あの気配には、覚えがある。
そう、あれは。
確か、『月の城』で。
夜魔ノ国に半年も前に落ちた俺たちは、とにかく『生きる』為に兵隊になった。
もちろん、『呪』がかけられているから、『人殺し』は出来ない。
だが、相手の動きを封じ、戦闘能力を奪うぎりぎりの所まで傷つけるのは簡単だ。
意外な事に、あのヘライのも、弓が巧みで同じように戦果を上げていく。
俺達はあっという間に、王の傍に侍する事を許されるまでになった。
ま、俺としては当たり前だが。
王は、強い。
美しいとさえ思わせる風貌に似合わず、その技は凄絶さを極める。
強い奴は、いい。
傍に在っても、快さすら覚える。
根っからの戦好き、という事なのか?
否定はしない。何時も『死』と隣り合わせで生きてきた。
この『命』を張って生きてきた。
その気概と自負がある。
―――――ま、あのヘライのはどうかは知らないが。
そんな折、今まで何もわからなかったヘライ奴の言葉がすっと入りこんできた。
「黒たん、・・・あれ?皆の言葉が解るよ・・・?」
顔を見合わせた。
「・・・・モコナが近くにいるんだね。」
ぐるりと見渡せば、彼方に、阿修羅王。
そして。
どう見ても戦装束とは思えない、姫と小僧がいた。
「・・・・やっと来やがったか・・・・。」
思わず呟いてしまう。ヘライのも同様であったようで。
「でも・・・『此処』から離れたら、きっとまた通じなくなるね。」
それはそうだ。では?
答える代わりに、じっと小僧を見た。
あいつなら、きっとここに――――『月の城』に帰ってくる。
『旅の仲間』にそっくりな、『黒い瞳』をした俺たちに会う為に。
いい機会だ――――知らぬ振りで打ち合ってみるのも悪くない。
「どうして――――――?」
剣を使わない奴には解らないだろう。
『実戦』こそが上達の為の最も有効な近道であると。
そして、やはり『小僧』は来た。
だが。
2度目に打ち合った時、『何か』が違った。
小僧自身も何が何だか解らなくなっているらしい。
俺が打ち込んだ剣圧を受け止めた、その手にかかる力が『変わった』。
「!!」
次の瞬間、小僧は今までない力と技で、俺の剣をはじき返した。
不覚にも、吹っ飛ばされる。
見れば、小僧は呆然と剣と自分の手を見つめていた。
自分でも理解できない『何か』が働いた、とでも言うように。
何かが、小僧の中に『居る』。
小僧とは対極の存在に思える。
言うなれば、それは、『氷』。
冷徹な『戦士』。
本が好きでたまらない『小僧』。
羽を取り出した、本を無造作に投げ捨てた『何か』。
二重人格?
憑依?
正体がつかめない。
解っているのは、『それ』が、感情らしき物を持っていないらしい事。
戦闘能力がかなり高い事。
そして。
『敵に回すと危険』な、『敵』である事。
『友好』な『気』が全く感じられない以上、『敵』と判断せざるを得ない。
だが。
『それ』は小僧の『中』に居る。
厄介な事が、また一つ増えた。
―――――――『小僧』を『敵』に回したくはない・・・・・。
|