「ごめんくださーい。次元の魔女さん、いらっしゃいますかー?」
「はーい。」
「はーい。」
応えの声と共に、パタパタと駆けてきたのは。
「エーと、マルちゃんとモロちゃんだっけー?」
「当たりー!」
「当たりー!」
マルとモロは嬉しそうに唱和する。
「元気そうで何よりー。魔女さん、居るー?」
「主様居るよー!」
先に立って案内してくれる。
奥の座敷に目指す人はいた。
「あら、ファイじゃない。どうしたの?」
「知世姫のお遣いですー。」
そう言いながら、反物を差し出す。
意匠は、あでやかで、かつ気品のある『蝶』。
「アラ、ステキじゃない。」
「気に入っていただけましたー?」
「もちろん。・・・・で?」
物事全て、対価を。
ファイは満面の笑みで答えた。
「知世姫、欲しい物があるそうなんですー。」
それは。
「日本国では手に入らないもの、ってワケね?」
「ピンポーン♪」
魔術師同士が微笑み合うと、周りの空気の色が変わるのだと。
たまたま顔を覗かせた四月一日は思い知ることになった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
行き先は。
「私の知り合いの店よ。」
「何で俺まで行くんっすか?!」
「四月一日は荷持ち〜〜〜♪」
「俺、強力じゃありませんから!!」
逆らえない悔しさからぶつぶつ文句を言い続ける四月一日に、ファイはにっこりと微笑みかけた。
「君でしょ?あのフォンダンショコラを作ってくれたのは。」
「?・・・・あ、バレンタインの時の?」
「そうそう。凄く美味しくってさ〜〜今じゃオレの得意料理でもあるんだよ〜〜。」
「へー、そうなんですか・・・・・って、貴方は料理をするんですか?」
目をまん丸にして尋ねる四月一日に、むしろファイの方が驚いた。
「え?・・・うん、好きだし、得意だよ?」
「・・・・俺、魔術師って料理嫌いなんだとばかり思ってました・・・・。」
それはつまり、『次元の魔女は料理をしないし、そのこと自体がキライ』ということだ。
「あはは。」
思わず笑いを零して。
ファイは十分予測の範囲だ、と思った。
「でもクロウって人は、とても料理が上手だったらしいよ?」
「そうなんですか?」
「総じて魔術師は料理は上手なはずなんだけどな〜〜〜・・・・。」
魔法薬の調合とかにも通じるし、と。
『絶対侑子さんではありえない!!』と拳に力を込める四月一日を見て、微笑ましい、と思う。
彼のこの素直さというか、愛される何かを持っているのはそのこと自体が素晴らしい資質ともいえるだろう。
「でもその分、アヤカシなんかにも好かれちゃうかな?」
「好かれすぎです!!」
握った拳に『怒り』マークが浮いているように見えるのは間違いではないだろう。
「あらぁ、ファイ、ダメよ、四月一日を連れて帰っちゃ。」
「あ、バレました?」
「四月一日は『この世界』の住人なんだから。日本国には『あげない』わ。」
「残念・・・・・。」
「俺を勝手に『モノ』扱いしないで下さいッ!!!」
『いじられキャラ』は、誰に対してであっても、『そうなる』ものらしい。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「はい、ゴールよ。」
着いた店は。
「・・・アンティークショップ・・・?」
「そ。」
ドアを押し開ければ、ちりりん、と鈴が鳴った。
「あら、侑子さん、いらっしゃい。」
思わずきょろきょろした四月一日の目に、奥の重厚なデスクに座り込む黒猫が映った。
「・・・・・え?」
「黒猫さんのお店なんだー。」
当然ファイは動じてはいない。
口をパクパクさせている四月一日に、『人間の店主も居るわよ。』と次元の魔女は笑いかけた。
「でも、『今の私たち』には、『真の店主』の方が必要ってワケ。」
それだけで、『求めるもの』が尋常でないことが解る。
一体『何』を持たされるのか。
四月一日の心配はそこに尽きた。
「風変わりなものをお求めだねぇ。」
「異世界からのオーダーなのよ。」
「なるほどねぇ。じゃあ納得だよ。」
この店主をして『風変わり』と言わしめるものとは。
ふわり、と小さな風呂敷包みが空を滑ってきた。
箱のようなもの――――――――――桐箱だろうか。
「・・・・ひ!!」
たいていの事では驚かなくなっている四月一日をして、悲鳴を上げさせる、それは。
中に、『何か』、居る。
もぞもぞ動いているわけではない。
気配がするのだ。
お世辞にも『いい』とは言えない、気配が。
促されて、それはファイが持つ。
四月一日が安堵の大きなため息を漏らしたのを責められまい。
しかし。
「四月一日は、これを持ってちょうだい。」
ずい、と差し出されたものは。
「・・・・侑子さん・・・・・。」
何すか、この重い荷物は!!と。
怒声を上げる四月一日に、次元の魔女は、しれっとして答えた。
「お酒よ。」
「・・・・は?」
「聞こえなかったの?お・さ・け。」
「・・・『アンティークショップ』で『お酒』・・・・・??」
それは誰しも思い浮かべるであろう疑問。
「・・・『普通の』お酒じゃないんですねー?」
ファイの言葉に、次元の魔女はにっこりとした。
「あ・た・り♪」
「・・・『普通の』お酒じゃないって・・・・・・じゃあ、これ?!」
取り落としそうになる四月一日に、『バイト代から弁償よ。』と冷たく言い放って。
「いろんな『世界』のお酒が手に入るのよ。ここでは、ね。」
にんまり。
猫の目が、三日月形に細められた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「は〜〜〜これ、美味しい〜〜〜。」
「こっちはジェイド国のお酒ねえ。」
「これは高麗国のですね〜〜〜。」
すっかり酒盛りを始めた2人の魔術師に、四月一日は大きなため息を漏らした。
(うわばみが増えた・・・・。)
するめを炙りながら、ちら、と部屋の隅を見遣る。
そこにあるのは、ファイの荷物。
(メチャクチャ怪しい・・・・・。)
気配からして尋常ではない。
だが、見るのはもっと怖かった。
アヤカシなどとは違う、どちらかといえば雨童女に近いような、そんな気配。
(いや、俺にはカンケーないから!!)
そうとでも自分に言い聞かせなければ、到底耐えられない。
「――――――――――滅んでしまった国のお酒は手に入らないわ。」
言外に。
(セレスのお酒は、もう飲めないって事だね。)
それもいいではないか。
記憶の中にある、あのお酒の美味しさは。
(いつかは薄れていくけれど。)
その分、昇華され、えもいわれぬ美味として記憶にとどまることだろう――――――――――。
日本で見る月は、美しい。
ファイは、カラリ、とグラスの中のアイスボールを揺らした。
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