人は。
死期が近づくと。
「昔に帰るって言うね。」
様々な記憶を呼び起こすのだと。
「よく夢を見る・・・・あの旅のこと・・・・・。」
握り返した手に、籠められた力は、本当に微かで。
「置いていかないで・・・・・。」
願い続ければ。
強く、強く、願い続ければ。
いつかきっと、『ネガイ』は叶う。
――――――――――だが。
どれほど願っても。
どれほど一心に心を籠めても。
叶わぬ願いはあるのだ――――――――――。
去り行く魂を繋ぎとめる術は、無い。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
切迫した状況で、ただひたすらに。
『自分の為した事によって光が見える』と信じた。
それがどれほどの絶望に覆いつくされていようとも、ただ。
ひたすらに。
一途に。
信じて進んだ旅路。
自分たちがこの玖楼国で、多少なりとも心安らいだ日々を過ごせるのは、皆のおかげ。
黒鋼。
ファイ。
モコナ。
――――――――――『小狼』。
皆の『おかげ』で『今』を生きている。
『人の命』、『人の生き様』を背負うことの、その重さ。
2人で手を取り合って。
恥じぬように。
胸を張って『生きています。』と答えられるように。
――――――――――生きてきた。
そう、一生懸命に。
きっと彼らの誰も、自分たちの生き様に眉を顰めたりはするまい。
褒められはしないかもしれない。
今までしてきたことが――――――――――重過ぎるから。
でも、きっと。
彼らは許してくれるだろう――――――――――優しい、人たちだから。
その優しさに包まれて。
その優しさに守られて。
愛されてきた。
限りない『心』を与えられてきた。
自分たちは。
それに応える事が出来ただろうか?
―――――――――――――― * ―――――――――――――
砂漠に珍しく長い雨が降った。
いつもならスコールのようにさっと上がるか、せいぜい降り続いても1〜2日なのに。
もう、1週間。
もちろんざあざあと降るのではない。
しとしとと、軽く。
そしてそれと時を同じくして。
小狼は体調を崩した。
雨と違って、急激に。
微熱が続き、うつらうつらと眠っている。
咳き込んだりはしない。
風邪にしても妙な症状だ、と医師は首をひねった。
まだまだ幼さを残す子供たちが、そっと部屋を覗きこむ。
サクラには、解った。
小狼の最期の時が近づいているのを。
そして、聞こえてきた。
――――――――――終焉の足音が。
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時折浮遊するように戻ってくる意識。
目覚めると決まって言う言葉。
『夢を見ていた。・・・旅の夢、を。』
深く刻み付けられた記憶と想い。
「俺も夢を渡れたら・・・・・。」
ほんの少し、悔しそうに。
呟くのも、いつものこと。
「・・・会いたい・・・・・。」
遙か離れた世界にいる、旅の仲間に。
次元はもとより、夢すら渡れぬ小狼には不可能なこと。
それでも。
――――――――――会いたい。
「・・・会って、どうするの?」
尋ねれば。
微かな微笑みが口元に浮かぶ。
「一言だけ、言いたいんだ。・・・・ありがとう、って・・・・。」
それが。
サクラの聞いた『最後の声』だった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
貴女はサクラ姫。玖楼国のお姫様です。
俺の名は、小狼です。
書物や歴史が真実のみを語っているとは限りません。
・・・・黒鋼さん・・・・ごめんなさい・・・・。
走馬灯のように脳裡を駆け巡る、その言葉たち。
サクラの頬を一筋の涙が伝う。
「・・・小狼・・・・・・。」
「兄様が言ってたの!本当に親しい人とは名前で呼び合うって!!」
「私も『小狼』って呼んでいい?」
「小狼君・・・・。」
「小狼君。」
「小狼君!」
「・・・小狼――――――――――っ・・・・!」
玖楼国に、静かな風が、吹いた。
そっと労わるように。

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