「ちょっと、そこのキミ!」
声を掛けられてビクッとその身を竦ませる。
「は・・・はい!!」
「ダメじゃないか。『小さい子』が1人で『こっち』に来ていては。」
「あ・・・あの・・・・。」
「親御さんは?居ないのなら早く此処から出て!!」
「・・・・は・・・・そう、はぐれたんです!!」
「だったらなおの事だ。このままでは『危険』だからね。『外』に出て『迷子センター』に行きなさい。」
「・・・・・・・・・。」
「『迷子センター』なら、すぐに親御さんは見つかるから。」
否応なしに柵の『外』に連れ出された。
係員が見張っているから逃げ出せない。
『迷子センター』と書かれた大きな建物に連れて行かれた。
「ハイ、君の名前と年齢、親御さんの名前は?」
答えようとして、隣のブースの声が耳に飛び込んできた。
「名前は『黒鋼』・・・エーと・・・年は・・・・・5歳、かな・・・・・・。」
「・・・黒鋼さん?!」
思わず身を乗り出して問いかけた先に居たのは。
「あ・・・・・・・。」
「・・・・小僧・・・・?」
「君たち、知り合いかい?」
係員の声も耳に入らない様子で。
『黒鋼』と名乗った5歳ぐらいの『子供』と。
『小僧』と呼びかけられた、小狼そっくりのやはり5歳くらいの『子供』は、呆然として顔を見合わせた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
『親戚同士なんです。』と、実に見事な演技力で。
小狼は係員に申告した。
「その・・・親戚同士で遊びに来たので、皆が何歳とか・・ボク・・・解らないんですけど・・・・。」
所々に『作為的に』滲ませる『子供っぽさ』で、『年の割にはしっかりした子供』というイメージを植えつけることに成功したようだ。
確率的に。
(きっと、『あの人』は、影響を受けていないし、もし受けていても、それを破ることが出来るはず。)
という確信にも満ちた想いから。
「親戚のおば・・・いえ、『お姉さん』の名前はリアン、と言います。」
言い直す辺りに作為を見せる。
係員もよくあることだと苦笑いを見せた。
そう、『よくあること』だ。
年若い未婚の『叔母』が、自分の『甥』や『姪』に、自分の事を『お姉さん』と呼ばせることなど。
「ではその『リアン』という人に連絡を取るように手配します。それまではこのセンターの部屋で待っていてください。」
そういわれて、小さな部屋に案内された。
こじんまりとした部屋には、ソファと、いくばくかのおもちゃや絵本など。
どかっと座り込んで。ひょい、と胡坐をかいた。
「済まなかったな。・・・助かった。」
『自分が変化する』という体験は何度もしてきているが、必ず誰かが傍に居た。
『1人で』対処しなければならなくなった今回、状況判断は出来ても、それをどう説明するかなどはやはり得手不得手がある。
渉外能力は、やはり小狼の方が傑出していると言っていいだろう。
「これからどうする?」
テーブルの上の果物を吟味してから、がぶり、と齧った黒鋼は、『これは美味い』と同じ物を小狼にも差し出した。
「ありがとうございます。」
礼を言って受け取った小狼は、その果物が本当に美味しいのに驚いた。
念のために他のも口にしてみたが、黒鋼が勧めてくれた物が一番美味しかった。
忍者としての能力なのか。
サバイバルを生き抜くために、身に備わった能力なのか。
それは。
例え子供の姿になったとしても、変わらない。
彼の、本質。
ぎこちなく、不器用で、それでいて無限の深さを見せる、彼の『優しさ』。
小狼は何だかとても安心したような気分になった。
ふわ、とあくびが出る。
「寝ておいた方がいいかもな。」
「・・・そうですね。」
ころ、と小狼は備え付けのベッドに横になった。
すぐにすうすうと寝息をたて始める。
その寝つきの良さに少し呆れつつ。
小狼に毛布をかけてやった黒鋼もまた、ソファに横になった。
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≪ 迷子センターよりお知らせです・・・・・・・。 ≫
何件かのメールニュースに目を通して。
夕闇色の瞳は、ふっと和んだ。
(『外』に出ていたか。)
この国は、年齢制限付きのエリアに分かれている。
10歳くらいまでのエリア。
15歳くらいまでのエリア。
20歳くらいまでのエリア。
それ以上の年齢のエリア。
自分より年齢が下のエリアには、理由を申告しさえすれば自由に行ける。
上のエリアには、保護者の同伴を必要とする。
エリアごとのシステムも、年齢相当になっており、例えば図書館の本などもその趣が全く異なる。
今、ファイとサクラは『20歳くらいまでのエリア』に滞在していた。
どうやら『危険』と呼べるようなものは無いようだと見越して、サクラとファイを一緒にしてある。
もちろんいざという時の戦闘能力も買ってはいるのだが。
そして、自分は。
今までも時々そうであったように、『存在を偽って』いた。
――――――――――どのエリアにも行けるように。
実は結果的には、黒鋼たちと合流するのが遅くなってしまったのだが。
小狼は、自分たちの保護者に、リアンを指定していたので。
「何故2人が『子供になってしまった』かだな・・・・。」
『羽』の力を感じてはいる。
だが、何のために、2人だけを変えたのか。
ファイもサクラも、姿は変わっていない。
そして、自分も変わらなかった。
変わったのは、黒鋼と小狼だけ。
この国に来たとき、彼ら2人と別の所に落ちた。
自分と一緒に居なかった為に『羽』の影響を受けたのか。
――――――――――それとも?
「『羽』が・・・・『選んだ』、かな?」
あの、2人を。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「目に入るものが、『瞳の色によって』変わるなんて。」
普通なら、ありえない。
だが、1つの世界の常識が、他の世界で適用されるとは限らない。
この世界では。
瞳の色によって、見えるものが変わる。
正確に言うと、色の系統による違いのようだ。
黒鋼の瞳は、紅。
小狼は栗色。
サクラは、翠。
ファイは、蒼。
寒色系統の瞳には、『それ』は見えない。
暖色系等の瞳には、『それ』は見える。
「日本国じゃあ有り得ねぇ話だなぁ。」
「玖楼国でも、それから父さんと巡った国々でも、そんな国はありませんでした。」
およそその外見からは想像できないような口調で。
『偉そうに』腕組みをしてみせる子供に、夕闇色の瞳に面白そうな光が浮かぶ。
いちいち理由を申請するのも面倒だったのだが。
ともかくも、とファイとサクラを連れて、リアンは2人を『引き取りに』やってきた。
『ずいぶんと小さくなって』しまった2人に、ファイとサクラは目を丸くし。
続いてファイが爆笑し、サクラはその目をキラキラさせた。
その反応に、『5歳児』が眉間に皺を刻むのが、更なる爆笑とキラキラを呼ぶ。
「で?何で俺たちだけこうなっちまったんだよ?」
似合わないー!!と笑い転げるファイを放っておいて、その瞳に写る物の話をする。
「・・・有り得ねぇ・・・・。」
「リアンさんは、『見えない』んですか?」
さっさと立ち直って尋ねる小狼に、ふわりとした笑みが返る。
「ぼんやりとだけ、見えるよ。」
自分たちと同じ目線の高さに膝をついて答えた、その声、その視線に。
面と向かって顔を合わせられなくて、2人が2人とも目を伏せてしまったのは。
「紫色の、『赤』の部分で見えるのかな?」
「たぶんな。」
「まぁ、変わっているといえば変わってるよねー・・・・。」
ファイもこんな世界は初めてなのだろう。
感心する事しきり、といった様子だ。
「でも、どうしてこんなに小さくなってしまったんでしょう?」
瞳の色だけの問題なら、年齢が変わる必要は無い。
「『5歳相当』の子供に『しか』見えない、ということだな。」
皆と違うのは。
「――――――――――あ!!」
ファイと小狼が同時に手を叩いた。
「視線の!!」
「高さ、だよね?!」
「そうなるな。」
『大きくなった』皆の視線の高さでは、『見えない』。
『小さくなった』黒鋼と小狼の視線の高さでなら――――――――――。
『羽』は。
『子供用トイレ』の便座に座った、その真向かいの壁の意匠になっていた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
まさか、トイレの壁の模様になっていようとは。
「『羽』も困ったんじゃないー?」
「・・・そうかもしれないですね・・・・・。」
寒色系の瞳の子供に見える意匠は、別のものだった。
『羽』を取り出した後は、小狼が彫った浮き彫りを代わりに埋め込む。
「それにしても、2人とも『可愛かった』ねえ〜〜〜♪」
「うるせぇ!!」
「黒様、照れてるー!!」
「照れてねぇ!!」
こんな『いつもの』ドタバタが見れるのも。
「サクラ、ありがとう!」
「え?」
サクラはきょとん、としてモコナを見つめた。
「モコちゃん、私、何かした??」
「きっと『羽』のおかげなのー♪」
「そうだな。」
「えっと・・・・そうなるのか・・・な・・・?」
ちょっと首をかしげながら。
しかしモコナが喜んでいるのなら、それはそれでいいか、と。
サクラもくすり、と笑った。
「では、ソエル、そろそろ行こうか。」
「うん!モコナ、がんばる!!」
「黒鋼さん!ファイさん!出発です!!」
「早くしないと、置いてっちゃいますよ!!」
「あ?!おい、ちょっと待て!!」
「わぁ!置いてかないでよ!!」
次元移動の風が、柔らかな香りと共に皆を包みこんでいった。
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