<70207HIT記念 キリ番リクエスト小説>

    「 魔 法 陣 の 風 」





それは。
秋風と共にやってきた。


「魔物も多く引き連れております。その数は万に近いかと。」
「兵は両翼に各500、中央に1000!『偃月』の陣形を取っております。」
「中軍に魔物を操る術師が5人!」


次々と物見の報告が上がってくる。
忍軍は良い働きをしているようだ。
「さて、どう攻める?」
地図を前にしつつ、少々くつろいだ様子で天照は下問した。
受けたのは、金糸に灯明の光を弾く氷雪の魔術師ウィザード
「まず魔物は何とかしないと、うっとうしいですよねー。」
「人間とは違うからな。どうしても太刀打ちできぬ者も居る。」
「『偃月』の陣・・・・『逆V字型』ですねー・・・・。」
総大将気合い入ってるんだー、と少し茶化して。
「これだけ兵を連れてきてるんですから、相当な覚悟つきってことで解釈して良いですよねー?」
「問題あるまい。」
「じゃあー、いい加減な『お出迎え』をしたら、失礼ってモンですねー?」
その顔に、満面の笑みを浮かべて。
そこに、いささかも邪気を感じないのは。
――――――――――そう、それはまるで、子供のような。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


この日本国に来て。
(どれくらい経ったっけ?)
考え込んで数えなければならないほど、それは自分になじんだ時間となって。
こんなに心安らいだ時間を持てるとは、思いもしなかった。
(それもこれも、『あの旅』のおかげ。)
『あの旅』がなければ。
自分は『友』と呼べる存在を持つこともなく。
心安らぐ時間を過ごすこともなく。
闇の王国に君臨していただろう。
(この件に関してのみ、『おっさん』には感謝すべきだねー。)
もちろんそれを言葉にすれば。
あの黒い疾風かぜが黙ってはいないのだろうけれど。
(でも君だって、おかげで出会えたでしょ?・・・運命の人、と。)
そう、『あの人』と。
――――――――――今はもういない、『あの人』と。


日本国に来て30年近くの時が流れている。
諏倭の領主となった黒鋼は、既に孫もいる『おじいちゃん』だ。
(もちろんそれを言うと、とたんにキレるところは変わっていない。)
そして自分は、その魔力の高さのせいで外見上はまったく変わらないので。
時折出会うと、思いっきりため息をつかれる。
「お前は・・・・変わらねぇな・・・・。」
そう言うのが常だった。
鬢に白いものが混じり始めている彼は、そんな時、とても懐かしそうな顔をするのだ――――――――――。
「懐古趣味に浸るってことは、やっぱり『年食った』っていうヤツかなー?」
「俺より遙かに長く生きてるジジィにゃあ言われたかねぇなぁ。」
「・・・ひどー!!」
相も変わらずの漫才に、いつも鋼人君に(いやもう既に彼も子持ちなのだけれど)呆れられるのもいつもの事。
「父上もネコ様も、本当に変わりませんねえ・・・。」
と。


「ここは、いいねえ。」


淹れてもらったお茶をふうふう言いながら啜ると早速ツッコミが入る。
「相変わらず猫舌だな。」
「放っといてくださいー。」
あちち、と言いながら飲むお茶は優しい味がする。
そして、ここの『空気』。
――――――――――『適度な清浄が保たれた』空気。
「さすがは永続魔法だねぇ。ここの『気』は、ある意味尋常じゃないよ。」
それは、『あの人』が。
「ここに来てやった『初仕事』だからな。」
ぐい、と飲むのがお酒ではなくお茶なのは、オレに対する気遣いだ。
別にお酒を飲んじゃいけないわけじゃないけど、この後すぐにオレは戦いに行かなきゃならないから。
「まあ後方の備えは『諏倭の疾風かぜ』に万事お任せしますからー。」
「おぅ。『狼退治』はきっちりやる。そっちは『虎退治』を気合い入れてやれ。」
「了解ー。」
まったく面倒な話だ。
白鷺城と諏倭の、北と南から同時に侵攻してきた。
もちろん同盟を結んでのこと。
北から攻めてきた方は、黒様がいればOKだろう。
「『諏倭の疾風かぜ』を敵に回したらどうなるか、思い出してもらいましょー。」
「『氷雪の魔術師ウィザード』を敵に回したらどうなるか、もな。」
南から来た分は、白鷺城のオレ達が迎撃するのだ。
「負けないからねー。」
「当たり前だ。」
「ん、じゃあそろそろ行こうっかな。」
ひょい、と腰を上げて。
縁側からそのまま庭先に降りる。
「じゃ、あとはよろしく。」
「おぅ。しっかりやれ。」
「はぁいー。」
転送陣を展開して。
諏倭の地を後にする。
(・・・・・・・・・・あ。)
一瞬、頬を撫でた風は。
『あの人』の、優しい香りが、確かにした。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「てなわけで!ガッツリといきましょう〜〜!」
「おぉ!ネコ様も気合いが入っておられますな!!」
ガハハ、と侍大将さむらいだいしょうが笑う。
豪放磊落な侍大将さむらいだいしょうは、意外なことにオレと結構ウマが合う。
今回も、オレと共同戦線を張る兵たちを率いてきてくれている。
「向こうが『偃月』の陣でくるなら、ここはやっぱり『鶴翼』の陣でお出迎えってとこですね〜〜?」
「然り、然り。包囲して一気に殲滅、ですな!!」
「じゃあ魔物の方は、さくっと退治しますので〜〜。」
「『人間』の方は、我らにお任せあれ!」
ドン!とその分厚い胸板を叩いて、侍大将さむらいだいしょうはまたガハハ!と笑った。
このどこか『無邪気』ともいえる豪放さ。
変にひねくれたりしていない所が大いに好感の持てるところだ。
無論これは黒様にも通じる所なのかもしれない。
城中の公達などでは、こういう感覚はちょっと味わえない。
「じゃあ、陣形の展開が終了したら、連絡してください。『仕掛けます』から。」
侍大将さむらいだいしょうにそう言うと、合点して退がっていく。
「さぁ〜て、どうやって退治しちゃおうっかなー?」
相手の魔物の属性が解らない。
オレが炎熱系も氷雪系も遣えると既に知れているようで、どうやら色々混ぜてきているみたいだ。
「じゃあ、『無属性』でいくかなー?」
さてどんなのがいいだろうか、と考えながら、敵が見える位置まで移動してみた。


「あーら、いらっしゃいませー。」


思いっきり棒読みの言葉が出た。
傍にいた兵の1人がこらえきれずにぷっと吹き出す。
「えー?だってさー、ちょっと大げさすぎないー?」
照れ隠しのような風で、あっち、と敵陣を指差して見せる。


敵陣の中央に雲霞のごとくうごめくアヤカシたち。


「確かに数は『万に近い』って聞いてたけどー。」
ちょっと考えが甘かったか。
ポリ、と頬を掻いてみる。
「それだけ先方も気合いが入っているということなんでしょう。」
「うー。」
解ってますー、と。
もう一度見遣るその目の光が、既に違っている。


蒼き狼の如く捕食者の光に煌いて。


「・・・・決ーめたー。」
「は?何を、でありますか?」
訝しげに首を傾げる兵に、ファイはニコ、と笑ってみせた。
天上の佳人もかくや、というほどの『美しい』、そして『凄絶な』微笑みで。


「あの魔物たちを、きれいさっぱりやっつける方法♪」


―――――――――――――― * ―――――――――――――


炎熱系も氷雪系も混在している。
飛行系も地面系も。
いわゆる『属性』的には選り取りみどり。
如何に大きい魔法を遣っても、『効果半減』なんていうのは極力避けたい。
やはり。
(無属性しか無いねー・・・・。)
そうと決まれば。
地形などを事細かに観察し、その規模や力の程度を設定する。
侍大将さむらいだいしょうから、陣形の展開終了の連絡があった。


「んじゃあ〜〜始めますよ〜〜〜〜。」


とん、と魔法杖を地に付けた。
ス、と空間に文字を描く。
描き出された魔法文字は、そのまま魔法陣となって展開した。
一瞬にして吹き荒れるダイヤモンドダストは、縹渺とした雪原を感じさせて。
風にはためく衣の裾の、その様すら優美に思えるのは。


風に揺れ、光を弾く金糸の煌き。


それは、さながら『大天使』の降臨にも似て。
後方に控えていた味方が、思わずはっと膝をついてしまうほどの。
吹き荒ぶ風は、しかし味方には殆ど影響しない。
当然ファイがコントロールしている。
すい、と魔法杖を横に構え、己の正面に突き出した。
ダイヤモンドダストが咆哮を上げ、氷の刃に転じた、その瞬間!!


ドオォォン!!と地響きがして。
巨大な魔法陣が敵陣の先端、魔物たちの所に現れた。
「・・・・・・・?!」
侍大将さむらいだいしょうは目を凝らした。
何か、歪んで見えるような・・・・?


錯覚ではない。
確かにそこの『空間』が歪んでいる。
魔物たちを大きく包み込み、歪んだ空間は大きな球体を形成した。
しかしそれは外から見た姿であって、中からは解らない。
現に囲まれているはずの魔物たちに、さほどの動揺は見られない。
魔法杖を握る手に、ぐ、と力が込められた。
同時に魔法陣がファイの足元と、魔物たちの歪曲した空間の両方で眩しい光を放った。


「一切を無に帰せ!『ディメンション・ディストーション』!!」


一瞬。
『球体』はぐぅっと膨張し、次の瞬間ねじりこむように収縮し、一気に爆発した。
辺りを切り裂く衝撃音。
白鷺城側はファイがシールドを張っていたのでさほどの影響は受けてはいなかったが。
明らかに敵側では大きな被害が出ているようだった。
刀が折れ。
鎧が切り裂かれ。
ある者は耳を押さえ、ある者は喉を掻き毟った。
一瞬にして阿鼻叫喚の渦に変化する。
球体の内側にいたはずの魔物たちは影も形も無い。
ファイがさっと魔法杖を高く掲げた――――――――――。


「時ぞ来たれリ!突撃――――――――――ッ!!」


侍大将さむらいだいしょうの下知が響き渡り、白鷺城の兵は一斉に敵軍に襲い掛かった。
しかし、もはや『戦い』と呼べるレベルではなかった。
混乱に次ぐ混乱。
敵軍は完全に指揮系統を失い、あっという間に捕縛されたり仆されたりした。
「ネコ様!やりましたぞ!!お味方の大勝利にございます!!」
さすがに大技を遣ったとて、ぺたりと座り込んでいた白鷺城の守護神・氷雪の魔術師ウィザードは。
屈託の無い、子供のような笑顔をその花顔かんばせに浮かべたのだった。



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「70207HIT」をゲットしてくださったななこ様に捧げるショートショートです。

リクは『大きい魔法を遣うファイ』でした。
ここで困ったのが、『時の翼バージョン』のご指定。
ご存知の通り、ファイの遙か上をいく魔術師ウィザードがいます。
したがってファイが『大きい魔法』を遣う機会がなかなか無い。
なので、『完全に』その存在を消してもらいました。
リアンは日本国に来て20年ほどでその生涯を終えます。
従ってそのあと、つまり日本国に来て30年近く経った辺りが今回の舞台。
黒鋼おじいちゃん(大爆)の働きで、北から攻めてきたのも全てカタがついています。
まあ前門の虎も後門の狼も全て退治されちゃったというワケで。

空間を捻じ曲げられたとき、内側からはなかなか解らない、というのは、元ネタが・・・・。
『百億の昼と千億の夜』です・・・。(解る人居るのか)

ななこ様、ありがとうございました!(・・・・・返品可です・・・・あぅ・・・・。)

           作者・シュウ   2007.08.27UP

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