<77777HIT記念 キリ番リクエスト小説>

       「 勿 忘 草 」




「――――――――――貴女は、誰ですか?」


サクラの顔が、凍りついた。
驚愕と、絶望の色に。


―――――――――――――― * ―――――――――――――


以前、自分も。
言ってしまった言葉がある。


「・・・貴方・・・・だぁれ?」


何も考えてはいなかった。
その言葉を『言われた方』が、どんな思いをするのかを。


こんなにも。
さびしくて。
辛いなんて。


心の中に、錐で穴をこじ開けられるような。痛み。
訴えるべき相手は、『解っていない』。
訴えかければ、それは『理不尽な叫び』としか受け取られまい。
サクラは、顔を伏せた。
どう答えればいいのだろう?


「ちょっとした事件があって、お前は怪我をした。今記憶が混乱している状況だ。」


いつもはフォローなんてしようともしない黒鋼が、ぼそり、と言葉を紡ぎだす。
「記憶が混乱?」
「『覚えている』ことも『覚えていない』ように『錯覚』したりしている。・・・ま、日にち薬だがな。」
「時間が立てば元に戻ると?」
「普通はそうだろうからな。」
だから無理に矯正する必要はない、と。
小狼は安心したような表情を見せた。
「で、一応言っておくな。・・・この子はサクラ姫。玖楼国のお姫さんだ。」
「姫君でしたか。」
「・・・ま、ぼちぼち思い出せばいいさ。」
黒鋼さんは何か忘れたことはあるんですか?と問われて、黒鋼は頭をボリボリとかいた。
「・・・・・・・どんな種類の酒が好みだったか、どうしても思い出せねぇ。」
辛口か、甘口か。
清酒か、濁り酒か。
「俺にとっちゃ、大事なことなんでな。」
目を丸くした小狼に、言い訳のように呟く。
「皆、『何か』を忘れてるんだ・・・・・オレなんて、『フォンダンショコラ』の作り方がどうしても思い出せないしー。」
ファイが苦笑混じりに言う。
「サクラちゃんなんて、『何を』買いに行ったかを忘れてるしー。」
サクラの顔がぼっ!と赤くなる。
「白まんじゅうのは、『どうでもいいこと』だな。・・・『超!吸引力(弱)』なんてのを忘れたって別にどうって事もねぇ。」
モコナ、それじゃ困るのー!!とボカスカと抗議するのを受け流す。


皆が、皆。


『何か』を忘れている。


それは、きっと、その人なりに。


「・・・・・『一番大切なこと』・・・・・・・。」


どうやって『取り戻したら』いいんだろう?

*********************************************

「・・・あ・・えと・・・・サクラ・・・姫・・・。」


そのぎこちない呼びかけ。
サクラの顔は、それを聞くたびにあいまいな微笑みを浮かべる。


一応は笑って。
しかし、それはとても哀しそうで。


呼びかける小狼も、いきおい言葉少なくなる。
この事態。
「何とかしねぇと。」
「そうだねえ・・・・どうしたらいいんだろう?」
大人組としても、ここは何とかしたい。
いや、必ず何とかしなければ。
「モコナにも思い出してもらわなきゃならないしね〜〜。」
「・・・そうなの・・・・・。」
長い耳がシュン、としおれる。
モコナとしても、一生懸命思い出そうとしているのだが――――――――――。


「迷った時には、振り出しに戻るのが一番です。」


小狼の言葉にはっとした。
「振り出し?」
「はい。遺跡なんかで迷路のようなものに出くわした時のセオリーです。」
いくつもの国で培ってきた経験。
「解らなければ『最初』に戻る。それが鉄則です。」
「『最初』、か・・・・・。」


最初。


振り出しは――――――――――?


―――――――――――――― * ―――――――――――――


この国に来て。
「野原のど真ん中に落ちたな。」
見渡す限りの草原、そこはとても心地よい風が吹いていた。
「姫が花を摘み始めて。」
「黒たんと小狼君が手分けして水を探しに行ったねー?」
「モコナは美味しい木の実を見つけたの!!」
「ファイさんは薪を集めてきてくれましたよね?」


それから?


「夕暮れになったから、大きな木の下で火を熾したね。」
「モコちゃんが見つけてくれた木の実、美味しかったです!」
「少しだったけど水も確保できたよね。」
「眠くなったって言って、サクラちゃんとモコナが眠った・・・・。」


その時。


「自警団のような人たちが来ましたね。」
「有無を言わさず銃を向けてきやがって。」
「言い争いになって、ケンカに発展しちゃったなあ。」


対抗しようとした時。


「・・・・・・・そういえば、身体が異様に重かったな?」
「えぇ、思ったように動けませんでした。」
「手にも足にも、重い鎖がついてるような感じだったねー?」


漏れなく銃床で殴られ、意識を失った。
気がついた時、皆は牢屋にいて。
あれやこれやと聞き取り調査がなされ、ようやく解放された。
小狼が眠ったままだったので、宿屋に入り――――――――――。


「そこで『忘れている』事に気がついた・・・よね。」


黒鋼は宿の食堂の棚に並べられた酒を見た時、自分の好みが言えなかった。
ファイは女将と話をしていて、『フォンダンショコラ』が如何に美味しいかを力説し、じゃあレシピを、と言われて気がついた。
モコナは何かを吸い込もうとして――――――――――。


「何で・・・忘れた?」


手足が重かったこと。
銃で殴られたこと。
何らかの形で『眠った』事――――――――――。


どれかが。
きっと関係している。


「一番怪しいのは、やっぱり『身体が重かった』ことかなー?」
「それが一番最初ですよね?」
「『誰か』が、『何か』を仕掛けやがった・・・・か?」
宿の主人に聞いても、『そんな事は初めて聞いた。』という答が返るばかり。
「八方ふさがりか・・・・・。」
絶望を匂わせる言葉は口にしてはいけないと思いつつ、つい出てしまう。
それを責めることは誰にも出来まい。


「ねえ、おじさんたち。」


いつもなら『誰がおじさんだ!』とツッコむ所だが。
唐突にかけられた声に、ただ視線を向けるにとどまったのは、やはり心理的ダメージによるものか。
声の主は、宿の子供だった。
年の頃は10歳前後といったところ。
いわゆる『悪ガキ』に分類されそうな感じだ。


「おじさんたち、『オブリオの実』を食べたんじゃない?」


「・・・・・『オブリオの実』・・・?」
確かに、モコナは木の実を取ってきた。
しかしそれがその『オブリオの実』かどうかは解らない。
「結構美味い実だったが?」
「僕たちは絶対に食べないから、味は知らないけど。」
子供はよいせ、と植物図鑑を引っ張り出してきた。
「これだよ。」
「・・・・・・・・・これ!!」


それは、まさしく。
モコナが取ってきた、木の実。


「『オブリオの実』は、染料に使うから、食用にはしないんだけどね。」
宿の女将は納得顔で頷いた。
「確かにそれなら解るよ。あれは『忘却の妖精』っていう別名があるくらいだからね。」
「・・・じゃあ、この実を食べたから・・・・?」
「そういうことだね。」
「・・・・白まんじゅう〜〜〜!!!」
「そんな事言ったって、モコナは知らなかったのー!!」
ガシィッ!と掴まれながら、モコナはキャーキャーと抗議する。
それもそうだと、少しだけ力を緩めた。
「じゃあどうしたら記憶は戻るんでしょう?」
今の最重要事項は。
「ああ、簡単だよ。原因がわかったからね。」
女将も子供も、にっこりとして頷いた。

*********************************************

もしこれが。


「対価だってんなら、たまらねぇな。」


苦虫を噛み潰したような顔で黒鋼がぼやく。
ファイも顔をしかめながら、苦笑いをした。
小狼も。
サクラも。
そして――――――――――モコナも。


「まっず〜〜〜〜い・・・・・・・・・・。」


『オブリオの実』があまりにも美味であったのに比して。
その解毒剤たる『リコルドの実』のなんと不味いことか。
「ま、甘言は耳に甘く、苦言は心をいらだたせるって所ですか・・・。」
それが何の慰めにもなっていない事くらい、言った本人であるファイ自身よく解っている。
とにかく、本当に、不味い。
しかし、これを食べなければ。
そして、眠らなければ。
「効果は消えないよ。」
自動的にもう1泊する事になった宿屋で、皆はテーブルに突っ伏した。
「我慢、我慢、我慢、我慢・・・・・・・。」
サクラの自分への言い聞かせは、まるで呪文のよう。
とにもかくにも、胃の腑へ流し込み。
『口直しにおし。』と女将が用意してくれた食事もなんだか味がさっぱりわからずに。
皆は早々にベッドにもぐりこんだ。


明日の朝になれば。


(きっと・・・・思い出してくれる。)


そう、自分の事、を。
サクラは静かに目を閉じた。


『思い出す事の決して無い』、自分を知ることもなく。



               キリリク目次に戻ります



「77777HIT」をゲットしてくださった、小犬様に捧げるショートショートです。

リクは、『大切なことを忘れる』。
唯一の指定が、『小狼がサクラを忘れる』というもの。
他の皆はどうでもいいことを忘れてもよいとの事で(笑)
本当に『どうでもいい事』を忘れてもらいました。
もちろん当人的には『とても大事なこと』だったんですけどね!!
ちなみにサクラが忘れた『買い物の内容』は、『手荒れ用のクリームを買う』でした。(爆)
・・・いや最近、ちょっと手がカサついて・・・・・。σ(^^;)

『オブリオ』はイタリア語で『Oblio(=『忘却』の意)』。
『リコルド』は同じく『Ricordo(=『追憶』の意)』です。

ところで。
携帯などからご覧の方には申し訳ないのですが。
PCからご覧の方には背景画像としてウサギの後姿の写真が使われています。
この哀愁漂う後姿に爆笑して(何故)今回使用いたしました。
うさうさはね、寂しいと死んじゃう生き物なの・・・・。(モコナ談)
『忘れられてしまう』ということは、とても寂しい、というわけで。
小狼の苦しみ、今になって思い遣られる所です。

小犬様、ありがとうございました!(・・・でも返品受付中です・・・・。)

           作者・シュウ   2007.10.21UP

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