「だ?」
「これは『犬』。」
「いーうー?」
「んー、『わんわん』でもいいんだよー。一緒だからねー。」
「・・・わうわ?」
「そう、わんわんー。」
さらさら絵に描いて。
見せながら『名前』を教える。
これは『猫』。
『にゃんにゃん』でもいいよ。
これは『鳥』。
『ピヨピヨ』だね。
これは『お家』。
それでもって、これは『お城』。
「オレは?」
自分を指差しながら尋ねてみる。
まん丸に見開かれた目が、きょとんとした色を見せて。
きゅっと。
笑った。
「ねこたー!」
いや『猫田』じゃないからね、と、こそっと突っ込んで。
「うん、『ネコ様』だよー。」
「ねこたー!」
「ねこたあー!」
「・・いや・・・だから・・・・。」
子供の『無邪気さ』というものは。
時には残酷なまでの刃になる。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
今日は休みだから、と午前中はプライベートな用事をしていた。
午後に思い立って来てみれば。
「ファイ?・・・すまない、出かけるところだ。」
聞けば、天照様に呼ばれたという。
まだまだ留守番など出来ないから、連れて行くところだったのだと。
「何だ、そんなことなら、オレが見てるよ。」
「え?」
「今日はこの子達と遊ぼうって思って来たんだ〜〜。」
だからちょうどいいじゃない?と言えば。
しばらく考えていたが。
「・・・では、頼もうかな?」
「オッケー。」
それでも少し心配そうに、抱き上げていた双子を畳の上に下ろした。
「・・・だあ!」
「だあ!」
それは、嫌だ、というかのように。
抱っこをせがんで手を伸ばす。
「よぉーし、オレが抱っこしてあげよう〜〜〜!」
片手ずつ、ひょいひょいと。
抱き上げればきょとんとした顔をしている。
「着替えはこの行李の中。おやつは蝿帳の中に入れてあるから。」
「了解ー。」
じゃあ、と。
双子を抱っこしたまま見送りに出た。
「いってらっしゃーい!」
なおも不安が残るのか、何度も振り返ってはいたが。
やがてその姿が見えなくなり、オレは双子に声をかけた。
「さあ!何して遊ぼうか?」
もちろん返事はない。
言葉というものが少し出始めたばかりだ。
まともな会話なんて成立しないのは当たり前。
座敷に戻り、辺りを見渡せば。
「お、いいのがあるじゃない?」
それは籐の籠に入った玩具たち。
まずは小さな毬を取り出した。
「行くよ〜〜〜?」
ころころころころ。
毬は狙い過たず鋼人君の所に行った。
「・・だ!」
嬉しそうに手に取る。
「鋼人君、『ちょーだい』?」
きょとん。
そっとその手を取り、オレの掌に毬を置かせた。
「これが『ちょーだい』だよ。」
続いて理子ちゃんにも同じようにする。
見ていて理解したのだろうか。
『ちょーだい』、といったら、オレの手に乗せてくれた。
「理子ちゃん、良く出来たね〜〜〜!」
ニコニコして頭を撫でてあげたら、鋼人君が騒ぎ出した。
自分にもしろって事らしい。
コロコロ転がして。
鋼人君もオレの手に乗せてくれた。
「鋼人君も偉いね〜〜〜!」
本当に嬉しそうに。
何度もせがまれる。
ころころ。
ぽん。
ころころ。
ぽん。
そろそろ別の遊びにしようか、と思った時、鋼人君がもじもじし始めた。
「うん?」
「・・・ちー!」
「え?・・・わ!もしかして、トイレ?!」
慌てて厠へ連れて行く。
ぎりぎりセーフで間に合った。
同じように催した理子ちゃんも何とか間に合った。
「やれやれ〜〜〜・・・・。」
思わず額に浮かんだ汗を拭う。
「おかーさん、っていう職業は大変なんだねー・・・・。」
世の中の母親(もちろん父親だってやってる人はやってるだろうけど)は、ものすごく偉大だ、と実感できる。
井戸の水を汲んで手を洗わせて。
「おやつにしようか〜〜。」
蝿帳の中には、小さな団子があった。
「いただきます、だよ〜〜。」
するとこれはもう教えてもらっていたのだろう。
小さな手を一生懸命合わせてぺこり、とする。
思わず顔がほころんだ。
「はい、どーぞ。」
お茶を淹れ、ちょっと冷まして。
もぐもぐと団子を食べているのを見ながら、さて次は何をしようか、と考えた。
(・・決めた。)
目に付いたのは。
部屋の隅に置かれた、文机。
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「?今日は非番じゃなかったのか?」
「天照様の急なお召しで・・・・。」
「子供たちはどうした?」
「ちょうどファイが来てくれて・・・・。」
「あいつに任せたのか?!」
大丈夫なのか、と。
急ぎ足で戻ってみれば。
「・・・・何とも平和なこったな・・・・・。」
ころりと転がった白猫1匹。
傍らには小さな子猫が2匹。
その周りをたくさんの紙が散らばって彩って。
「『犬』に『猫』に『家』に『城』に・・・・・。」
「ファイが描いた?」
「あぁ。こいつの『絵』だ。」
晩飯ぐらいは食わせてやらねえとな、と呟いて。
そっと掛け布を掛けて回るのを見遣った。
「ま、たまにはいいか・・・・・・。」
それで心が和むのなら。
こちらとしても、助かるといえば助かることでもあるし。
どんな夢を見ているのか。
3匹の猫の寝顔は、とてもとても楽しそうだった。
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