「人間はねー、『迷う』生物なのー♪」
「いつまでも『惑う』生き物なんだよねー♪」
「40歳になると『惑わない』らしいがな。」
「え?何で40歳なんですか?」
「さぁな。それぐらいになると、人間練れてくるんだろ。」
自分たちの会話が、『思考』の問題であることは完全にスルーして。
小狼が困ったような顔で言った。
「とりあえず・・・・・俺たち、『迷ってます』よね?・・・・・・・『道』、に。」
そう。
『道』、に。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
この国には、『地図』がない。
道は複雑に入り組んですぐに目標を見失う。
「この国の人を尊敬します・・・・。」
サクラが心底感心したように言う。
実際。
この国の人たちが、『道に迷った』と聞いた事がない。
「こりゃあ、情報よりも、まず『地図』だな。」
「そうですね。今自分がどこに居るのかが解らないようでは話になりません。」
黒鋼と小狼が頷きあう。
実際今日はかなり歩き回り。
挙句の果てにはこの国の人たちにこの宿に連れてきてもらったのだ。
サクラはぺたり、と床に座り込み。
ファイはソファでぐったりと寝そべっていた。
「役に立たねぇな。」
「仕方がないですね。たくさん歩きましたから。」
とりあえず元気な2人組は、『どのように地図を作成するか』の協議に入った。
「焦る必要は無ぇ。確実な物を先に作らないとな。」
「そうですね。ではこの方法はどうでしょう?」
遺跡探検などをするときによく使う手です、と。
黒鋼の方の手法も似たようなものだったので、それにしようと一致を見る。
まずは2人で始めることになった。
*******************************************
建物などに、確実に沿って動く。
今回は右手側を辿ると決めた。
分岐の所では、必ず何らかの形でマークを残す。
高麗国では碁石を置いておいたが、さすがに道に石などを置く事も出来ない。
かといって、建物にマークを書くことも憚られた。
困ったが。
『進行方向に向かってその場所の簡単な絵を描く』ということで話がまとまった。
「じゃあ、俺はここから行きます。」
「あぁ。俺はこっちから行く。」
宿屋の表と裏、それぞれから小狼と黒鋼はスタートした。
「まったく、どこの誰がこんな国を作りやがったんだ・・・・。」
そうぼやく事は、おそらく責められるものではないだろう。
見事なまでの、迷路。
日が傾くころ、戻ってきた2人は今日の成果をテーブルに広げる。
「・・・・・わぁ・・・・・。」
「へぇ・・・・意外だなあ・・・・・。」
「何がだ。」
「黒たんって、絵が上手なんだ・・・・・。」
もちろんそれはファイの今まで描いたような犬やネコのような絵ではない。
いわゆる、風景画。
線こそは簡単だが、その特徴はしっかりと捉えられている。
「あ、ここ、もしかしてこれと同じじゃないですか?」
小狼が描いた絵と、それは進行方向の違いゆえに構図そのものは違ってはいたが。
一部の建物がまったく同一だった。
「じゃあこことここはつながってるんだな。」
「ええ、この絵に合わせると・・・・・こうなりますね。」
宿を中心として、少しだけではあるが地図が出来た。
「明日はどこから始めましょう?」
「じゃあここからにするか。」
「わかりました。」
「・・・明日からは。」
ファイが手を上げた。丸1日休養したおかげでずいぶん元気になった。
「オレとサクラちゃんで組んで始めるよ。」
「じゃあここからお願いします。」
「オッケー。」
千里の道も1歩から。
急がば回れ。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
歩きながら。
ふと、疑問に思った。
(この国の人たちは何故迷わないんだろう?)
異常なほど複雑に張り巡らされた迷路なのに。
しかもここには、特殊な魔法力の磁場のようなものがあるらしい。
「移動魔法の魔法陣が出せないの・・・それに羽の気配もあるし・・・・。」
モコナがシュン、とその耳をしおれさせて言う。
羽があるなら見つけなければ。
しかし手に入れたとて、どうやって『外』に出ればいいのだろう?
ちょうど交差点に来て。
小狼はさらさらとスケッチを始めた。
「・・・・・・・・・・・・?」
何か『既視感』のようなものを覚えた。
(いや、ここは初めて来た所だ。)
進行方向に注意してぐるりと見渡したが、それに間違いはない。
では、何故?
「・・・黒鋼さんにも聞いてみよう・・・・。」
日も落ちてきたし、その先は行き止まりだったので、小狼は引き返すことにした。
*******************************************
「お前も感じたか。」
「!じゃあ黒鋼さんも?!」
「あぁ。」
食事を摂りながら小狼が尋ねた『既視感』に、黒鋼はあっさりと肯定の言葉を口にした。
「何故だか解りますか?」
「俺なりにひとつ推測はしているが。」
くい、と酒を飲む。
「あとで地図をつき合わせたらそれが見える気がする。」
「解りました。」
食事の後、3組分の地図をつき合わせる。
「ここで黒様に会ったよね?」
「あぁ。ここでこう・・・つながっている。」
「あ、この絵はこちらと同じですよ。」
「そうだな、じゃあ・・・・。」
宿を中心として、だいぶ地図が出来てきた。
「黒鋼さん、どうですか?」
じっと地図を見て考え込んでいる黒鋼に小狼は尋ねた。
「・・・・・なるほど、な。」
「何か解ったんですか?」
勢い込んで小狼が尋ねる。
黒鋼は黙って地図の1点を指差した。
「・・・これは・・・・?」
「・・・木・・・・?」
宿の近くに大きな木が1本ある。
それはとても高くて、どこに居てもその姿が見えるのだ。
「この木がどうかしたんですか?」
「『目印』になっている。」
「え?!」
「見てろ。」
ゆっくりと指が道を辿り始めた。
「・・・・・黒鋼さん・・・・?」
迷路の中を。
黒鋼の指は、支える事無くスムーズに辿っていく。
「道覚えたんだー?」
「違う。」
「え?・・・じゃあ・・・?」
「・・・この木、だ。」
この高い木が、どうしたというのだろうか。
「曲がり角にきたら、必ずこの木の見える方向に曲がると迷わない。」
「――――――――――あ!!」
確かにそうなっている。
試しに違う方に曲がるとあっさり行き止まりになった。
「じゃあこの国の人が迷わないのは、これを基本にしているからなんですね?」
「そうだな。」
実はこの事は、どれほど尋ねても教えてもらえなかった。
「いわゆる『国家的秘密』ってトコかなー?」
「国防上の問題だろう。」
「敵が侵入してきてもこれなら防ぐことが出来ますね。」
それは、この国が長きにわたって戦いを繰り返してきた歴史を物語っていた。
「あとは『羽』がどこにあるかだが。」
「それなら!!」
モコナがシュタ!と手を上げた。
「鳥さんたちが教えてくれたの!!」
「え?!」
「あの木のてっぺんに『羽』があるって!!」
「そういう事は早く言いやがれ!!」
「エー!だって聞いたのは今日なんだものー!!」
火花を散らさんとする2人(正確には1人と1匹)を、まあまあとなだめて。
「じゃあ木のてっぺんに上るのは・・・?」
「そりゃあここは本職の人が!!」
「!!・・解ったよ!!やりゃあいんだろう、やりゃあ!!」
黒い影は、今度こそ本当に爆発した。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「気をつけてくださいね、黒鋼さん。」
「何かあったら呼んで下さい。力になれないかもしれないけど・・・・。」
「黒り〜〜ん、ここで応援してるよ〜〜!」
「うるせぇ!!」
怒鳴り声1つ残して、黒鋼は枝の中に消えていく。
いくら忍者といえども、かなり苦労せねばなるまい。
「黒りんに冷たい飲み物を用意しておいてあげよう〜〜。」
「ファイ、やっさし〜〜!」
「ありがと〜〜モコナ〜〜♪」
漫才2人組(これまた正確には1人と1匹)はとりあえず無視して。
サクラと小狼は頭上をやきもきしながら見遣った。
(どうか、無事で・・・・・。)
「絶景かな、絶景かな――――――――――ってな・・・・。」
それは半ば感動して、半ば呆れて。
サクラの羽のところに行き着いた黒鋼は、地上を見下ろして呟いた。
「『要塞』だな、こりゃ。」
この迷路が軍事目的であることは間違いではなかった。
明らかに侵入者を殲滅あるいは捕えることを目的としている。
数多くの戦いの場数を踏んできた身には、それがはっきりとわかった。
「・・・・・せめてもの救いは。」
手にした羽を、見る。
「これが『地上に落ちなくて』、誰かに悪用されずに済んだ事だな。」
そうでなければ、この迷路要塞は、とんでもないものに成り果てていたかもしれない。
「とにかく外に出る道を見つけねぇと。」
『出口』――――――――――すなわちこの国唯一の関所から逆に道を辿る。
「・・・・よし。」
頭の中にその地図を、道順を叩き込んで。
枝々を飛び渡る栗鼠のような身軽さで、黒鋼は下へと降りていった。
|