時間というものが、こんなに長く感じられたのは初めてかもしれない。
「待つ事は、とても大事な事ですわ。」
知世姫はどこまで解って、この言葉を口にしたのだろう。
黒鋼が、眠り続けている。
もちろん、起きたところで痛みにのたうつだろうから、今は眠っている方がいい。
いや正確には、『眠らされている』。
薬草から作る痛み止めの薬に、ここまで強い鎮静作用があるものがあるとは知らなかった。
おかげで昏々と眠り続けて、はや幾夜。
もちろんその間に回復はしている――――――――眠りは最高の薬だから。
でも。
『待っている』こちらは一体どうすればいいのだろう。
もちろんオレも小狼君も傷を負ったから、その治療が施されている。
小狼君のほうが重傷だと思っていたけれど。
「貴方の方が、身体の中からやられています。とにかく安静に。」
そう言われて、そういえば血を吐いたなあ、なんてぼんやりと思い出した。
遣えば遣うほど、オレの命を縮める魔力。
オレなんか。
雪と氷の、今は誰も生きとし生けるものとて無い世界で朽ち果てればよかったんだ。
どうして。
どうして自分の片腕を切り落としてまで、オレを引っ張り出したの?
「お解かりになりませんか?」
知世姫が笑う。
「ちょっと・・・・どうにも・・・・。」
率直な所を白状すれば、静かにころころと笑いを零した。
「ファイさんは、まだお解かりではないのですね。」
「何をです?」
「黒鋼の、心の内を。」
「黒様の?」
――――――――――心の、内?
「貴方は大切な『仲間』なんですのよ。」
今夜の月は、少し欠けている。
「黒鋼は、もう誰も自分の目の前で死んで欲しくないのです。」
諏倭で、父を母を、同胞を故国を目の前で失ったから。
「今まで失ってきたものが大きすぎるのです。」
今までの価値観、そして未来をも覆され、閉ざされて。
「その時の想いは、今なお魂に楔となって打ち込まれたままですから。」
ただ絶望しか残らなかっただろう、少年の日の忌まわしき思い出。
「だからもう、誰も失いたくはない。それはサクラ姫も、小狼さんも同様に、です。」
水庭に月が映える。
ゆらゆらゆらゆら。
これは、オレの、心?
「この旅が終わった時、笑って別れる事が出来るのなら黒鋼は何も言いますまい。」
ゆっくりと、オレに薬湯を煎じてくれた。
はっきり言ってかなり苦いけれど、そしてかなり熱いけれど、我慢してそっと飲む。
「しかし戦いの中で、死に別れる事をこそ、黒鋼は厭い、避けようとしています。」
ちょっと舌を火傷した。ぴりりとした痛みが神経を走る。
「その為には、自ら死地に赴く事も厭いますまい。・・・・黒鋼は本当はそういう人間なのです。」
ねぇ、黒様。
君はいい主君を持ったよね。
ここまで君のことを理解してくれる主君なんて、そうそう居ないと思うよ。
アシュラ王は、きっとここまではオレのこと理解してくれていなかったと思う。
君こそが、本当は幸せな人なのかもしれないね。
こんな話をしたこと、内緒ですよ。
えぇ、もちろんですわ。
知ったら、きっと怒って追い掛け回しますから。
あらあら、そんなに元気なようでしたら、もう大丈夫ですわね?
あ、じゃあ、わざとそういう方に向けてみようかな?
ホホホ、きっと蘇摩が困るでしょうから、それは止めにしておきましょうね。
解りました。
君が目覚めるまで、後数刻だね。
目覚めたら、とにかくやろうと考えてる事があるから、楽しみにしていてね。
オレは今、ものすごく『楽しい』気分だよ――――――――――。
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