賑やかな祭囃子が聞こえてくる。
「前みたいに花火上がらないかなあ?」
以前見た打ち上げ花火が忘れられないファイがきょろきょろとする。
「此処では花火は無いみたいですね・・・・。」
「残念ー。」
「モコナも残念ー。」
今日はファイの頭の上に乗ったモコナが同調する。
「この世界には、『浴衣』が無いのー。」
モコナ的には、かなり不満らしい。
この世界は、風俗的には日本国に似ているようだが、服装的には異なっていた。
「お祭りとか屋台とかには、『浴衣』が一番似合うのに〜。」
「それはてめぇの思い込みだろうが。」
「黒鋼、ひっどーい!!」
あいもかわらずの漫才に、ファイはあははと声を立てて笑った。
「・・・リアンさん。」
漫才組から離れるように歩みを進めていたリアンに、サクラはそっと問いかけた。
「どうした。」
「あの・・・・・。」
少し逡巡して。しかし意を決して。
「・・・暑くないんですか?」
「?」
この世界の気温はかなり高い。湿度もずいぶんあるようだ。
祭りの入り口の方で配っていた、黒鋼曰くの『団扇』でパタパタとあおがなければ、結構辛い。
それなのに、普段とは違う服とはいえ、リアンは『長袖』を着ていた。
袖が絞っていない服ではあったが、手首にはリストバンドのような物も嵌めている。
ましてや団扇であおぎもしていない。
「別に。あまり暑さ寒さは感じない。」
魔法で気温さえも操るのか。
サクラはそれ以上の質問をやめた。
「姫、何か食べますか?」
小狼が訊ねてくる。
見れば美味しそうな匂いがそこかしこから漂ってきて。
サクラは思わず唾を飲み込んだ。
「行くといい。」
「あ・・・すみません。」
ピョコン、とお辞儀をして、サクラは小狼のほうに駆けて行った。
それを見送って。
後はのんびり夜店を冷やかしに回る。
「よっ別嬪さん!風鈴はどうだい?」
気さくな声がかかる。
見ればガラス細工のような涼やかな風鈴だ。
微かな風を受けて、チリリ、と音がする。
「いい音色だね。」
「おうよ!うちのは値段は安いし音色がいいってんで評判なんだ!」
店主が胸を張る。
ふと、笑って。
微かな音色に耳をすませる。
「・・・・これを貰おうかな。」
微かな音の中から、たった一つの『音』を選び出した。
「さすがだね!別嬪さんはお目が高いよ!!」
何処までが営業トークなのかはわからないが、店主は手早く風鈴を小箱に納めた。
「毎度あり!」
代価を払って、袋を提げて。
またぶらぶらと夜店巡り。
いわゆる『ウィンドーショッピング』のお祭り版といったところか。
「あ!リアン、見つけた〜〜!」
黒鋼の頭の上で辺りを見渡していたモコナが声を上げた。
「やっぱり黒たんの頭の上が一番見晴らしがいいねえ〜〜。」
「俺は火の見櫓かよ!!」
近づくと、小狼が、小さな飴を(食べます?)と差し出した。
「ん。」
ぱく、と。
棒の先に付いた飴を口に含んだ。
棒を持ったままだった小狼は、たちまち耳たぶまで真っ赤になった。
口に含んだまま、その手から受け継ぐように棒を持つ。
小狼は、棒が離れた手を、どぎまぎと振ってみたりしている。
ファイはそれをちらりと見て、にひゃら、と笑い。
黒き疾風は思いっきり眉間の皺を深くした。
「黒ぽん、解りすぎ。」
「・・・・あぁ?!」
不機嫌極まりない返事に、ファイの笑いのボルテージは上がっていく。
小狼は小狼で、サクラにどうしたの?などと聞かれて、これまたわたわたとしていた。
『原因』は、モコモコと飴を口の中で転がしつつ。
「あっちの屋台で花火を売っていた。」
「・・・買いに行こう!!」
あくまでも花火に固執するファイは、何処何処?と道案内をさせて花火を買いに走った。
後にはまだ顔を赤くしたままの少年と、憮然とした黒い影。
サクラは知ってか知らずか。
モコナと一緒にわた飴を齧っていた。
「・・・・何を考えて居やがるんだか。」
「・・・・何も考えていないと思います・・・・。」
呟きに思わず答えてしまった小狼は、忍者の『気』がピシッと凍ったのを感じてびくん、となった。
(・・・・俺、何かまずい事でも?!)
必死で考えるが、どうにも思いつかない。
進むのを辞めた『時間』。
「買ってきたよ〜〜!」
動けなくなった小狼を、底抜けに明るいファイの声が救った。
『気』が少し緩んだのを感じて、小狼はほっとため息をつく。
「早く宿に帰って、花火やろうよ!」
「ガキか、てめぇは。」
「黒ぽんのほうが『ガキ』で〜〜す!」
「んだと、コラァ!!」
追いかけっこは日常茶飯事。
さすがにもう慣れっこになってしまった。
その『時間』を何処か皆は楽しんでいて。
あっという間に宿に着く。
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旅の夜空に花火が煌く。
「振り回すな!危ねぇだろうが!!」
「わー♪」
「ちったぁ人の言う事、聞きやがれ!!」
怒鳴り声がはなはだしく情緒を阻害するとは、絶対に口には出せないが。
軒先につるした風鈴が、チリリ、と澄んだ音を奏でる。
緩やかな、優しい時間。
皆にとって、それはあまりにも『贅沢』な、ゆとりの時間。
(『これ』を失う事に、耐えられるだろうか?)
『時の魔女』にとって、これは大きな『賭け』。
『人』に心を『許してしまった』事を。
(後悔はしたくない。)
チリチリ、チリチリ。
風鈴の澄んだ音色は、何処までも儚げだった。
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