インフィニティを後にし、赴く先はすでに確定していた。
セレス。
ファイの故郷であり、サクラの身体が移動した場所。
『絶対に帰りたくない』とまで言い切った場所。
次元移動から出た、まさにその時、その瞬間に。
黒鋼は確かにファイの息をのむ音を聞いた。
覚悟を改めるために、深呼吸をする音。
後悔と怖れに押しつぶされそうな自分に怯える音。
セレスには吹雪が舞っていた。
――――――――――― * ――――――――――
砕け散る、ガラスの破片。
一つ一つが残酷なまでに克明に映し出していた。
手を握り合った双子。
壁をよじ登ろうともがく長髪の少年。
老人のように干からびた唇で、うつろな言葉を紡ぐその顔には死相が漂っている。
『あの男』の声に『答えた』その瞬間。
落ちてきた、双子の片割れ。
一転してセレスで『護られて』過ごす日々。
災厄を取り除くために魔力を遣ってみせる少年魔術師。
一生懸命に魔法書を読みふける姿。
何だ、これは。
確かに一部は実際に過ごしてきた真実の記憶かもしれないが。
第三者の目から見れば、あまりにも明らかな、その矛盾。
何故気づかない?
気がつけよ!お前は惑わされているだけだ!
目の前の美しき王に対して怒りがふつふつと湧き起こる。
何が楽しい?
何が目的だ?
こいつを惑わし、間違った方向に導く、その真意は?
だからといって魔術師の頭の中なんざ、解りたくもねぇんだが。
――――――――――― * ――――――――――
床に思いっきり頭を叩きつけてやった。
多少怪我したって、どうってこたぁねぇ。
むしろ目が覚めるだろう。
真実を見ろ。
肝心なのは、そのものの『本質』だけ。
瑣末の余所事なんざ関係ねぇんだ。
俺はお前を『生かす』と決めた。
だからその責は全て背負う。
お前が生きる事で苦しむなら、俺を恨め。
過去がどうした。
自分の選択が、どうした。
どんなに悔やもうが時間は返らない。
消えた魂は戻らない。
解っているはずだ。
お前は、理解している。
叶わぬ望みにすがってこれ以上道を誤るな!
――――――――――― * ――――――――――
セレスに降り立った、紅の劫火。
記憶を焼き払い、全てを終焉へと誘う。
それすらも『あの男』にとっては計算の内だったのだろうか。
違う。
それだけは、はっきりとしている。
この旅で、皆変わった。
その変化がもたらした『予測できない』事象。
オレの変化もそう。
小狼君も。
サクラちゃんも。
そして―――――――黒鋼、も。
王の身体が血に染まり、その魂が天に還った。
ファイも―――――――ようやく、眠った。
眠らせてやれ、と。
言われなかったら、オレは、一体どうしていただろう?
オレは――――――――――オレは。
「オレ、生きていていいのかな・・・?」
「てめぇの過去なんざ関係ねぇよ。」
オレは、生かされている。
紅の、炎に。
命の、色に。
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