「 熾 天 使セラフィム の ル ー レ ッ ト 」




「お客様の負けです。」

死の宣告。
テーブルに付いていた客の首が、がくりとうなだれる。
それとても、ありきたりの光景。
ここは、カジノ。
天国と地獄が共存する所。
いや、地獄の割合の方が多いであろうとは誰しも認めるところなれど、そうと知ってなお。
人はここに足を踏み入れる。

恐れにおののきながら。
甘美な夢に酔いしれながら。



―――――――――――――― * ―――――――――――――


公的に認可されているのかどうかも疑わしい。
しかしここの人気は絶大であり、ここに来る資格があるというだけで評判になる。
一種のステータスシンボルとでも言おうか。

富と。
名声と。
そして幸運と不幸を同時に引き連れて、客はやってくる。
ドアが開き、一歩踏み出したその歩みを続ける事をほとんどの者がためらう。

紅い、光。

黒服に身を包み、その紅玉の目に冷たい光を宿したSPが1人佇んでいる。
その姿に、まず立ち止まる。
威圧感。
階段上から睥睨するかのように見下ろすその眼光に、萎縮し、震えだす者は多い。
そしてそのSPはほとんど言葉を発する事無く道をあける。
いや。
彼は、『動いていない』。
階段の上、壁に近い位置に立っているだけなのだ。
地獄の番犬もかくや、と。

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身の縮む思いをして歩みを進めれば。
足首まで埋まろうかという赤い絨毯が、そして夢の空間が待っている。
その辛辣とも言われる手腕ゆえに『魔女』と称されるオーナーの趣味か。
豪奢なシャンデリアに煌く光が白い壁に幻のような影を映す。
客は思い思いにスロットルで一攫千金を夢見たり、カードに人生を賭けたりする。
その中で特に人気のあるのが『テーブルゲーム』。
いくつかのテーブルにはそれぞれに客が居る。

――――――――――が。

いつも人だかりが途切れないテーブルがあった。
席に着くのは、資産家の令嬢であったり、大富豪と称せられる者であったり。
いずれも熱を帯びたような目をして、うっとりとディーラーの顔を見つめている。
ノワールの15。・・・お客様の負けでございます。」
慇懃無礼な口調は氷のような響きを伴って。
カクリ、と肩を落とし、なおも未練がましそうに席を立つのを渋る客は、背後にSPの剣呑な空気を感じて慌てて立ち上がる。
財布が空になった者は、テーブルから離れるのがマナー。
1人、また1人と席を離れれば、我こそはと意気込む者が代わりに席を埋める。
「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりとお楽しみください。」
にこやかにかけられる声は、これから始まる凄まじいまでの勝負を微塵も感じさせない。
見ればシャンデリアの光をその金糸に受けてキラキラと輝いて。
『氷の熾天使セラフィム』と異名を取る、美しきディーラーがそこに立つ。
誰もがその姿にぼう、となる。それを知ってか知らずか、玲瓏たる顔にかすかな微笑を浮かべている。
この微笑みを見ただけで、一体何人救護室や救急車の世話になった者が居ただろうか。
白く細い指が、つい、とテーブルを滑った。
「今夜はどのゲームでお楽しみになりますか?」
「ルーレットで。」
「かしこまりました。」
繊細な動きでチップを用意する。客は次々と賭けていった。
「では、参ります。」
ヒュン、と軽い音を立てて、ルーレットが回り始めた。
続いて天女のような仕草でボールがからりと投じられる。
「15に500。」
「黒に300お願いしますわ。」
「赤の30に200!」
一通り出たと見て、ディーラーはすう、とテーブルを撫でた。
「ノー・モア・ベット。よろしゅうございますね?」
客はただ頷くのみ。やがて回転が緩やかになり、ボールはカランとポケットに収まった。
ルージュの27。お客様の負けでございます。」
そしてまた悲鳴と嘆きがこだまする事になる。



―――――――――――――― * ―――――――――――――


「――――――――――聞こえるか。」

微かな、微かな声。
SPは呟くように言った。
インカムは見た目にも、そして機能的にも邪魔にならないように、可能な限り小さくなっている。
耳の中に、それこそ補聴器のように小さく。
上着の襟元の裏側に、薄く。
イヤホンはひずみが極力抑えられているし、マイクは微かな声を拾うよう指向性が持たせてある。
ほとんど口を動かさなくても会話は可能。
――――――というよりは、客を目の前にしての私語は悟られてはならないというだけの事だ。
「聞こえるよ。」
白皙の天使は視線を客に向けたままで答えてくる。
「そろそろ終わりだが、この後どうする?飯でも食いに行くか?」
本来なら賄が出るのだが、今日はコックの四月一日が風邪とかで休んでいる。食事に期待は出来ない。

「いいね。あそこのイタリア料理の店にしようよ。予約しといてくれる?」
「いいかげん兄弟だって認めろよ。」
「聞こえないなあ。」

カジノの近くに、新しくオープンしたイタリア料理の店がある。
ここのオーナーシェフはユゥイといって、これがまたこのディーラーとそっくりなのだ。
双子か、と問えば。
2人とも、さあ?と明確な答を避けた。
何がしかの事情があるのだろう、とそれ以上の詮索はしていない。
だが資質的なものはやはり同様と見えて、客はほとんどが一番高いコースを選ぶ。
このコースの時のみ、デザートの前にユゥイが挨拶しにテーブルにやってくるのだ。
値段も結構立派だが、味の方も申し分ない。
それに美しき天使の如きシェフが声をかけてくれるとなれば、誰もが。
「てめぇの奢りでな。」
「いいよ。このおっさん、すぐに終わらせるから。」
SPよりもディーラーの方が羽振りはいい。
ディーラーの目の前には、必死の形相でチップを数えている初老の男が座っていた。
「あ、そうそう、さっきオーナーから連絡あったんだけど、ホテルの最上階のスイートルームヨロシクってさ。」
「・・・またかよ・・・・・。」
何のためにスイートルームを使うのかが解っているだけにため息しか出てこない。
それでもホテルとレストランに予約の電話をかけている辺りが奉公人の辛い所だ。
「予約OKだ。」
「サンキュー。じゃあとっとと終わらせるよ。」
ディーラーはにこやかに男に向き直った。
「これで今夜のオレの時間も終わりです。最後のゲームはどれになさいますか?」
悲鳴のようなため息がギャラリーから漏れる。それににっこりと答えてみせて。
「・・・じ・・・じゃあ・・・『チャック・ア・ラック』で・・・・!」
「かしこまりました。」
典雅な仕草でケージをセットする。
「では、どうぞ。」
男はうんうん唸りながら、それでも『2』と『5』と『6』に賭けた。
「参ります。」
ゆっくりと取っ手をひねる。ケージは回転し、中で小さなダイスが踊った。
すう、とケージが止まり、中のダイスは暴れるのをやめた。

「『1』と『4』と『1』でございます。残念でございました。」

獣のような唸り声を上げて男は突っ伏した。
そのまま顔を上げれば、目に狂気が宿っている。
「・・・勝てば・・・・お前に勝てば、1日執事役をやってくれるんだろ・・・・?」
「さて、そんなお話がありましたかどうか。それにお客様は『負け』・・・・。」
「いかさまだぁ――――――――――っ!!」
猛然とディーラーに掴みかからんとした男の身体は宙に浮いた。
「?!」
「お客さん、見苦しい真似はよしていただこう。」
SPは軽々と男をひっかかえると、そのまま階段をすたすたと下りていく。
「一昨日来るんだな。」
ぽい、と。
道路に放り出された男の目の前で重厚なドアはばたん、と閉じられた。

保存禁止



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「はぁ〜〜〜・・・気持ちいいわぁ・・・・・。」
「極楽です〜〜〜・・・・。」

最高級ホテルの最上階。いくつものサブルームを持つこのスイートルームは、1泊100万とも噂されている。
その巨大ともいえるベッドの上に突っ伏すのは、白皙のディーラーと。
黒い髪を惜しげもなく散らした美女。
いや、見た目だけで判断してはいけない。
この美女こそがカジノのオーナー、『魔女』の異名を取る稀代の――――――――――。
「悪女、かしらねえ?」
コロコロと笑いながら起き上がり、サイドテーブルに手を伸ばす。
そこにあるのは、高級酒としてはあまりにも名高い『ドンペリ』。
ぐび、と喉を鳴らして飲み干す。
「高い酒なんだから、もうちっと味わって飲めよ。」
「貧乏性ねえ。そんなのだから出世しないのよ。」
「放っとけ!!」
文句をつけながら、その手は休む事無く動いている。
「あ〜〜黒たん〜〜そこそこ〜〜もうちょっと右〜〜〜。」
「ファイはうちの花形なんだからね。しっかり肩の凝りもほぐしてもらわないと。」

何処の世界に、わざわざ最高級ホテルのスイートルームでSPにマッサージをさせる者が居るというのか。

「ここに居るわよー♪」
そのノリですでに酔いが回っていると知れる。
「ディーラーって、結構緊張するんだよね〜〜終わったら体中ガッチガチ〜〜〜。」
ではずっと立ちづめのSPはどうなのか、と。
その一言を口に出せないのが口惜しい。
「でもオーナーがこうやってここを使ってくれるから黒たんも恩恵受けてるでしょー。」
「・・・・・何が。」
「黒たんもサブルームのふかふかベッドで寝られるじゃないー♪」

そうなのだ。
SP程度では、固いスプリングがぎしぎし悲鳴を上げるようなベッドしか与えられない。
宿舎があるだけマシだと思うが、それでもその待遇の低さは否めない。
かと言ってディーラーを務めるほど器用でもない。
せいぜいその強い力と、たまたま覚えた整体の技術で媚を売る事しか出来ない。

いつか、きっと。

「『いつか』があるといいわねぇ〜〜。」
全てを見透かして。
それ故にこの人は『魔女』と呼ばれるのだと、改めて思い知るのだった。

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仕事でへろへろになりつつも、明日は祝日だーやっと休みだー・・・と。
ここの所自重していたネサフを少し・・・するとチャット開催のお知らせが。
覗いてみると、おぉ!素敵絵師様方がお揃いで。
1度は回れ右をしたものの、そうだ、ご挨拶だけして落ちよう、とこそこそ入室・・・・・。
落ちたのは午前2時半でしたが何か?(苦笑)
いやなにがスゴイかって、どうしてあんなにさらさらと描けるのかと・・・・。
文字茶のほうで、『ファイさんは凄腕のディーラー』とか。
『黒様はSP』とか。
ノッて、絵師様方がお描きになる・・・そこへ主催者様の魔の声(笑)が。
「これで書けませんか?」
既にその段階で構想が浮かんでいた私。自重何処吹く風、『あ、書けますね』と軽く返事・・・。
書く事になり。(爆)
「カジノっぽい背景画像をご存じないか?」と尋ねたら、解らない、とのお答えが続々・・・・。
絵師様方に聞いた私があまりにも何というか、愚問だったというか・・・。σ(^◇^;)
挙句にこの絵で書くといって許可をもぎ取り(無理やり)今回のSSになりました。
ああ!!素敵絵を汚した感がひしひしとっ!!
そんなこんなで思いっきりの突発です。現実逃避に大いになりました♪(こら)
主催の風海聡様、イラストを描いて下さったねづ様、sarasara様、ありがとうございました!
そしてチャットに参加していた皆様、色々とKYで済みません(平伏)
これからもよろしくお願いいたします・・・。(深々)

           作者・シュウ   2008.03.20UP

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