「あ。」
いつものようにモコナが次元の壁を越えて運んでくれる。
その次元転送の風に包まれる一瞬、微かな光が差してきた。
一瞬。
「玉響、とも言うな。」
以前黒鋼が自国の言葉を説明してくれた時に聞いた言葉。
ほんの僅かな一時の事をさす言葉は?
質問に対する答は、とても美しい響きを持っていた。
(玉響・・・・・。)
今まさに、その瞬間。
小狼の右目が光を反射した。
小狼の右目が光を宿さないと知ったのはかなり経ってからの事。
最初に気付いたのは黒鋼だった。
「私・・・言わなくても良いかなって・・・・。」
サクラは俯いて言った。
「黒たんって、『見て無い様で見てる人』だよね。」
サクラも、そして自分自身も納得する。
あの紅い瞳は、何もかも見透かしているかのよう。
時々、怖いとさえ思う。
――――――本当は、優しい人なのに。
サクラを何時も見つめている、まっすぐな瞳。
栗色の瞳は、迷いを見せない。
どんな困難な状況にも、絶対に後戻りしない。
――――――想う人のため、に。
その想いは痛いほど。
一度だけ、訊ねた事がある。
「・・・つらくない?重くない?」
笑って。
「そんな事、考えた事も、感じた事もありません。」
でもその瞳に、哀しい色が見えたのは、見間違いじゃない。
それも、一瞬。
玉響の、哀切。
オレにはどうする事もできない。
「んじゃー、せめてがんばるワンココンビにはおいしいご飯を用意してあげますかー?」
ことさらに明るく。
サクラの顔も少し明るくなった。
「今日は何にしましょうか?」
「んーとねー・・・温かいポトフにー、パンはちょっと固めのをね。それと・・・・。」
卵でココット、温野菜のサラダを添えて。
「ドレッシングはよく混ぜてねー。」
「はい!!」
カシャカシャ、音はリズミカルに。
ねえ、サクラちゃん。
こんな『幸せなひととき』っていうのもね。
・・・・『玉響』の幻、って言う人もいるんだよ・・・・。
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