや・・・いい・・・・。」
「黒ぽん、照れてる――――――――――♪」
「・・・・・・・・・・・・。」
ツッコミの代わりにガシィッ!と掴み、ソファに押し付ける。
ドタバタ騒ぐことを遠慮したのか。
「ふほはへー、ふふひいー!!」
「ふん。」
解放されたモコナは『苦しかったんだからー!!』と叫びながらボカスカッ!とパンチを繰り出した。


ピンポ〜〜〜ン・・・・・・・・。


「はーい。」
譲刃が出る。
ドアを開けた、そこに立っていたのは――――――――――。
「?!龍王?!」
「え?・・・誰だ?お前?何で俺の名前知ってる??」
きょとんとした顔の少年――――――――――龍王に、小狼は顔を伏せて、いや、別に、と言葉を濁した。


異世界で『魂を同じくする別人』に会ったなんて、そんな事を言っても信じてもらえるはずもない。


不審そうな目を少し向け、すぐに草薙たちに向き直った。
「なあ!これ、見たか?!」
龍王が突き出したのは、1枚のビラ。
「ああ、オーディションだろう?」
「・・・・なんだ、知ってたのか。」
「まあな。」
あからさまにがっくりときた龍王に、ファイがお茶を勧めた。
「あ、ありがとう。」
龍王はお茶もお菓子も美味しい、と屈託のない笑顔で賞賛した。
つられてサクラもにっこりとする。
「なあ草薙、何で声かけてくれなかったんだよ?」
「だって、『出られない』んだからしょうがないじゃないか。」
「なにが『出られない』のー?」
頭の上にぽすっと乗ってきたモコナに、草薙が解説した。
「さっき、『ベースになる楽団』って言ってただろう?」
「うん。」
「この国にはいくつか楽団があって、そこに所属するのはとっても狭き門なんだ。」
「テストが難しいの?」
「それもあるし、合格したからって練習サボったりしたら即クビだ。」
ちょん、と首を切る真似をする。
「まあその代わり生活はかなりの面で優遇される。だからそこを目指す者は多いんだ。」
「私たちみたいなストリートミュージシャンの大半は、『きっといつかは』と夢を見てるの。」
もちろんそういうのが嫌いな人もいるけど、とも付け加えた。
「だって自由じゃなくなるからな。」
そう答えた草薙は、複雑な表情をしていた。


生活の安定などを考えれば、夢は捨てたくない。
しかし『夢』が叶ったら、『心』を忘れてしまいそうな気がする。


「俺は、それは嫌なんだ。」
「難しい問題だな。」
珍しく黒鋼が応じた。
彼とても、主に仕える身。
鼻つまみ者であったであろうが、彼なりに束縛された中にいたはずだ。
「それにほら、オーディションの条件が合わないじゃない。」
「え?」
譲刃が指摘して驚くということは、龍王は気づいていなかったのだろう。
草薙が苦笑する。


「木管もしくは金管による『8重奏』以上での応募に限る、だろ?」


俺たちだけでは3重奏トリオまでだからな。
苦笑しながらそう言って、ぽい、とクッキーを口に放り込んだ。


本当は、オーディションに出たい。
だが、メンバーが揃わない。


「オーディションに出た者は、皆その楽団とやらに参加しなければならないのか?」
唐突な問いに、草薙は目を丸くし、次いで考え込んだ。
「断る奴の話は聞いたこと・・・あ、あったな。」
合格したものの、親が病死して家業を継がなければならなくなり、辞退した者がいたという。
「では、必ず、というわけではないのだな?」
「?・・あ、あぁ。」
その意図が、つかめない。


「8人、か。」


「あ!!」
サクラとモコナは同時に声を上げた。
モコナ以外で――――――――――此処に、8人。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「本当に?本当にいいの?」


楽器相手に四苦八苦するサクラに、譲刃がそっと問いかけた。
「え?」
「だって・・・・・通りすがりのあなた達に・・・・迷惑なんじゃ・・・・。」
「そんな事。」
サクラはにっこりと笑った。
「信じられないかもしれないけれど、私たち、旅の途中で貴女達そっくりの人たちに出会ったの。」
「うん、その話は聞いたわ。」
「貴女そっくりの、名前も『譲刃』っていったその人は、私の最初のお友達になってくれた人なの。」
「『友達』・・・・。」
「私、何もできない子だったのに、譲刃ちゃんのおかげでずいぶん助けられた。私にとっては大恩人。」
「そうなんだ・・・・。」
「『何かをしてもらった』ら、誰かに『何かをしてあげる』ことでその人へのお礼の気持ちが表せるって思ってる。」
「・・・・・・。」
「嬉しいこと、楽しいこと。誰かに伝えていけたら、きっと皆幸せになれるよね?」


ぽろり。


「あ・・・あれ・・・?何で涙が出てくるんだろ・・・・?止まんないよ・・・・?」
何度も何度も目をこするが、そのそばから涙はあふれ出てくる。
「信じ続ければ、いつか必ず『夢』は叶うの。・・・・絶対、大丈夫。」
「絶対・・・・・。」
「そう!無敵の呪文なの!!」
そういって、サクラはブン!と手にしたアルトサックスを振り回した。
「だから、私も、がんばる!!」
「わ・・・解ったから、振り回さないで〜〜〜!」
「え?・・・きゃ!!ご・・・ごめんなさい!!」
犬鬼は、2人の少女の漫才を見て、呆れたように嘆息した。

*********************************************

「侑子からきたよ〜〜〜。」
モコナが差し出したのは、楽譜。
「次元の魔女さんから?」
「以前侑子の所で聞いたことがあったからな。」
これでどうだろうか?と草薙に見せる。
楽譜を見て、初見しょけんで草薙は音をとった。
「・・・!これ!いいな!!」
「ではこれで決めようか。」
「済まないな、何から何まで・・・。」
ふ、と笑い、皆にも楽譜を配る。
「んー?タイトル読めないよぉー。」
「『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』。『小夜曲』とも言うな。」
「ふーん・・・。」
「元々は弦楽器などで演奏すべきものだが、これは管楽器用に編曲したものだ。」
「じゃあとにかく『練習』ですね!オーディションまであまり日がありませんし。」
小狼の言葉に皆も頷く。


曲は決まった。
後は個々のパートの練習をつみ、合わせればいい。
もちろん『言うは易し』で、ほぼ経験ゼロの比率が大きい穴埋めを何とかしなければならない。
楽器は、
譲刃がクラリネット、サクラがアルト・サックス。
小狼がバス・クラリネットで黒鋼がバリトン・サックス。
ファイがテナー・サックスで草薙がトロンボーン。
龍王がトランペットで、リアンがフルートと決まった。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「『為せば成る』ってな。」


これだけの短期間で、モノにした皆もたいしたものだと賞賛されていいだろう。
時折音が滑ったりしたのはご愛嬌だ、と互いに慰めあうのも素人ならではの光景かもしれない。
ドキドキしながら待った、結果発表は――――――――――。


「いい経験になったよ。」


残念ながら、落選。
講評が配布され、それを見れば、草薙たち3人はそこそこの評価を受けていた。
「次に3重奏トリオ以下でのオーディションがあったら、絶対に勝ってみせるよ。」
「おぅ!絶対リベンジだぜ!!」
握り拳を作る龍王は、やはり異世界の別人と同じように熱いハートの持ち主なのだ。
「何の役にも立てなくてごめんなさい。」
「なに言ってるの!!凄く楽しかったよ!!」
固く握手を交わすサクラと譲刃を皆は暖かく見つめて。
「では、行こうか。」
次元移動の風が歌っているように思えたのは気のせいだろうか。

*********************************************

「あの、1つ聞いていいですか?」


移動した先で、小狼がリアンに尋ねた。
「何か。」
「さっきの国・・・『羽』は無かったんですか?」
「あったよ。」
「え・・・えぇ――――――――――っ?!」


しかし、『羽』を探しになど、行かなかったではないか。


「ど・・・どうするんですか?!」
もう移動してきてしまったのに。
それには答えず。
「ソエル。」
「はーい、サクラ!プレゼント!」
モコナの口からふわりと出てきたのは――――――――――。


「――――――――――姫の『羽』!!」


ふわふわと。
やがてサクラにすう、と吸い込まれ。
カクン、と力の抜けた身体をリアンが支えた。
「何時・・何処で・・・・?」
「モコナ108の秘密技の1つ!!『取替えっこ』なの!!」
「――――――――――え?!」


オーディションの、審査員が使う『羽ペン』の1つにまぎれていたのだと。
審査員の僅かな隙を狙ってすり替えたのだという。
それは犯罪では、という呟きはファイの口の中でもごもごと収められた。
「終わり良ければ何とやら、とな。」
さてまずは侑子に送る酒の調達だな、と。
それは早くやらなくては、と町に向かう皆の足は自然と速くなったのだった。



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「68886HIT」をゲットしてくださった、徒花様に捧げるショートショートです。

リク内容は、『木管or金管8重奏』。
割と好んで聞くのはフルオーケストラが多いので、木管や金管の曲を探し回り。(笑)
ブラスバンドなんかの曲が多いようですねー。
そんな時見つけたのが、オーケストラの編曲バージョン。
モノによってはこっちの方が大元だったりしますが(笑)
いくつかあった中から悩みまくって『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』で決めさせていただきました。
オケ版でも好きな曲です。
編成は『Flu/Cla/Bass Cla/A.Sax/T.Sax/B.Sax/Trp/Trb』でした。
(フルート、クラリネット、バス・クラリネット、アルトサックス、テナーサックス、バリトン・サックス、トランペット、トロンボーン)
そう、つまり混合です。
実は私、金管『だけ』というのが少々苦手。
金属質な音に弱い、とでも言いましょうか。
かといって木管だけでは知った曲がなく(爆)
混合8重奏として探し出してきたのがこれです。
でもサックスの率が高いので殆ど金管かも(笑) ←サックスは『金属製』の『木管』楽器


徒花様、ありがとうございました!(・・・でも返品受付中です・・・・。)

           作者・シュウ   2007.08.14UP

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