川面を渡る風は、生ぬるい。
夏の日差しに熱せられた空気は、日が落ちたとて、そうそう冷めてくれるものでもない。
それでも気化熱は僅かながらも気温を下げるのだろうか。
川べりには涼を求める人々が多く集っていた。
その手に、灯りを掲げて。
老若男女、誰しもそれを持っている。
そして川岸からそっと浮かべて、流れに押しやるのだ。
精霊流し。
――――――――――魂を送る祭。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
皆が皆、灯りを持っているのに、『彼』1人、違っていた。
その手には何も持たず。
1人座り込み、人々を眺めている。
その口元に、長い煙管を咥えている。
ふう、と煙を吐いた。
「だれぞ、尋ね人か?」
問いかけられるとは思っていなかったのだろう。
驚いた表情で見遣る『彼』は、手にした煙管を落としかけて少し慌てたように持ち直した。
「今・・何と?」
「尋ね人がおありか。」
まじまじと見る。
『自分』を見とめた人を。
「・・・・?」
アヤカシの気配は無い。
人間であろう事は間違いあるまい。
『自分』を見る、ということはそれなりのチカラを持っているはずなのだが――――――――――。
何も。
そう、何も感じられない。
何の、チカラも。
「もしお差し支えなくば・・・お名前を聞かせていただきたい。私は、百目鬼遙と申します。」
「私の名は、リアン。・・・無論心に留めておく必要もない。」
「・・・・・・・・・?」
その言葉に首を傾げる。
しかし、それ以上の言葉はなく。
ただ静かに人の波を、そして川面に立つ漣を見つめるのみだった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「探し人は見つかったか。」
「いえ・・・もとより『此処で会えたら』とだけ思っていたもので。」
「相手は、『見えぬ』のか。」
「・・・・はい。」
コン、と。
煙管を叩き、火種を取り出す。
ぼう、とした青い火を放つ火種に、微かに目を伏せた。
「こなたは、『流れて』行かぬのか。」
目を閉じて。
静かに頷く。
「私には、まだやらねばならぬことがあります。・・・・夢の、中で。」
「護るか、『護りたき者たち』を。」
「はい。」
「そうか。」
見上げた空に、流れ星がつい、と流れる。
「信じ続ければ、願い続ければ、いつかきっとネガイは叶う。」
こくり、と頷く。
「そうですね。それを信じましょう。・・・未来、を。」
「そうだな。」
立ち上がり、静かに歩み始める。
その足が、止まった。
「・・・・・・・・・・。」
視線の先には、1人の少年。
静かに灯篭を川面に浮かべている。
少しずつ流れ始めたその灯りに向かって、小さな手を合わせて静かに祈っていた。
「願い続ければ、な。」
「はい。」
これでしばらくは安心しておれます、と。
天河を見上げるその顔は、どこまでも優しげな風を纏っていた。
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