「大ーきな栗のー木の下でぇー♪」
モコナがご機嫌で歌っている。
「あーなーたーとーわーたーしー、なーかーよーくー遊びましょうー♪」
「・・・・・・・・・もういい!!」
完全に腹に据えかねた様子の黒き疾風は。
目の前の『白まんじゅう』を睨みつける。
「えー?せっかくだしー、遊ぼうよ〜〜〜。」
「てめぇ1人でやってろ!!」
「黒ぽん、ひのいー。」
モコナー、慰めてー、と。
白き魔術師はモコナの『腕に縋った』。
「ファイー、泣かないで〜〜〜。」
よしよし、と『胸に抱え込んだ』ファイの頭を優しく撫でる。
「でも、どうしたらいいんですか?」
小狼の困った声に、夕闇色の瞳は静かに天を仰ぎ。
何度目かのため息をほう、と吐き出した。
「何でこう、いつもいつも綺麗に『魔法を受けて』くれるのかな?」
見遣る先には。
モコナと並んで立つ、『モコナと同じサイズ』の旅の仲間たちの姿がそこに在った。
――――――――――― * ――――――――――
それは無理というものだろう。
「そんな事言ったって〜〜オレ達シールド張ってるワケじゃないし〜〜。」
ファイの抗議は当然だ。
『魔法に耐性が無さすぎる。』とかぶつぶつ呟いているのも、仕方があるまい。
この国に入ったとたんにかけられた魔法。
「いつも全員にシールドを張るわけにもな・・・・。」
元々『魔力を持っている』事すら隠す人なのに。
そこまで恒常的に魔力を使い続ける義理は無い、ということか。
「とりあえずは『足』だな・・・・。」
『巨人』と『小人』では、その歩幅にあまりの差があるというものだ。
肩に乗せるにしても、ちょっと収まりが悪いのだが。
「仕方がないな。」
邪魔にならないように髪を束ねる。
頭の上にはモコナ。
右肩に小狼とファイ。
左肩にサクラと黒鋼。
ため息1つついて。
町へ向かって歩み始めた。
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「・・・・これも困ったな。」
町は。
いや、『町の人々』は。
「俺たちと同じ・・・ですね?」
「でも家は今までの俺たちのような人間の大きさだな。」
「・・・じゃあ・・・ここの人たち『も』・・・?」
「『小さくなった』ということだな。」
1歩踏み出すのも気を遣う。
間違って踏んでしまったら、それこそ。
公園らしき所のベンチに、やれやれと腰を下ろした。(もちろんそこに誰も居ないことは確かめた。)
「何時からこうなった?」
物珍しそうに近寄ってきた『小人』に問う。
肩から下ろしてもらいながら、小狼は辺りを見渡す。
かなりの人数が集まってきていた。
(ちなみに自力で降りようとしたサクラは、リアンの胸元から膝まで墜落して鼻を打ってしまった。)
「きっと『コロポックル』の仕業だよ!」
「『コロポックル』がやったんだ!」
「皆を小さくしちゃったのさ!」
「『コロポックル』が悪いんだ!!」
「その『コロポックル』というのは?」
「小人だよ!」
「今の俺たちと同じくらいの大きさなんだ。」
「大きな葉の下に住んでるよ!」
「・・・妖精みたいなもんかなあ??」
ファイは小狼に同意を求める。
小狼も『小鬼』の類かも、と同意した。
「何かしたのか?その『コロポックル』とやらに。」
「何も!」
「何もしてないさ!!」
「『コロポックル』が勝手に悪さをしてるんだ!」
「・・・それは違うと思うなァ・・・。」
ファイの言葉に、皆は怪訝な目を向けてきた。
「オレ達人間が気付かないうちに、その『コロポックル』とやらの命を脅かすようなことをしたのかもしれないよ?」
「そうですね。俺達にとっては些細な事でも、こんなに小さな存在にとっては『大変なこと』なのかも。」
「お家にしている『葉』を壊しちゃったとか?」
「食料源なんかを人間が搾取する形になったかも知れねぇな。」
「静かなところに住んでいるのに、騒音を撒き散らすとか。」
「自然の摂理に反したことを人間は簡単にやっちゃうからね〜〜。」
ある意味他人事のように言えば。
人々は、ざわざわとし、やがてシン、となった。
「・・・この国の大きな湖の一部を干拓して宅地や農地にする計画があるんだ・・・・。」
周りにある小さな池などもそこに含まれる。
『大きな葉』のある植物も、あたりに群生していた。
もっともその『大きな葉の植物』は、ごく一般的に何処にでも見られる植物なのだが。
「これは『警告』なのかもな。」
『自然』を破壊することへの。
――――――――――― * ――――――――――
『コロポックル』は大きな葉の下に住んでいる。
『コロポックル』はとても器用。
『コロポックル』が作ってくれる薬はとてもよく効く。
『コロポックル』は水を綺麗にしてくれる。
『コロポックル』は子供が大好き。
『コロポックル』は――――――――――。
小さな子供が持ってきた絵本の中の『コロポックル』は、『優しい存在』だった。
「でも、どうやって『魔法』をかけたんだろうね?」
「こんなに優しいのに、皆をこんなにしてしまうなんて、よほど怒ったという事でしょうか?」
「それとも・・・・・・・・。」
サクラは顔を伏せた。
「もしかして・・・私の『羽』が・・・・?」
「姫・・・・。」
その可能性は、残念ながら高いと言わざるを得ないだろう。
モコナも、『羽』の気配が確かにある、と感知した。
「『コロポックル』のせいじゃねぇんじゃねぇか?」
黒鋼の言葉にサクラは驚いたような顔を向けた。
「どういうことですか?」
「そんなに優しいのに、いくら警告の為でも、ここまでするかって事だ。」
視線の先には、木から落ちた果物に群がる人々の姿。
「・・・もしかして、食料的な問題?」
「十分にいきわたっていねぇんじゃねぇか?」
見れば力なく横たわったり座り込んだりしている者の姿が目に付く。
調理器具などが『人間サイズ』であるならば。
『小人サイズ』の皆には食事の調理は不可能。
肉を焼いたりは出来たかもしれないが、それとても腐敗の方が早かっただろう。
魔法が発動してからどのくらい経っているのかはわからないが、限界が近づいているのは確かなようだ。
「じゃあ、これは・・・・。」
「彼らの『最後のメッセージ』なのかもな。」
その呟きに、周りに居た人々も、驚いたように見上げてくる。
「どういう意味ですか?」
小狼の問いに、夕闇色の瞳は答えることもなく呟きを残して立ち上がる。
「今夜は満月だ。」
「・・・・満月?」
「満月が・・・?」
皆には何のことか解らない。
「コロポックルは。」
図書館から借りた絵本を見ていたファイがパタン、と本を閉じてやはり呟くように言った。
「満月の夜に湖のほとりで踊るんだ。」
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日が沈み、月が昇った。
湖のほとりには人々が集まっている。
その表情は一様に驚きに満ちて。
「本当に居たんだ・・・・・。」
湖に向かって跪き、祈る『コロポックル』たち。
そして。
その先には、――――――――――『時の魔女』。
膝まで水に入り。
長い領巾のような布を持ち、その先端は水に浸かっている。
すい、と手が差し伸べられ。
布が水から流れるように躍り出る。
「あ!!」
思わず声が漏れたのも、宣なるかな。
布は意思を持つかのごとくに宙を舞い。
飛び散るしずくが幽玄の響きを奏でる。
ざわざわと、波が荒立つ。
静かに舞うは、『鎮めの詩』。
波はやがて治まり、湖は静かな水面を取り戻していく。
湖の中央に光が現れ、やがてそれは、サクラの羽の形を成した。
パアッ!!と。
光はあたりに満ちた――――――――――。
残念だが、我々はもうここには住めなくなってしまった。
でも忘れないでおくれ。
私たちのことを。
ここに住まう者たちのことを。
光が消える一瞬前。
大きな葉を傘のように持った小さな小人たちの頬に、確かに見えた。
涙、が。
――――――――――― * ――――――――――
「どうするのかな、これから。」
「少しは解ったとは思いますが・・・。」
ファイの呟きに、小狼も呟きで応える。
湖の『ヌシ』が怒った。
『羽』のチカラで人間を滅ぼそうと思うほどに。
コロポックルたちはそれを必死でなだめ、鎮めようとした。
メッセージをこめて、人間を自分たちのように姿を変えるということで何とか折り合いをつけた。
しかしそれでも人間たちには『理解が出来ない』。
力尽きたコロポックルたちは、棲み処を追われ、去らねばならなくなった。
満月の夜、最後の踊りを涙と共に踊って。
コロポックルは帰ってくる?
小さな子供の問いに、サクラは答えた。
「いつかきっと・・・人間たちが『思い出してくれた』ら・・・きっと。」
その日は、果たして訪れるのだろうか?
サクラの羽が持っていた『記憶』。
それは、玖楼国の近くで、今にも枯渇しようとしている1つのオアシスの記憶だった――――――――――。
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