<時を想う7つのお題−喪失編−  〜黒鋼篇〜>

  「 想い出と呼ぶにはまだ早い 」



『想い出』として片付けるには、あまりにも深く刻み込まれていた。
『想い出』として記憶の彼方に押しやるには、己に影響を与えすぎていた。

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せせらぎに跳ねる銀鱗。
そこかしこから聞こえる、子供たちのさんざめく声。
平和な時間。
よしんばそれが表面的なものであったとしても、刹那を生きる子供には関係のないことだ。
明日がどうなるかわからない。
一瞬後がどうなるかもわからない。
そんな事はどうでもいい。
今のこの一瞬が楽しく、実りあり、充実していれば、それでよかった。
夢で未来を見ることが出来ない者にとって、今のこの一瞬こそが全て。
笑って。
怒って。
悲しんで。
そしてまた笑った。
穏やかで、穏やかで。
それを奪い取ったのは誰だ。
諏倭の地を炎で焼き払ったのは誰だ。
あいつか。
母上を刺した、あの男か。
ふつふつと湧き上がり、やがてとぐろを巻くように魂の奥底に溜まる心。
それは自分の道を歪めるに足る力を持っていた。

だが、ふとした弾みに、一瞬影が走る。
うろこが弾いた光なのか。
風が運んだ花の香りなのか。
それとも。

忘れえぬ、父の、母の声なのか。

まだ早い。
想い出にしてしまうには、まだ早い。
俺に区切りがついていない今は、まだ。
俺には為さねばならないことがある。
俺には立ち向かわなければならない問題がある。
それが全て終わったら。

『キオク』は美しい形で昇華し、『想い出』になるだろう。

俺はまだ。
道半ばで彷徨う迷い子だ。

まだ――――――――――遠い。



諏倭での体験があまりにも大きな傷を残してしまったが為に、黒様も苦しいと思います。
彼自身納得がいく形で事態が解決しない限り、前に進む事は出来ないでしょう。
父上の事も、母上の事も。
彼が笑って諏倭のことを話せるようになるのはいつの事でしょうか。
そんな日が訪れて欲しい――――――――――心からそう思っています。

           作者・シュウ   2009.07.08UP

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