うさうさはね、寂しいと死んじゃうの。
「お前は、ウサギ。」
「お前は、ウサギ。」
「お前は、うさうさ。」
「お前は、うさうさ。」
「うさうさは一人ぼっち。」
「うさうさは独りで寂しい。」
「うさうさは。」
「うさうさは。」
「死んじゃうよ。」
「死んじゃうよ。」
「――――――――――死なないもん!!」
周りのざわめきが、ぴたりとやんだ。
「モコナ、うさうさじゃない!独りじゃない!!だから、『死なない』!!」
声を限りに叫ぶ。
誰も、聞いていない。
誰も、返事をしない。
それでも。
「モコナ、皆を探すの!!絶対、大丈夫なの!!」
大きな、大きな、キノコが、揺れた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
ペタン、と座り込んだ。
「モコナ、切なーい・・・・・。」
お腹がぐう、と鳴る。
さっき叫んだせいだろうか。
でも。
「行かなきゃ。」
探す為に。
「皆もきっと、この世界のどこかにいるの!!」
よいせよいせ、と大きなキノコによじ登る。
「遠くが見える?」
しかし期待したほどではないとて、がっかりとした。
「うさうささん、ため息ばっかりついてると幸せが逃げるよ。」
にしゃしゃ、と笑い声がする。
はっとして見れば。
「――――――――――ファイ!!」
「それは誰?オレは誰?オレは知らない。誰かは知らない。」
まるで謎かけ問答のような。
しましま模様の服を着て。
頭には、ネコ耳がついている。
「ファイ、ネコさんになっちゃったの?!」
「オレはここにいる。オレはここにいない。信じたものは見える。見えたものは信じない。」
理解しがたい言葉を残し。
ファイ――――――――――しましま模様のネコは、するりと消えていく。
「・・・・まるで『チェシャ猫』みたいなの・・・・・。」
解ったのは――――――――――『同じ姿をした』『違う存在』は、自分の事を知らないようである、ということだけ。
モコナの耳が、シュン、としおれた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
長い耳を引きずるようにして、モコナがたどり着いたのは。
「・・・・お城?」
お邪魔しまーす、と声だけはかけた。
小さなくぐり戸を入れば、そこは庭であるようで。
生垣には綺麗な真紅のバラが咲いている。
「キレイー!!」
ふわ、と心が軽くなる。
綺麗なものを見た時。
美味しいものを食べた時。
優しいものに出会った時。
モコナの心は鞠のように弾むのだ。
ピョンピョンと跳ねながら、生垣に沿って進む。
向こうの方に、脚立に乗ってなにやら手入れをしているらしい人影が見えた。
「こんにちは・・・・・・・・小狼?!」
四角いトランプ模様の服を着た小狼は、それこそ必死の形相で作業をしている。
「小狼!何をしてるの?!」
「え?!何だ?!邪魔をしないでくれ!!こっちは大変なんだ!!」
「・・・何が?」
「見て解らないのか?!バラの花の色を塗っているんだよ!!」
ペタペタペタペタ。
白いバラを真紅に塗っている。
「どうして真っ赤にしちゃうの?真っ白で綺麗なのに?」
「お前何も知らないんだな!!我らが女王様は赤がお好きなんだ!白はもっともお嫌いな色なんだよ!」
「・・・・・・・・?」
「ここのバラは全部赤のはずだったのに、1本だけ白が混じってしまったんだ!!」
「だから塗っちゃうの?」
「もしこれが白バラだと知れたら、俺は・・・・・!!」
どうなるの、と聞く前に。
「まあ、見事に咲きましたね。」
――――――――――それは、懐かしい、声。
「サクラ!!」
「あら?お前はだぁれ?見かけない顔ね?」
モコナの耳が、びく、となった。
(サクラも――――――――――モコナの事・・・・・。)
その反応をいぶかしむでもなく、サクラ――――――――――女王は、バラの花に視線を戻す。
にこやかな顔が。
――――――――――さあっと険しくなった。
「何てこと!!バラが『白い』!!!」
小狼ははっとして顔を上げた。
(確かに全部塗ったはず・・・!)
しかし女王の視線の先を辿って、その顔が驚愕に歪んだ。
1枚。
たった、1枚。
花びらが塗り残され、それが余計に白さを際立たせていた。
「も・・・・申し訳ありません!!女王様!!」
小狼は額を地にこすりつけた。
しかしサクラ女王は足踏みをして怒りを表す。
「冗談じゃない!お前は私を愚弄する気なのか?!」
「め・・・滅相もございません!!決してそのような・・・・!」
「言い訳は聞きたくない!お前は処刑だ!!」
「『処刑』?!」
それは、小狼とモコナの口から同時に発せられて。
たちまち兵士が現れ、小狼を傍にあった樅の木に括りつけた。
「やめて!サクラ!小狼を許してあげて!!」
サクラが、小狼を『処刑』するなんて。
そんな哀しい事を、見なければならないというのか。
必死で懇願するモコナを押しのけて。
サクラ女王は凛として命令を下した。
「やれ!!」
「やめて――――――――――っ!!」
モコナはその大きな耳を塞いで叫んだ。
「やめて!サクラ!!やめて、お願い!!」
「私に逆らうのなら、お前も同罪だ!!」
兵士たちがモコナを捕まえようとして近づいてきた、その時!
「・・あ・・ひ・・・・ひぃッ・・・・や・・・やめて・・・・あはは・・・・・!」
何事かと見遣れば。
「あはは・・・や・・・やめ・・・・・!!」
「それ!もっとやれ!何をしている!到底足らぬぞ!!」
「わぁっ・・・・お・・・お願いで・・・・や・・・やめ・・・あはは・・・・・ひいぃ・・!!!」
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ。
木に括りつけられた小狼の脇や首筋、わき腹といった辺りを。
もふもふとした綿帽子のようなものでくすぐっているのだ!!
「それでは足らぬわ!お貸し!!」
サクラ女王は兵の一人からひったくり、命じて小狼の靴を脱がせた。
そしてその足の裏を念入りにくすぐり始めた。
「・・・あ・・・あはは・・・!じ・・・女王様・・・!!お・・・おやめくださ・・・・あはは!!」
「何のまだまだ!それそれ!!」
「あ・・あひ・・・・!も・・・申しわけありま・・・!!ひい・・・・!!」
半ば絶叫しつつ、笑い転げる小狼。
モコナは呆然として『処刑』の様子を見ていた。
「『処刑』って・・・・・・『くすぐりの刑』・・・・?」
「それ!そこのウサギも捕まえよ!!」
忘れていてはくれなかった。
それっとばかりにモコナめがけて兵が殺到してくる。
いくら『くすぐりの刑』といえども、少々度がすぎている。
つかまったが最後――――――――――。
モコナは必死で逃げた。
前方に大きなキノコの林が見える。
「キノコをお食べ。」
走っているその真横に、『空間に浮いて』チェシャ猫――――――――――ファイが笑っていた。
「あの黒いカサのキノコをひと口お食べよ。そうしたら身体が大きくなって捕まらなくなるよ。」
「・・・・ありがとう、ファイ!!」
そのままの勢いで黒いカサにカプリ、とかじりついた。
「あ?誰だ?てめぇは??」
その声に驚いて。
思わず口を放し、ぽたり、と地面に落ちた。
「何処のどいつだ?名乗りもしねぇでいきなりかぶりつくたぁ、どういう了見なんだ?!」
「・・・・・・・・・・・・。」
キノコ、だが。
自分を見下ろしているのは――――――――――。
黒鋼、だった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「黒りんを食べたら大きくなれるのー!!」
「なに寝ぼけてやがるんだ、てめぇはぁっ?!」
ボカ!!と頭を殴られて。
モコナははっとして目を開けた。
「黒りんを食べなきゃ、『くすぐりの刑』になっちゃうのー!!」
「何の話だ!!」
「・・・・・・・・・・え?」
きょろきょろ。
自分を心配そうに見下ろす、仲間たち。
「モコナ、夢でも見たの?」
「・・・・ファイ・・・・。」
「ものすごくうなされてたのよ?」
「・・・・・・・・サクラ・・・・・・。」
「身体なんかぶるぶる震えてたよ?」
「・・・・・・・小狼・・・・・。」
「挙句の果てには『俺を食う』だと?!」
「・・・・黒りん・・・・・・・・。」
良かった。
夢だったのだ。
――――――――――でも。
(夢で見るのは、その人の本質を表してるって、昔クロウが言ってたような・・・・・・・・・・?)
では。
――――――――――仲間たちの、『本質』は?
モコナの周りに、確かに『冷たい』風が吹いた。

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